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バイク、オートバイ、単車にポンポン、バタバタ!?
バイクの呼び方は地域や年代によって様々です。最もメジャーなのは「バイク」や「オートバイ」ですが、地方では「ポンポン」や「バタバタ」と呼ばれていることもあります。
また、バイクを漢字で表すと「二輪車」、道路交通法では「普通自動二輪車」など、道路運送車両法では「二輪の小型自動車」などがあり、さらに原付バイクに関しては「原動機付自転車」と、呼び方はさらに増えます。そして少し年代を遡ってみると、バイクのことを「単車」と呼ぶこともありました。
この「単車」という言葉、死語とまでは言わなくとも、人によっては時代を感じる言葉になっているのも事実。そもそもどういう意味で、どのようにして生まれたのでしょう。
サイドカーが活躍していた時代の名残り
「単車」という言葉の由来については諸説ありますが、最も有力なのはサイドカーが活躍していた時代の名残りという説です。
日本は第二次世界大戦後、アメリカ軍を中心として連合国軍の占領政策を実施したGHQの設立により、しばらく航空機や自動車の製造が規制されていました。
また、終戦直後の日本は復興段階初期で資源が乏しく、庶民が自動車を手にすることは難しかったのです。そこで、比較的規制が緩かったオート三輪やサイドカーが自動車の代わりを担うことになりました。
サイドカーは乗車定員が少ないため、今の時代で考えると、使い勝手が良い乗り物とは言えないかもしれません。
しかし、自動車が普及していない当時の状況からすると、荷物を運んだり、バイクを運転できない人を遠くに移動できたりするサイドカーは、人々の生活を支える乗り物として重宝されていたのです。
当時のサイドカーは、バイクの隣に後付けするものが多く、バイク本体側を「単車・本車」、サイドカー側を「側車」と呼び、これらを両方合わせて「オートバイ」と呼んでいました。
今でこそ「オートバイ」という言葉はバイクのことを表していますが、戦後直後の日本では、サイドカーのことを呼んでいたのです。
■1950年の陸王1200サイドカーVFE-LTS。1930年代に「国産ハーレー」として生み出された陸王。軍事用途も見据えられていたため、完全に日本で生産される「純国産車」となった。実際、陸王の車両は大日本帝国陸軍に「九七式側車付自動二輪車」として制式採用された(1937年)。第二次世界大戦後も戦前とほぼ同様の車両を生産していたが、非常に高額だったため、新聞社や官公庁などの購入がほとんどだった。
■「単車」としても販売された、1950年の陸王1200VFD。エンジンは1200ccのサイドバルブ空冷V型2気筒で、30馬力を発揮する当時の高性能車だった。サイドカー同様に企業や官公庁の購入が多く、一般人が手にすることはほとんどなかったようだ。
時代と共にサイドカーは独自の道へ
GHQ規制の撤廃後は自動車製造が盛んに行われ、サイドカーの市場は一気に四輪自動車に奪われ、小さくなっていきます。
荷物や人の運搬には四輪自動車が利用され、手軽に移動できる機動力が欲しい時はオートバイが利用されるようになり、どちらつかずのサイドカーの需要は廃れていくことになります。
そして最終的には側車部分を切り離し、バイク本体側の「単車」部分だけが利用されるようになりました。こうして、バイクは「単車」と呼ばれるようになったのです。
もちろんサイドカーが絶滅してしまったというわけではありません。現在のサイドカーは、独特の操作性を楽しめたり、趣味性の高い乗り物として、新しい分野を開拓しています。
ちなみにサイドカーは、本格的なロードレースにも利用されており、この競技用のサイドカーは「ニーラー」と呼ばれています。これは、「跪く(ひざまずく)」の動詞である「kneel(ニール)」に「〜する人」の意味を持つ「er」が合わさってできた言葉です。
競技用のサイドカーは、車高が低くなるようにカウルが備え付けられたバイクの本体と側車が一体となっています。文字通り操縦者のドライバーや同乗者のパッセンジャーが地面に跪くような姿勢で乗車することから、そう呼ばれるようになったようです。また、オフロードサイドカーを用いたモトクロスも開催されています。
ほかにもある「単車」の諸説
せっかくですので「単車」にまつわるほかの説もご紹介します。まず、単車の「単」が単気筒エンジンの「単」から来ているという説。
今でこそ多気筒エンジンのバイクがたくさん存在していますが、バイクが普及した当時は単気筒エンジンのバイクばかり。単気筒のエンジンを積む車であることから「単車」と呼ばれることになったようです。
また、エンジンが「タンタンタン」という音を出していたことから「タンシャ=単車」となったという説もあります。
年代が古い単気筒エンジンのアイドリング音を聞いてみると、たしかにタンタンと小気味好い音をしていますので、この説もなんとなく分かるような……。
「単車」の言葉が作るイメージ
「単車」と聞くと、人によっては暴走族やヤンチャな人が使う言葉として捉えられることも少なくありません。
これは、単車の「単」が「単独」「独身」など、1人というイメージを作り、そこから「一匹狼」や「アウトロー」などのイメージを連想させるからだと考えられます。また、暴走族漫画の作中で、バイクを「単車」と呼んでいる作品が沢山あるのも、理由の一つではないでしょうか。
それ以外に「単車」という言葉は、旧車や絶版車のイメージを含むこともあります。これは「単車」という言葉自体が昭和初期に生まれた言葉であるため、年代物の旧車や絶版車のことを指して呼ぶようになったと考えられます。
そう考えると、最新の電子制御が装備された現代のバイクのことを「単車」と呼ぶより、古き良き雰囲気を醸し出すビンテージバイクのことを「単車」と呼ぶ方が、どことなくしっくりくるように感じます。
現代でこそあまり聞かなくなってしまった「単車」という言葉ですが、今回ご紹介したように、様々な意味を持つことも考えられます。
今の時代からすると時代遅れの言葉になってしまっていることは否めませんが、だからと言って死語にしてしまうのは、あまりにも勿体無いような気もします。数あるバイクの呼び方のひとつとして、大事に残しておくのはいかがでしょう。
レポート●森中 忍 写真●八重洲出版 キャプション●上野茂岐