ホンダとカワサキ。
片や戦後の町工場から始まった二輪メーカー、片や明治時代の造船から始まった重工業(ただし、二輪関係の操業開始はホンダより10年遅い)。
その出自も歴史も規模も違うふたつの企業が対決するのは、言わずもがなモーターサイクルの分野である。
好敵手がバイク文化を形成
その対決の図式を明らかなものとしたのは現在から48年前、当時絶対的だったCBというブランドに、新しいZというブランドが立ち向かった1972年のことだ。
以来、70年代のCB対Z、80年代のCB-F対FX、V4に対抗したGPZ、90年代のCB1000SF対ゼファー1100、ブラックバード対ZZR、そしてファイアブレード対ZX-10Rと、そのライバル関係が新しい潮流を巻き起こしてきた。

当時最速を誇っていたZZR1100に真っ向勝負を挑んだCBR1100XX。
ライバルとは、競争関係において好ましい状態の変化を促す存在であることが理想だ。強力な競争相手が存在するからこそ、それぞれが技術や発想を切磋琢磨し、我々ユーザーにとってより好ましい製品が生まれてくる。
それはホンダ対カワサキに限った話ではないし、ヤマハもスズキも時代を牽引するエポックを生み出してきた。だが、プロ野球で言えば巨人対阪神、PCのOSで言えばアップル対マイクロソフトという対決図式は、二輪で言えばCB対Z以外に思い付かないだろう。
CB対Zというライバル関係こそムーブメントのひとつ

モーターサイクリスト誌79年3月号における、Z750FXとCB750Kの比較テスト風景。
根底にあるのは技術屋の誇りなのか企業のメンツなのか、いろいろと思い浮かぶ。ファンの指向性も全く違う。保守に対する判官びいき、優等生に対する不良の反逆と言ったイメージも語られてきた。
しかし、そろそろ50年になろうとしている両者の対決の歴史を俯瞰すると、事実は少々違うことが分かる。確かにリーディングカンパニーに挑むチャレンジャーという図式も少なくはないが、そもそもホンダのナナハンに対して900ccのZ1を送り込んだカワサキは、そのスタートから有利だった。

カワサキ・ゼファーは今なお高い人気を誇り、中古相場も高値安定傾向。写真は4バルブ化したゼファーχ。
ゼファーなどは独創性そのものであるが、必ずしもカワサキだけがチャレンジャーであったわけではなかったし、市場やビジネスを重視し、ライバルに対する過剰な意識をホンダが見せるときもあった。
このように50年という時間を追っていくと両者の関係性の変化も知ることができるだろう。同時に50年前から現在まで両者が競い続けていることに対する感慨も少なからず生まれるはずだ。
なぜなら、CB対Zというライバル関係こそが、我が国のバイク文化を形作った大きなムーブメントのひとつであることに間違いないからだ。それが続く限り、我々バイクファンの驚きや感動にも終わりはないのである。

2019年の東京モーターショーで参考出品されたカワサキ・ZX-25Rは、新たな「CB vs Z」の始まりを意味しているのかもしれない。両社の今後の動向から目が離せない。
レポート●関谷守正 写真●八重洲出版 まとめ●モーサイWEB編集部