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■第52回全国白バイ安全運転競技大会でパイロンスラロームをこなす白バイ隊員。スムーズな通過には、前後輪の内輪差の意識が必要
白バイ隊員でも苦労する、ホンダ CB1300Pの取り回し
今回は大型バイクの取り回しについて紹介したいと思います。昨今、バイクの車格が以前に比べて大きくなってきていますよね。特に、現在人気の大型アドベンチャーバイクなどを取り回しをする時に、苦労している人も多いのではないでしょうか。そこで、白バイ隊員時代の経験を交えて、バイクの取り回しのポイントについて紹介していきます。
予算や駐車場所の問題は別として、憧れの大型バイクの購入を諦める大きな理由は大型バイクの取り回しのしにくさではないでしょうか。特に各バイクメーカーのフラッグシップモデルとなると、日本人の体型には大きく感じざるを得ないと思います。現在、白バイ車両として使用されているホンダ CB1300Pも、大きさ重さともになかなかのものだと思います。そして、もちろん白バイ隊員も慣れるまでは白バイの取り回しに苦労します。
しかし、男性よりも体格が小さく、筋力が弱い女性隊員でも同じバイクを取り回さなければなりません。仕事で白バイ隊員として道路に出る訳ですから、もちろん一人で取り回しが出来なくては話になりませんし、万が一バイクを倒してしまった場合には一人で起こさなくてはなりません。
白バイ隊員になった場合、男性隊員も、女性隊員もまずはバイクの取り回しから訓練が始まります。バイクの運転技術を磨く前に、まずは取り回しの技術を磨きます。バイクの運転技術の向上と同様にバイクの取り回しに関しても、上手くなるには何回もバイクを押したり引いたり、センタースタンドを立てたりして慣れていくしかありません。実際に私が白バイ新隊員だった時は、取り回しだけの訓練を行ったり、270kg以上あるバイクを押しながら走る訓練もありました。恐らく、人生の中であんなにバイクを押すことは今後ないでしょう。
比較的体格に恵まれた男性隊員ですらキツいのですから、小柄な女性隊員は相当苦労したと思います。

取り回しのコツ、その1は「腰の上手な活用」
バイクの取り回しが上手くなるには厳しい訓練や反復が大事だとお伝えしたものの、実際のバイクの取り回しにはコツがあります。白バイ隊員の訓練で取り回しの訓練を厳しく行うのは、短期間で取り回しのコツに気付き、取り回し技術を体に染み込ませるためです。
一般のライダーがバイクを押して走ったり、取り回しの訓練ばかりするというのは現実的ではないので、取り回しのコツについてお伝えします。今回紹介する方法は、私がバイクのライディングレッスンなどで生徒さんに教えている方法となります。
バイクを取り回す際、腕の力だけで取り回すのではなく、バイクに体の一部を密着させます。停止時には倒れようとするバイクを腰で支えますし、バイクを押す時も腕の力で押すのではなく、腰や太ももの一部をバイクのシートやタンクに密着させ、身体を上手く使って押しているのです。
イメージとしては重くて大きい家具などを押す際に、腰・背中・肩など、体全体を使って力を加えている感じです。

ハンドルを切った方向と逆に車体が倒れる、バイクの特性も有効に利用!
そしてもう一つ、バイクを取り回す際に知っていると便利なのが、バイクの特性を上手く使うことです。
イメージしにくいかもしれませんが、直立しているバイクは、ハンドルを切った方向とは逆に倒れようとする力が働きます。言葉での説明は難しいですが、停止状態でバイクのハンドルを右に切る(ハンドルを時計回りの方向へ押す)と、バイクが自分の体の方向に倒れ込もうとします。
バイクの取り回し中(バイクの左側に立って取り回しをしていることが前提)に、自分が立っている反対側にバイクが倒れそうになった時は、咄嗟にハンドルを右に切るとバイクが自分の体の方向に戻ってきます。これは実際に体験してみてほしいですが、バイクの取り回しが上手な人は、このバイクの特性を上手く利用しています。

サスペンションの動きも、車体の取り回しに活用
方向転換などで車体を少しバックさせたいときなどは、バイクのサスペンションの動きを有効に使ったりもします。バイクを前方に押した直後にバイクを後ろに下げたい時は、フロントブレーキとサスペンションの力を上手く利用します。
前方にバイクを押している状態から前ブレーキを掛けると、フロントのサスペンションが縮まり、リヤのサスペンションが伸びる力を感じることが出来ると思います。縮まったサスペンションが元に戻ろうと反発するのです。このバネが戻ろうとする力を利用して、バイクを押す力に変えるのです。フロントブレーキを掛けてフロントサスペンションが縮み、戻ろうとサスペンションが伸びてきた時にフロントブレーキを離してやると、自然とバイクが後方へ下がろうとします。
バイクが後方へ下がろうとする力を利用出来れば、無理に力を入れることなく、バイクを前方へ押している状態からスイッチして後方へ進行方向を変えてやることが出来ます。サスペンションの力を利用した取り回しは、バイクの車種や排気量等関係なく使えます。極端な話、大型バイクから原付バイクを取り回す場合まで、幅広く使うことが出来ます。特に大型バイクは重さがかなりあるので、効果が体感しやすいと思います。


バイクにも内輪差はある。タイヤの軌道を意識することも大切
バイクの取り回しに慣れていない方にありがちなのが、バイクのタイヤが通るラインをわかっていない場合が多いことです。
前輪は通過できたものの、後輪だけがそばにある縁石に乗り上げたり、こすれたり。駐輪場に立っているポールなどに、フロントはうまく避けたもののリヤ側が当たってしまったり、といった場合です。車体の長い大型のトラックなどだと顕著ですが、バイクにも前後輪で内輪差が存在するのです。
バイクを曲げながら押しているとき、フロントタイヤが通った位置よりもリヤタイヤが内側の位置を通ることを理解しなければなりません。スムーズな取り回しをするには、自分が乗っているバイクにはどのくらいのハンドルのキレ角があり、ハンドルを全部切ってバイクをカーブさせて押した際、フロントタイヤがどこを通り、リヤタイヤがどこを通るのか感覚で覚えることが必須となります。
自転車を乗ったことがある人なら無意識にやっているのかもしれませんが、実際には自転車だとハンドルのキレ角が大きかったり、そもそも車重が軽いのであまり意識せずとも取り回し出来てしまいます。
しかし、いざ対象がバイクとなると取り回し方法についてパニックになってしまう人が多いです。バイクの取り回しも少し重くて大きな自転車を押していると思えば意外とスムーズにいくかもしれません。
ここまで色々と紹介してきましたが結局、最終的には自分のバイクで取り回しを反復練習するしか上達の道はありません。しかし、今回紹介した取り回しのポイントを実践してもらえば、少しは取り回しが楽になるはずです。特に大型バイクなど車重の重いバイクに乗っている方にはおすすめです。

文●睦良田俊彦 写真●睦良田俊彦、モーサイ編集部
睦良田 俊彦(むらた・としひこ)1986年北海道生まれ
趣味:クルマ、バイク
歯科技工士を経て警察官となり、約15年間勤務(白バイ隊員歴約10年)。
警察学校卒業後は約3年半の交番勤務を経て交通部門へ。白バイ警察官として第一線で交通取締りをメインに活動し、ライダーのための安全講習、交通安全啓発イベント、マラソン大会先導、大統領車列先導など、様々な経験を重ねてきた。
県警主催白バイ大会での優勝経験もあり、白バイ新隊員の育成などにも携わった後、巡査部長の階級で依願退職。現在は退職後の夢でもあったライディングレッスンなど、ライダーのためになる活動が出来る場を作るべくYouTuber「臨時駐車場チャンネル」として活動。バイクイベント等に積極的に参加し、出身の北海道で開催のライディングレッスンで講師も務めている。