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そもそもOBD2とは何なのか?
2021年、二輪業界の注目ニュースのひとつが原付二種クラス、ホンダ・グロムの大幅進化だろう。エンジンは新開発されたロングストロークタイプの排気量123ccとなり、トランスミッションは5速へとグレードアップした。さらにカスタマイズしやすい外観を得たことも特徴だ。
そんな新型グロムのメーカー希望小売価格は35万円(税抜き)となっているが、2013年のデビュー時には29万5000円(税抜き)、2016年に外観が大幅変更されたときは32万円(税抜き)だったことを考えると、ずいぶんと高くなってしまった印象を受ける。
新エンジンの開発やABSの標準装備化など価格アップの背景はいくつかあるだろうか、新型グロムにOBD2が採用されたこともその一端かもしれない。
OBDとは「オンボードダイアグノーシス」の略称で、日本語で表記すると車載式故障診断装置となる。排出ガス低減対策のために世界的に導入が進んでおり、エンジンやトランスミッションなどを統合制御するコンピューター「ECU」と繋がることで、記録されたエラーコードから故障原因を探るのがその主たる機能だ。
そして、OBD2は故障診断装置の国際規格といえるものであり、この規格の故障診断装置を搭載している車両については故障コードの多くがルール化されており(*)、汎用のスキャンツールでデータを読み取ることができる。
*OBDでは各自動車メーカーで故障コード、接続コネクタの形状などがバラバラだったため、OBD2からそれらを共通化(国際規格コード)してバージョンアップした。
いつからバイクのOBD2搭載の義務化が始まった?
すでに四輪車では当たり前となっているOBD2だが、二輪業界にもじわじわと広がっている。いや、正確に言えばほとんどの二輪車にOBD2が搭載される未来は確定している。
というのも、二輪車へのOBD2搭載について新型車は令和2年(2020年)12月から、継続生産車では令和4年(2022年)11月からOBD2の搭載が義務化となるからだ(原付一種は当面猶予が与えられる)。
排ガスの空燃比および窒素酸化濃度を測定するなどで触媒劣化を検知するシステムについては、新型車は令和6年(2024年)12月から、継続生産車は令和8年(2026年)11月から標準化することが決まっている。
なお、原付二種では新型車が令和7年(2025年)12月、継続生産車が令和9年(2027年)11月とそれぞれ1年の猶予が与えられている。
OBD2搭載の義務化によって新車価格は上昇するのか?
なぜ原付一種についてはOBD2の搭載が当面免除扱いとなり、原付二種では触媒劣化を検知するシステムの搭載に時間的猶予が与えられているかと言えば、OBD2の搭載にはコストが掛かるからだ。
単純にECUにエラーコードを吐かせることができればいいわけではなく、エラーを検知するためのセンサーも追加しなくてはいけないため、どうしてもコストアップの要因になってしまう。
前述のように、新型グロムの価格上昇のすべてがOBD2によるというつもりはさらさらないが、低価格なカテゴリーになるほどOBD2の搭載は価格上昇に大きく影響するのは間違いない。
逆にいえば、エンジンやトランスミッションにおいて高度な制御をしている大型バイクにはとっくにOBD2が標準搭載されていたりする。メーターにワーニング表示が出っ放しになったときなど、ディーラーや整備工場でパソコンのような機器に繋げてエラーを消していく作業を見たことがあるだろうが、そうした対応ができる車両というのは総じてOBD2を搭載しているものだ。
いまやキャブの時代ではない。インジェクションで燃料を噴射するエンジンの場合、メーカー独自の規格だとしても、ECUにつながる端子を搭載していないと修理はできない。
そうであれば、国際規格であるOBD2を採用することは当然の流れだ。
OBD2を搭載することでユーザーにメリットはあるのか?
OBD2の義務化は政府が一方的に押し付けてきたというより、そうした世界的なトレンドの中で自然に向かってきた結果だと受け取ることができる。
とはいえ、原付クラスをはじめ低価格帯のモデルにおいてOBD2の標準化による目に見える価格アップは避けられない。前述したようにエラーコードによって、故障箇所を可視化して修理がスムーズになるといっても、それは販売店や整備工場側の都合であってユーザーには関係ないと言いたくなるかもしれない。
もっともトラブルの原因特定が早まることは、整備にかかる時間を短縮するわけでそれはダイレクトにユーザーの負担軽減につながる部分はあるだろう。
また、四輪車ではOBD2から得られる信号を利用した様々なアフターパーツ(レーダー探知機やメーターなど)が多数登場している。OBD2端子からデータを書き込むタイプのECUチューン(ECUのプログラムを書き換えて、エンジン性能のアップを図るチューニングのこと)というのも珍しくはない。
実際、OBD2端子にブルートゥースで接続可能なスキャンツールを繋ぎ、そこから得られたデータをメーター表示として専用アプリを入れたスマートフォンに表示する二輪車用アイテムも存在している。
どんな車両にも取り付けられる汎用規格だからこそ、アフターパーツの価格も車種専用品に比べればグッと抑えられる。つまりOBD2の標準装備化を機にOBD2を利用したカスタマイズがリーズナブルに楽しめるのであれば、それはそれでユーザーのメリットになるだろう。
いずれにしてもOBD2の標準化はすでに動き出していて、いまさら止まることは考えづらい。OBD2搭載の義務化を否定するのではなく、そのメリットを理解しつつカスタマイズをするなど、有効活用していくのが「賢いユーザーの備え」であるといえるのではないだろうか。
レポート●山本晋也 編集●モーサイ編集部・小泉元暉