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「クラウザー・ドマニ」一体型ボディの独創的サイドカーは、元サイドカーレーサーの情熱から生まれた!

クラウザー ドマニ 1990

ドイツのパニアケースメーカー「クラウザー社」創業者は元サイドカーレーサーだった

バイクの車体(ソロ)の左右いずれかに側車(その形状から「舟」とも言われる)を装着して3、4人乗れるようにした乗り物がサイドカーだが、バイクにカウルが付いてレーサーレプリカやスーパースポーツへと発展していったのと同様に、レース用サイドカーも1970年代以降、姿や構造を大きく変えていった。

1960年代後半から空気抵抗を減らすべく、ホイールを四輪用の10〜13インチに小径化するのが一般化し、80年代にはソロと側車を一体化させたモノコックフレームが採用されるに至って、もはや「サイドカー」とは名ばかりの、普通のバイクとの共通点はエンジンがバイク用であることくらいしかない独自の乗り物へと発展した。

そんなレース用サイドカーを公道用に、誰にでも運転できる新しい乗り物として世に送り出されたのが、1985年のドイツ・ケルンショーでプロトタイプが初公開された「クラウザー・ドマニ」である(「ドマーニ」と呼ばれることもある)。
ドマニを開発したクラウザー社は、実は、パニアケースの製造で名を馳せたドイツの企業。1952年にBMWのディーラーを始め、1971年にパニアケースの生産を開始する。ケース下側にヒンジがあり、フタが外側に開くことで荷物の出し入れをしやすくしたパニアケースで成功し(それまではケース上部にフタが付くタイプが主流で、ドマニのパニアケースは当時画期的なものだった)、BMW純正に指定されるに至った。

創業者のミヒャエル・クラウザーは元々BMWのサイドカーレースで活躍した人物で、パニアケースの儲けの多くをサイドカーレースに注ぎ込むほどの情熱を注いでいた。ドマニはそんな彼の夢を具現化した乗り物だったのだ。

1990年に初上陸した日本仕様。白地にオレンジ、ピンク、青のストライプが入るカラーリングは、同社の世界GP80ccマシンや、ドマニに先立って作られたオリジナルモデル第1弾のMKM1000にも用いられたクラウザーのイメージカラー。

クラウザー・ドマニのエンジン・車体構造はどうなっているのか?

1993年型。一見1990年型と同じようだが、側車前方にエアインテーク(ラジエター用)が追加されている。日本仕様はドイツではオプションのテールスポイラーを標準装備。なおドイツ仕様はヘッドライトがスクリーンの外に飛び出る形で装着されていた。

クラウザー・ドマニは、角断面パイプで組まれたフレーム+ケブラーを主体に一部をFRPとしたワンピースのボディを被せた構造となっており、全長2.8m、全幅1.55m。
ボディはシャシーに数本のネジで固定する仕組みで、ドライバーとパッセンジャー用シートはボディの上に直接取り付けられており、かなりの強度が持たせられている。ケブラーとFRPで構成されたボディは軽量で、大人2〜3人いれば楽に持ち上げて外すことができた。

クラウザー・ドマニの生産は1990年頃から2011年頃まで約20年にわたり続けられ、搭載されるエンジンもBMW K100用の987cc水冷DOHC2バルブ直列4気筒に始まり、4バルブ化されたK100用→K1100用(1093cc水冷DOHC4バルブ直列4気筒)→K1200用(1171cc水冷DOHC4バルブ直列4気筒)と変遷していく。
ただし、最初の量産型である1990年型の日本における価格は685万円、最終型では1000万円近い値になった超高価格車で、納車されるまでに長くて2年近くもかかったために、総生産台数は300台とも250台に満たないとも言われている。
ドイツ本国をはじめ欧州、アメリカなどで販売されたクラウザー・ドマニだが、世界的に見ると日本における人気が1番高く、1992年時点で生産台数の70%以上となる30台、2001年11月時点で71台が日本に上陸していた。

1993年型のエンジン。4バルブ化で最高出力が90馬力から100馬力に向上。変速動作はもとよりギヤ比もK100と同様でリバースギヤはない。後年リバースギヤ装着車も登場(2001年型でスタンダード版748万円の59万円高)。
ボディは一体構造でフレームに数本のネジで固定される。大人2、3人いれば容易に持ち上げ脱着することができた。パッセンジャーシート右に開いている穴が普通のバイクの右ステップ部に相当し、乗車する際はここに足を入れる。
フレームは現在のサイドカーレースでも絶大な支持があるスイスのLCR(ルイス・クリステン・レーシング)製。角型断面の鋼管を溶接して組まれており、エンジンも剛性メンバーの一部とする構造。レース用と同様の作りで、2000~3000㎞で各部ベアリングへの定期的なグリスアップなどをしないと本調子が維持できなかったようだ。
タイヤは4輪用を使用。ホイールはドイツのロナール社製のドマニ専用デザイン。フロントサスは変形ウィッシュボーンで、エンジンの先端付近から前方にアームが長く伸びる。サスユニットはWP製で、アームの付け根部分にある。

「試乗レポート」クラウザー・ドマニはどんな運転方法で操る乗り物なのか

サイドカーと言うよりも、まるで4輪のレーシングカーのような姿をしたクラウザー・ドマニはどのような操作方法で、どのような走行感覚の乗り物なのか? 『別冊モーターサイクリスト1993年6月号』で1993年型ドマニに編集スタッフが乗りこみ、高速道路含めた公道&クローズドコースで試乗したレポートを以下に紹介する。


1993年型クラウザー・ドマニ

操作はBMW Kシリーズとなんらかわりない。だが、すぐに颯爽と走り出せるほどドマニは甘くない。まずはシートに座ることから始まった。普通のバイクにまたががる感覚だと、足がボディに引っかかってオタオタしてしまう。
左側のステップはゴム巻きの一般的な物。右も同じなのだが、FRPボディにポッカリと開けられた穴(普通のバイクと同様にブレーキペダルもある)に足首を突っ込む格好になる。最も格好いいまたががり方はステップに左足を掛けて乗っかり、右足を大きく振り上げて穴に突っ込むのだと判明。
パッセンジャーシートに座る場合はさらにやっかいで、運転者席を必死の思いでまたいでいくか、側車側のボディに腰掛け、両足を上へ振り上げて尻から滑り込ませることになる。

「ドマニは実用性をまったく考えないで造った乗り物」という本橋さん(*)の言葉が身に染みる。逆に妥協を排することで、固定観念からの解放、現代の道路交通をリードできる性能、結果的に優れたデザイン、というミハエル・クラウザーが掲げたコンセプトを完璧なまでに盛り込むことができたというわけだ。

価格のほうも常識を覆した713万円。クラッチミートでさえちゅうちょしてしまう。「走る札束」は走り出す瞬間が怖い。「おっ、動いた」当たり前なのだが、そう心のなかで反すうする。果敢にも(たいしたスピードではない)前を走る路線バスに追い越しをかけ、ハンドルを恐る恐る切る。「なんだ、思ったより向きが変わらないじゃないか」と感じたのは最初の一瞬だけ。調子に乗って切り増すと「おおっ、横スライドしたみたいだっ」と鋭い運動性能にどぎまぎする。

サイドカーらしい挙動というのはあまり顕著ではない。どちらかといえば路面状況が車体の動きに大きく影響する。この辺りはタイヤの空気圧が深く関係しており、モトコ(*)の話では1.5kgmを推奨値としている。これより多いと跳ねにつながり、少ないと操安性が悪化するという。ワイドなトレッド形状ならではのことだろう。乗り味はレーシングカートに近く、常に直進するように修正を加えながらハンドル操作を行う必要がある。

2輪のようにセルフステアで直進性を維持してくれるわけではないから、漫然とした乗り方は受け付けてくれない。荒っぽく走らせると常にヨー方向の揺れが繰り返し起こるから余計だ。常時味わうスリルは「運転」というより「操縦」感覚でミラーの視界もあてにならないため、ハンドル操作、周囲に全神経を集中させることになる。信号待ちでは横断歩道を渡るOLたちが指を指して何やら言っている。横に止まった乗用車も、ドマニをネタに盛り上がっているようだ。ちょっと気恥ずかしいが、悪い気はしない。だが、走り出すと頭のなかはたちまち真っ白になり、ひたすらハンドルにしがみついて走る。

*編集部註:クラウザーのパニアケースやMKM1000の輸入販売も手掛けていたモトコは1990年からドマニの輸入販売を開始。創設者の本橋明泰氏は62年にヤマハワークスに加入後、開発ライダーや世界GPやマン島TTなどでも活躍している。

1993年型クラウザー・ドマニ

高速道路での緊張は、街なかを走っているときとさほど変わらない。小刻みにハンドル操作を行い、直進を保つようにして走るが、距離を重ねるにつれ、腕が勝手に反応するようになってくる。2輪と違うのはわき見運転がしにくいこと。サイドカーの運転は目で見た情報に従い、腕が勝手にハンドル修正をするような感じだから、手の動きを止めるとあらぬ方向に走っていきかねない。

挙動がわかってくると、次第に余裕もできてきた。瞬時にレーンチェンジするという芸当はスリリングで楽しい。それを危なくないレベルでこなしてしまうのだからたいした実力である。ウインドプロテクションもほどほどで、おおむねヘルメットの上半分に風を受ける格好。スピードを風で感じつつ、しかも疲れが少ない設定なのだ。ちょっと慣れれば160km/hくらいなら平気で出せる。まだまだアクセルに余裕があり、それ以上になると路面の継ぎ目でフレームにくるが、2~3回振れると確実に収束する。感覚としてはメーター読み170km/h以上はかたい。車高が低いからスピード感は2輪の約1.5倍はあり、パッセンジャーシート側ではさらに高まる。

法定80km/h(*)もソロのような退屈さはない。特筆すべきは燃費で、ほぼ15km/Lを維持する。1000ccクラスのソロとさほど変わらないこの数値は、500kgの車体を引っ張っているとは思えない。
タイヤ外径が小さくなっている分、BMW Kシリーズより高めの回転数を維持することになるが、空力の優秀性が走行抵抗を低く抑えているのだろう。

*編集部註:1993年当時、サイドカーを含む2輪車の高速道路最高速度は80km/hだった。

メーター類やハンドルバーはBMW K100用を流用。フロントブレーキレバーで前輪のみ制動、フットブレーキは3輪全てを制動する。コックピットのデザインは後年エンジンがK1100、K1200用へと変わると同時に変化している。
燃料タンク(容量30L)は本車側後輪の右側にあり、その隣に150L容量のトランクを装備。スポイラーが邪魔するため、給油の際はトランクのフタも開ける必要があった。

クラウザー・ドマニ主要諸元(1990年型)

[エンジン・性能]
種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC2バルブ ボア・ストローク:67mm×70mm 総排気量:987cc 圧縮比:10.2 気化器:ボッシュLEジェトロニック 最高出力:90ps/8000rpm 最大トルク:8.7kgm/6000rpm 最高速度180km/h 変速機:5段リターン

[寸法・重量]
全長:2260 全幅:1590 全高:── ホイールベース:1868 シート高──(各mm) タイヤサイズ:前輪&側輪185/60R14 後輪195/60R15 車両重量:390kg 燃料タンク容量:30L 発売当時価格685万円

まとめ●高野栄一 写真●八重洲出版『別冊モーターサイクリスト1990年11月号』『別冊モーターサイクリスト1993年6月号』 編集●上野茂岐

2月10日追記:乗車方法の記述について誤りがあったため、加筆修正を行いました。

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