ジャケットやパンツ、グローブ、シューズなど、ヘルメットを除くほぼ全てのライディングウエアを製造・販売するクシタニ。幅広い製品を開発する上で日々、研究と改善を繰り返している同社は、プロテクターにも妥協がない。安全性を第一に掲げ、細部にまでこだわったライディングウエアを手掛けるクシタニだからこそ考えるプロテクターの在り方とは? 広報部の櫛谷信夫さんに話を伺った。
INTERVIEW
――新作のプロテクターはどんな改良がされているのですか?
櫛谷 脊椎用のエアーCEプロテクターという製品で、併売する従来型(K-4363)に比べて薄くしつつも衝撃吸収性を落とさず、CE規格レベル1をクリアしています。従来型は厚みがあり、通気性がなく背中が蒸れやすいので、そこを改良しました。今後、ほかの部位用も販売予定です。

新作のバックプロテクター。メッシュ状になっており、蒸れやすい背中の通気性に配慮されている

併売される従来モデルのバックプロテクター。外側は衝撃を防ぐために硬く、反対の背中に触れる側は柔らかくし、頑丈さと着用感を両立している。
――快適性を向上させたのですね。
櫛谷 安全性というのはトータルのバランスが重要だと考えており、プロテクターを軽量・柔軟にすることで疲労を軽減し事故の回避率を高めることも大切です。パッドを厚くしたり、密度の調整をすればCE規格レベル2をクリアしやすいのですが、せっかくジャケットを立体裁断してフィット感を上げて運動性能の高い素材を使っても、パッドが硬くてしならなければ台なし。ですから着用感を重視して、あえてCEのレベルを落とすこともあります。一方で、安心感もライディングに影響するので、厚みのあるパッドも展開してお客様に選んでいただけるようにしています。
――CE規格の試験はどんな内容なのですか?
櫛谷 いくつか項目があるのですが、大きな要素のひとつはプロテクターに上から硬く重い物を落とした際に衝撃をきちんと吸収して底づきしないこと。もうひとつは衝撃時の負荷を点から面に切り替える荷重分散性能です。ただし、それらはあくまでテストのひとつにすぎず、安全における絶対的なものではないと思っています。試験の通過を優先するあまり使いにくくなってしまっては本末転倒ですから。
――ジャケットのラインアップが豊富ですが、製品の特性に合わせてパッドも変えているのですか?
櫛谷 スポーツモデルのウエアにはハードなパッドを採用しています。それとパッド自体の重量も考慮する必要があって、街乗り向けのジャージ素材を用いたウエアに重いパッドを入れるとズレやすいので、軽量な方が適切。一方、ナイロンなど比較的丈夫な素材を採用したスポーツモデルはアウターシェルにハリがあるので、ハードなパッドを入れてもしっくり収まります。それと、プロテクターは転倒時の衝撃緩和のためのものですが、そもそも転倒自体を回避することへの注力と、万が一転倒したときにどこまで保護するのかのバランスが大切です。転倒してアスファルトを滑ったときにウエアの生地が一瞬で破れて肌が露出してはまずい。ですから、プロテクターとアウターシェルの両方を考えなければいけません。
――生地の強度はメーカーでも違うのでしょうか? 例えばメッシュジャケットだと素人目にはあまり違いが分からないのですが。
櫛谷 生地メーカーによって編みの掛け方が違うんです。多くのウエアメーカーは生地業者から仕入れるのですが、クシタニでは自社で表生地を織るので、より強度がありつつ風の抜けが良い組み合わせの生地を開発しています。また、アフターサービスでお客様のウエアを修理するのでデータを蓄積でき、破損率の高い部位などの情報を企画側に伝えられ、次のモデルではナイロンなど丈夫な素材にアップデートできる。プロテクターも同様で、日々、研究開発を続けています。



report●田中伸吾