目次
ガソリン車のリッターバイクに勝るとも劣らない滑らかな加速
モビリティの電動化が進んでいるといっても、まだまだ日本のバイクユーザーはリアリティを感じていないかもしれません。ビジネスシーンでは電動バイクは増えていますが、いわゆるファン領域のモデルとなると電動バイクの選択肢は少ないからです。
そんな電動バイク事情ですが、いま日本で売られているモデルにおいて、最高峰といえるのがZEROモーターサイクルの「SR/S」でしょう。
アメリカで作られているフルカウルタイプの電動バイクは、最高出力82kW(110PS)のモーターを搭載。モーターの定格出力により大型二輪に分類されるモデルとなっています。
バッテリー総電力量は、14.4kWhと18.0kWhの2種類が用意され、前者の満タン充電航続距離は259km、後者は306kmを誇ります。最高速度は200km/hと、日本国内で乗るぶんには十分すぎる性能を持っています。
言うまでもなくモーターというのは発進加速に有利な出力特性ですから、110PSとは思えないほど鋭い加速を見せます。普段、ホンダのフラッグシップスーパースポーツCBR1000RR-R ファイヤーブレードに乗っている筆者が思わず息を止めてしまうレベルの加速といえば、その速さが伝わりますでしょうか。
固定変速比ですから、シフトチェンジによるトルク切れもなく、とにかくスムースに速度を上昇させていきます。計測したわけではありませんが、0〜40km/hの加速タイムを測ればガソリン車のリッターバイクよりも速いのでは、と思うほどです。


「ZERO SR/S」は17インチタイヤでシート高も低い
市街地レベルでいえば、取り回しのよさも魅力でしょう。
フルカウルモデルですが、ハンドルはアップ気味のレイアウトとなっていますし、シート高もカタログ値で787mmと車格のイメージからすると足つき性もよくなっています。
タイヤサイズが、フロント120/70ZR17・リヤ180/55ZR17となっているのも取り回しの良さにつながっている印象です。
バッテリーを積んでいることから車両重量も重くなっていると想像しがちですが、カタログ値でいえば229kgとリッターバイクとしてみるとけっして重いというわけではありません。このあたりも取り回しの良さに貢献しているといえそうです。
さらにバッテリー搭載位置の関係から重心は低く感じますから、安定感も抜群です。ラフにスロットルを開けてもドカーンと加速しないよう躾られているのも合わせて、電動バイクだからといってライディングを変えたり、配慮したりする必要はないと感じます。
というわけで、法定速度以下の話をまとめれば、電動パワートレインだからといって気を遣う必要はなく、加速感はリッターSS同等かそれ以上のレベルにあるといえます。


排熱がないのが電動バイク最大の魅力
なにより嬉しいのはエンジンからの排熱がないこと。
これだけレスポンスよく加速するエンジン(内燃機関)であれば、太ももやふくらはぎに熱さを感じるはずですが、電動バイクはそうした熱のストレスがありません。この一点を持って、CBR1000RR-Rから乗り換えたい! と真剣に考えてしまったほどです。
排熱から逃れることができて、エンジン車を含めてもトップクラスの加速性能を見せるというのは、SR/Sの大きな価値といえます。294万9800円というメーカー希望小売価格は絶対的には高価ですが、コスパ的な意味ではリーズナブルといえるのではないでしょうか。
だからこそ、前述したように筆者も真剣にSR/Sの購入を検討したのです。
電動バイクでは航続距離の短さを指摘する声もありますが、リッターSSのポジションでロングツーリングに出かけるのは筆者にとっては現実的ではなく、片道100kmの目的地に出かけることができるのであれば電動バイクでも機能的には置換できるというのも、SR/Sの購入をリアルに考えてしまった理由です。

トラクション性能は進化を求む
ただし現状でネックと感じたのはパワートレインに対してシャシー性能が負けていると感じる点です。リヤタイヤが180幅ということも影響しているのでしょうが、コーナリング中にスロットルを開けていくと、どこか心もとない感覚に襲われます。
モーターはトルクフルで、レスポンスが鋭いパワートレインです。だからこそ、存分にパワートレインを味わえるだけの高いシャシー性能が欠かせないといえます。
もっとも、SR/Sにはショーワのフルアジャスタブルサスペンションが採用されるなど、シャシー性能を手抜きしているわけではありません。
筆者が普段乗りしているCBR1000RR-R SPのオーリンズ電制サスペンションと比較して、物足りないという話であって、大型二輪市場の中で見れば十分に高いレベルにあるといえるでしょう。
正直な気持ちをいえば、CBR1000RR-RとSR/Sの2台をガレージに並べておいて、その日の気分で好きなほうに乗るといったバイクライフを送りたいと思っています。財布が許すならば「買いたい」というのが偽らざる気持ちです。
レポート●山本晋也 写真●ホンダ/ZEROモーターサイクル