「ホンダ・CB」と「カワサキ・Z」。
いずれも長い歴史を持ち、今でも最新の車両にその名が冠され続けている、国産二輪車を代表するブランド名である。
CBは1950年代から、Zは1970年代からブランド名として使われているだけに、その名前に関する多くの逸話が存在する。
今回はそのなかから、知っているとちょっと得した気になる、トリビア的ストーリーを紹介していこう。
「CB」と「Z」、その名前の由来とは?

CB伝説の始まりともいえる、1959年に開催された浅間レースでのCB92デビューウィン。ライダーは北野 元選手。
1957年、ホンダ初の2気筒エンジンを積んだドリームC70がデビューした。当時の国産250ccクラスとしては圧倒的な18馬力/7400回転の最高出力を発生。この125cc版がベンリィC90で、59年には改良版であるC92の登場となった。
この派生モデルが対米輸出仕様CA92で、さらに高性能スポーツモデルを発売するにあたり、“CAの次だからCB”ということで、ベンリィCB92スーパースポーツが誕生したと言われている。これがCBの由来だと考えて間違いないだろう。
モーターサイクルとクラブマンの略称を組み合わせて、サイクル・ベター=優れた二輪車といった言葉が由来など諸説もあるが、その後のCBシリーズの活躍を心情的に訴えるものではないだろうか。ちなみに現在のホンダ関係者の多くは“クリエイティブ・ベンチマーク”と考えているようだ。

富士スピードウェイ名物の30度バンクを疾走する、カワサキテストライダーの清原明彦氏(モーターサイクリスト1975年1月号より)。
対してZはシンプルだ。シリーズの原点であるZ1の型式は究極を意味するアルファベットの最後の文字=“Z”と、世界一を表す“1”の組み合せのようだ。
そもそもはカワサキの究極の1番ということで「KZ1」だったが、ヨーロッパでKZはナチスドイツ強制収容所を表す略称(Konzentrationslager:独語)であったため使えなかった。これが日欧でZ、北米ではKZの型式で呼ばれる理由だ。
CB750FOURはたった1年で作られた?

ホンダ・CB750FOUR
1960年代後半、北米市場でのホンダは深刻な販売不振に陥っていた。それまでのスーパーカブ人気は終わり、加えて新型ビッグバイクとして投入されたCB450はトライアンフやBSAなどのイギリス製650ccモデルの人気に太刀打ちできなかったからだ。
そこで67年秋ごろに全てを凌駕する内容のビッグバイク=CB750FOURが企画され、68年の東京モーターショーで発表された。若手ばかりの開発チームに、初めて尽くしのナナハンを“1年で作れ”という会社側の無茶ぶりの結果である。それだけホンダが危機的状況にあったのだ。

ナナハンは69年初頭に北米で発表され大絶賛された。
このため、初期モデルでは設計変更や改良が相次ぎ、当初に構想していた本来の仕様となったのは71年のK2モデルである。
Z1は当初750ccだった?
実はカワサキでもホンダと同時期にN600と呼んだ750ccモデルを開発していた。やはり北米市場での販売不振を動機にしたものだった。むしろ、開発に着手していたのはカワサキが先だったようで、既に走行テストを開始していたところに、CB750FOURが発表されたのだ。

1968年頃のN600走行試作車。既にDOHCヘッドを搭載していることがわかる。
文字どおり“寝耳に水”である(お互いに何を開発しているかは全く知らなかった)と同時に、同じ750ccモデルを後出しできないと判断し、カワサキは急きょ排気量を900ccに拡大して発売した(国内版は750ccのままだった)。
これによって、その後に他メーカーも750ccマルチエンジンを開発、ビッグバイク=並列4気筒という流れが決定的なものになったのだ。

1972年、ヨーロッパで発表されたZ1先行試作車。
過給機の搭載はZの……いやカワサキの伝統!?

1984年登場の750ターボ。GPz750のスタイリングのままにターボチャージャーを装着していた。
1980年代初頭は四輪のターボブームを受けて、二輪でもターボチャージャー装着車を4メーカーで出そろった。この中でカワサキは最後発だが、112馬力と最もパワーのある750TURBOを84年に発売(ベースはZ650に端を発するGPz750)。
二輪とターボの相性はそれほどいいわけではなかったため、ターボブームは一過性のもので終わるが、その後カワサキは現代になってスーパーチャージャーを装着した231馬力のH2で話題をさらい、ついにはネイキッド版のZ H2を2020年に発売した。

カワサキZ H2
ターボチャージャーやスーパーチャージャーなどの過給機技術は、そもそも第二次世界大戦前〜大戦中の航空機用レシプロエンジンに搭載されて発展したこともあり、過給機はカワサキの得意とするところ。
ブランドの存在感を過給機による独創的なエンジンドーピングで確立したことは、Zの伝統と言ってもいいだろう。
レポート●関谷守正
写真●八重洲出版
まとめ●モーサイWEB編集部