コラム

サスが動く! ブレーキホースも再現!! リアルなのに作りやすいバンダイ「仮面ライダークウガ トライチェイサー」の設計思想とは

仮面ライダークウガ トライチェイサー2000 バンダイ

バンダイ驚異のメカニズム

ガンプラに代表されるキャラクター系プラモデルの雄、バンダイ。
昨今では大人がどっぷり楽しめる「マスターグレード」といった精巧かつ部品点数の多いガンプラもありますが、バンダイ=子ども向けというイメージを持つ人も少なくないのではないでしょうか?
また、乗り物のプラモデルをメインで楽しんでいる人にはそもそも縁遠い存在かもしれません。

しかし、タイトルの写真はバンダイ「仮面ライダークウガ トライチェイサー2000」の一部分なのです。このキットに関して、模型専門メディアnippper編集部・からぱたさんは「ホンモノのバイクのありかたを理解して設計されている!」と分析しています。

以下、実際に組み上げながら驚かされたという点について、からぱたさんのレポートを紹介します。


トライチェイサーが教えてくれたのは、難度やジャンルでプラモを推し量ることのナンセンスさ。

仮面ライダークウガの劇中に出てくるトライチェイサー2000というマシンなんですけど、これはもともとスペインのガスガスというメーカーが発売している「パンペーラ250」というバイクを改造したもの。スペインってオフロードバイクの競技がめちゃくちゃ盛んなのでスペイン製のオフ車っていっぱいある。

いや、普通の日本人がなんとなく「オフ車ね」みたいな感じで十把一絡げに捉えているバイクにもいろんなカテゴリがあって、エンデューロとかモトクロスとかトライアルとかでググると「そんな競技あんの!?」みたいなことになります。

さて、仮面ライダーは架空のお話ですけど、バイクはバイクです。パッケージイラストでドカーンと前に張り出して描かれている前輪を見ると、フロントフォークにはいっちょまえにブレーキワイヤがあります。いやいや、「キャラクターモデル」なんだからこれは流石に再現されてないっしょ……とオレも思ってたんですよ。

ワイヤー、ぜんぜん入ってた。黒いリード線を所定の長さでカットして、パーツに刻まれた溝にビシッとハメることで固定される仕様です。スケールモデルだとこういうワイヤとかホースってコシのない極細パイプが入ってて、グイグイ押し込んだり接着したりしているうちにクニャッと折れ曲がってしまってなんだかしなやかな雰囲気にならなくてがっかりすることがあります。

とはいえ「どっちがいい」というのもワイヤの取り付け位置の処理をどうするかで考え方は異なりますね。このリード線方式も見るべきところはあると思うので、なんなら普段から「スケールモデル」のバイクを作っているメーカーも真似してくれたらちょっとおもしろいなと思ったんですよ。自然な曲がり具合に調整できるしね〜。

タミヤ GSX-RRのチェーンとスプロケット。

さて、そろそろみなさんも気づき始めたと思うんですが、これはトライチェイサーの模型であると同時に、そのタネ車であるところの「パンペーラ250の模型」でもあるわけです。ちなみにこれはタミヤ GSX-RRのチェーンとスプロケット(歯車)です。組み立ての都合上一箇所だけチェーンが切れているところがあるんですが、基本的には「歯車がふたつあって、チェーンが動力を伝えているんだな!」という形状なんすよね。しかし!

バンダイ 仮面ライダークウガ トライチェイサー2000のチェーンとスプロケット。

これはトライチェイサー2000……というかパンペーラ250のチェーンとスプロケットです。よーく見るといちばん右側にはチェーンが彫刻されていないんですよね。丸いものがドライブスプロケット(ギアボックスから出てきた動力をチェーンに伝える小さい歯車)で、そこに巻き付いた部分は省略されているんだと思ってたんですよ。

そしたら、なんとドライブスプロケットとそこに巻き付いたチェーンはエンジンの横にドカッと彫刻されていました。さっきドライブスプロケットだと思ってたところはスイングアームの可動軸にあたるところで、ここからバンダイスピリッツの「可動!」という叫び声が聞こえてくるわけですよ。
「バイクはタイヤが回ってハンドルが切れるのと同時に、仮面ライダーの激しいアクションに応じてサスペンションが動かなきゃダメでしょうが!」というわけですよ……。

サスペンションはスプリングでムニムニ伸び縮みします。この写真で写っているところまでは、ほぼ完璧にパンペーラ250。接着剤が不要なだけで、組んでいる味というのはバイク模型なんだよね。なんせバイクは完成後もどこがどう動くか全部見えちゃうメカですから、「ここはごっそり作りません」みたいなことができない。

同じバイクのプラモでもタミヤとハセガワで設計思想が違うように、バンダイスピリッツもバイクにマジメに向き合って、さらにバンダイスピリッツなりの思想(表現したいこと)でもって、ホンモノのバイクのありかたを分解して組み立てられるようにする。そうしなければトライチェイサーを立体化出来ないのじゃ!という事実が、なんだか無性に嬉しいのです。

そして組んでいる方も「バンダイスピリッツだから簡単なんでしょ」みたいなことを思っていると、案外バイク模型で迷子になるところで「あれ、ここどう組み合わさるんだ!?」とちゃんと迷子になる。模型って接着するとか色塗るとかがそのまま「難しい」ということに直結してるんじゃなくて、やっぱり難しいモチーフに挑戦するとちゃんと組み立てが難しい(それが楽しい)ということになるんだなぁと思った次第。

逆に言えば、「同じバイクというモチーフをプラモにするのでも、メーカーごとにこここまで違い(「細かさ」とか「リアルさ」とかじゃなくて、体験的な手触りの違い)が発生するんだな!」というのがすごく興味深い。トライチェイサーもれっきとした「バイクの模型」だし、そのひとつのありかた。これをどう捉えて、どこまで遊び尽くすかは、やっぱり作る人に委ねられているわけです(だから僕らはプラモを買うのだし……)。

トライチェイサー2000を組んでいると、これがキャラクターモデルかスケールモデルか、ベテラン向けか初心者向けか、要塗装か要接着か……なんてのは、模型を区分する上でなんの指標にもならないと改めて感じます。自分がモデラーとしてどんなレベルにいるかなんてのは関係なく、いちどは組んだほうがいいっすよこのプラモ。めっちゃバイク模型だし、同時にめっちゃトライチェイサーなので。

レポート&写真●nippper編集部 からぱた 導入文●モーサイ編集部・上野

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