ヒストリー

1981年【スズキ GSX1100S刀 最終試作車】試乗レポート「デザインのみならず、走りも衝撃だった!」

スズキ 竜洋テストコースで「カタナ」初試乗

1981年早春。スズキの竜洋テストコースにメディアが招かれ、GSX750E、ハスラー250など、1981年のスズキの主要新型モデルを一堂に集めた試乗会が開催された。
そのなかには1980年のドイツ・ケルンショーに出展され大きな話題を集めたGSX1100S 刀が、より市販化に近い形でサプライズとして用意され、一周約6kmにも及ぶ竜洋において世界初試乗が許されたのだった。

*当記事は『別冊MOTOR CYCLIST』1981年4月号の記事を再編集したものです。

風を切り裂く未来的フォルム

タコメーターは8,000rpmを超えようとしている。加速は少しも衰えない。スピードメーターは先ほどから140km/hのストッパーに当たったまま(*)、ピクリとも動かない。もう200km/hは超えているだろう。手に当たる風は十分車速を裏付けているが、ヘルメットと上半身には、ほとんど風が当たらない。
盛り上がった刀のタンクは、ピッタリと伏せるには具合よく、ロードレーサーのようだ。燃料がなくなるまで走り続けることも、肉体的には十分可能だ。それほど楽なポジション、小さなスクリーンが絶大な効果を発揮する。
200km/hをオーバーしているとは思えないレスポンスを示したエンジンも強い向かい風のため、パワーピークの8,700rpmを超えると、急激にレスポンスが悪くなる。

*編集部註:竜洋テストコースに用意された車両のメーターはのちの市販車とは異なっていた。写真のように塗り分けがあり、スピードメーターのスケールも140km/hまでだった。

9,000rpmに届くかといったところで、竜洋テストコースの長い直線も第1コーナーになる。ひたすらアクセルを握り締めていた右手をブレーキに移すが、強烈な風圧のため、指先が自由に動かせない感じだ。やっとの思いでブレーキングを開始するが、スピードが落ちないうちは体を起こせない。下手に風圧で体がもっていかれると、敏感なハンドリングは影響を受ける。
直進性は悪くはないが、ハンドルまわりがレーサーなみに軽く、わずかな力に反応する過敏さを持っている。ブレーキはサーキットランでも強力な効きを示すタイプではないが、確実にスピードが落ちるタイプだ。強力な印象がないのは、フロントフォークに装備されたアンチノーズダイブ機構(ANDF)が、フロントの沈み込みを最小限度に押さえているせいでもある。

ブレーキのタッチはほかのスズキ車に比べるとやや鈍い。ダブルディスクとANDFの容量に対し、マスターシリンダーの容量が不足している感があり、ブレーキレバーのストロークが大きく、かなり力のいるタイプだ。
スピードメーターが作動するレンジまでスピードが落ちたら、第1コーナー目がけてバンクさせる。とても1,100ccとは思えない倒し込みの軽さだ。それに反し、コーナリング中の安定度は高い。第1コーナーの途中、横風を受ける場所が1ヵ所ある。軽量車は注意してないとラインが変わってしまうのだが、この刀だとわずかにユラリとするだけで、よほど注意しないと感じもしないだろう。全体的に安定感は高いが、運動特性はレーサーに近い。それゆえライダーによっては、過敏で落ち着きのないバイクと映るかもれない。しかし明確なコンセプトに共鳴できるライダーには、またとないスプリンターだ。

ショッキングスタイル

1980年のケルンショーに登場したプロトタイプモデル。まだスクリーンはなく、メーター位置も高い。排気管はテルミニョーニの集合タイプだが、全体のフォルムはすでに完成していたといえる。

昨年(1980年)秋のケルンショーで、センセーショナルなデビューをしたスズキ GSX1100S、愛称「刀」は、4〜5月の海外発売を目指し、最後の熟成に入った。今回の試乗車は最終段階の試作といったもので、まだ未完成の部分もあった。
刀は新鮮なデザインが特徴である。その賛否は別としても、今までのバイクとはひと味違っている。スズキとしてもこの大胆なスタイルが数多く出回るとは思っていないようで、限定版的なモデルになるだろうと予想している。限定モデルといえばホンダ CB1100Rが同じ排気量であり、CBがRCBのイメージを大幅に取り入れたカフェレーサーであるのに対し、刀はCBとは大幅に異なるコンセプトである。独創的スタイルはレーサーとはまったく別のラインを持ち、デザイン過剰とも思えるほどだ。

しかし、実物は写真で見るほどの違和感もなく、大柄なGSX1100Eとはまったく違って、コンパクトにすら見える。他人が走っているときには、レーサーのみが持つ一種の威圧感さえある。
刀のベースはGSX1100E。エンジン、フレームなどの基本コンポーネントはそのまま流用。タンク、シート、カウルに新鮮味あふれる造形を施したものである。
デザインはドイツ人のハンス・ムート(*)。スズキは以前から外国人デザイナーの起用に積極的で、ロータリーモデル(RE-5)のジウジアーロは有名である。

セミカウルはフレーム側に取り付けられ、ハンドリングへの影響を少なくしている。
ただしカウルといっても、一般的な風よけ効果はほとんどない。強いていえば、ヘッドライトのカバーといったところだ。しかし今回の試乗車には、ヘッドライト上部にわずかなスクリーンが付加され、実用性は大いに向上した。それに伴い、タコとスピードの一体メーターもスクリーン内に取り付け位置を低くしている。

*編集部注:後年になってGSX1100Sのデザインはハンス・ムート個人が手掛けたものではなく、彼の所属していたターゲットデザインによることがわかっている。

シートはタンクとのつながり部分が盛り上がっている。最近までの国産車には見られなかった新しい傾向である。国産車はタンクとシートの段差を極力少なくする傾向にある。このため追突時の危険防止には有効だが、ライディングには不具合が生じた。
ロードレーサーが明確な段差を持っているのは、速く走るには必要なのである。しかし、危険防止からはないほうがよい。この相反する条件を満たしたのが、刀のシート形状である。ホンダ CB250RSでも見られるように、段差のあるタンク後端にシートをかぶせ、安全化を図る。
このお陰で、カタナのポジションはレーサーに近いものになっている。ハンドルはセパレートタイプだがアルミ製でやや幅広のものだ。

刀で斬新な部分はスイッチ類である。サイドカバーに設けられたダイアル式のチョークやスイッチ類は、定着した手元スイッチに新風を吹き込むかもしれない。ただし、試乗車のスイッチは通常の手元でサイドカバー部は結線されていなかった。
惜しむらくは、これほどの新機構を盛り込みながらフレームや足まわりは既存のパーツを流用していることである。
刀やホンダ CXターボなどは、従来の延長線上にないことは確かである。単にメーカーの造ったカフェレーサーでは済まない、新しいジャンルの息吹きを感じた。

レポート●日野哲夫 写真●ジョー ホンダ/和知英樹/八重洲出版/スズキ
編集●飯田康博

エアクリーナーボックスのカバーがメッキ仕上げの最終試作車。

スズキ GSX1100S刀 主要諸元

■エンジン 空冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク 72.0×66.0mm 排気量 1,075cc 圧縮比 9.5 点火方式 トランジスタ キャブレター ミクニ BS34SS×4 潤滑 ウエットサンプ 始動 セル
■性能 最高出力 82.6kw(110.77hp)/8,500rpm 最大トルク 96.1Nm(9.79kgm)/6,500rpm 燃費 ──km/L 最小回転半径 ―m
■変速機 5段 
■寸法・重量 全長 2,260 全幅 715 全高1,205 軸距1,520 最低地上高 175 シート高 ―(各mm) 乾燥重量 232kg タイヤサイズF3.50-V19 R4.50-V17
■容量 燃料タンク 22L オイル3.2L
*数値は1981年市販時の欧州向け資料を参照

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