目次
交通事故多発でドライブレコーダーの取り付けが常識となりつつある
近年、YouTube等で交通事故映像をよく見かける。ドライブレコーダーが常識となった今、その映像数はさらに増加しているように見受けられる。
「見ていて痛々しい」「他人の不幸を垂れ流す動画なんて不謹慎」と交通事故の瞬間を捉えた映像を嫌う人はいるかもしれないが、考え方によっては有益だ。交通事故は大なり小なり当事者にとって衝撃的なもので、人によっては事故の瞬間に記憶が抜けて、パニックになってどう対処すべきか分からなくなる。こういった映像を見ればある程度は脳内でトレーニングできるので、実際に交通事故が起きてもよりよい対処ができるようになるかもしれない。
日本では交通事故が起きれば、警察に通報したのち、警察官による現場検証を待つ。日本人はこの一連の流れが世界標準の事故処理方法だと思っているかもしれない。ところが、案外にそうでもなく、たとえば東南アジアの人気観光国タイでは、特定のケース以外では警察を呼ぶことがない。
そこで当記事では、タイで交通事故が起きたらタイ人はどう対処するのか、交通事故現場の常識や豆知識などを紹介していく。
Web上の交通事故映像は、欧米ではロシアやその周辺国のものが大半だが、アジア諸国のものではよく見るとタイが多い。これはタイでは交通事故が多く、ドラレコを取り付けることが常識となりつつあるからだ。なぜなら無謀運転が多発しているので、それに対処するためにドラレコが必需品なのである。
タイでクルマを運転していると、交通事故現場あるいは事故渋滞をよく目にする。その中でもバイク事故は多く、日常茶飯事といえるほどになっている。
クルマの場合は前方不注意による追突が多く、郊外では横転事故や多重衝突も多々ある。バイク事故の場合は、追突事故、スリップなどのほか、都市部のバンコクではクルマのドライバーが後方確認をせずにいきなりドアを開け、そこに突っ込むというケースも多い。運転技術が未熟だからゆえなのか、タイ人はミラーをあまり確認しない。前方車両がいきなり車線変更してぶつかってくることもある。
タイでは、わざわざ教習所に通わなくても手軽に運転免許証を取得できる。実技教習も簡単に済ませられる。そのため、クルマやバイクの特性などの知識や運転技術が著しく低い。カーブでは慎重になるのだが、直線道路では曲がってくる人など関係なしに勢いよく加速するので、重大事故はわりと直線道路で起きる傾向にある。
タイでは交通事故があっても警察を呼ばずに当事者同士で解決
さて、交通事故が起きたとき、日本では真っ先に警察を呼ぶが、タイでは先に保険会社に電話を入れる。タイでは死亡事故や、重傷者がいる場合、事件性のある事故や過失割合でもめるといった、円満に示談が進まないケース以外では警察に連絡を入れることがない。
警察を呼ばないのは、現場検証能力が高くないから。また、すぐに調書を取って、現場を混乱させた迷惑料などを払わせるという面倒ごとを招くため。当事者間の話し合いで済むなら警察を挟む必要がないという合理的な考え方もある。
そのため、交通事故を起こしたら真っ先に契約している保険会社を呼ぶ。もちろん呼ぶのは過失のある方だ。今どきの保険会社はどこも4ケタの短縮番号を持っている。そこに電話して事故の場所を告げれば、地域に住む保険会社の契約社員がやってくる。この人たちは保険外交員ではなく、現場検証専門で働く人だ。エリア内で事故が重なっていれば来るのは遅いが、そうでなければ20分以内には来てくれる。
保険会社の現場検証が終わったら事故の当事者双方が書類にサインし、あとは所定の金額が支払われる。非常に簡潔で合理的なのは、日本とは違うタイの事情と保険の仕組みが関係している。
まず、タイでは過失割合が簡単に決まる点が大きい。日本では不可抗力の事故に思えたとしても、当事者はどちらも一部過失を負うことが多い。ところがタイでは多くの場合、警察官が客観的に判断してどっちが悪いかを見る。ボクも一度郊外の直線道路にて80km/hでバイクを跳ね飛ばしたことがある。後述するが、いろいろあってケガをした向こうが10対0で、すべて支払うことになったのだ。
また保険にも等級があって、1等級で契約すればこちらが過失10割の場合であっても、自分のクルマやバイクの修理などすべてを補償してくれる。特に大手保険会社なら正規ディーラーから町工場までカバーしているので、事故でサインした書類を持って行けばキャッシュレスで対応してくれる。
2等級、3等級の保険では、自損事故は対象外、修理は一切しないなどの条件が付いているが、基本的には被害者側に補償があるので、保険会社が現場を見てくれればあとは全部やってくれる。
ボクが知る限りでは保険会社の出し渋りみたいなこともない。ただ、おそろしいのはタイの自動車保険は基本的に物損の限度額が高く、死亡の補償は物損よりも低いことだ。あくまでも1件・1人あたりなので、総額では人身の方が高いとはいえ、最大補償額は命の方が安い。
10対0で交通弱者側がすべての負担を強いられるケースも
これはボク自身の体験だが、クルマで80km/hで走っていた際に、バイクが横から突っ込んできた。接触した相手が無保険で大もめして、結果最寄りの警察署にまで行くハメになった。相手がいきなり横から飛び出してきて、避けられず跳ねてしまった形になるが、バイクに乗っていた本人は病院に行き、その親族らが現場に来て「こちらは保険に入っていないからあなたの保険を使うからね」と言った。そこで当然ながらケンカになり、親族らは警察署に行ってもなおウソを吐きまくる。
タイ人は仲間意識が強く、裁判でも外国人対タイ人だと、法的あるいは状況的な根拠など一切関係なく外国人側が敗訴するケースが多い。タイ人同士でもよそ者と地元民では地元民の方が有利なので、警察にもつれ込んだときにボクはちょっと不利かなと思った。
しかし結局のところ、過失割合でもめると警察官のさじ加減・忖度で大きく結果が変わってくる。これをわかっていてごねるタイ人もいるであろう。ボクはタイ語ができるのもあったし、運よく警官もいい人、さらに相手側親族らが整合性がなく調書にできないようなウソばかりつき自爆。かつ、ボクの保険会社の人がついてきてくれたおかげで相手側が完全に悪いことになった。
ちなみにボク側の保険会社を呼んだのは、相手が無保険だったからという理由に尽きる。相手が払えないと見たので、ボクの保険で一旦修理し、あとで保険会社から彼らに請求するということにしたのだ。一応、こういうこともサービスのひとつとしてやってくれる。タイの1等級の自動車保険は本当にありがたい存在である。
ボクの体験のように1等級のメリットを知っている相手が悪用しようとするケースがある一方、いつでもなんでもやってくれるが故に、逆に加入者の中には小さな傷や事故があっても気にせず、保険を利用しない人もいる。
バイクがすり抜けているとき、クルマのミラーに当たったぐらいではライダーは振り返りもしない。逆に、クルマが軽くバイクにぶつかることもあるので、タイでバイクを運転するときは全方向に注意を払った方がいいだろう。
レポート&写真●高田胤臣 編集●小泉元暉
■高田 胤臣(たかだ たねおみ)
1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。
noteではタイにまつわる出来事を綴っている。