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【カワサキ・ザッパーの系譜】Z650からゼファー750ファイナルエディションまで/前編:Z650~Z750FX-III

■国内向けの初期型Z650-B1のカタログ。DOHC4気筒エンジンや前輪ディスクブレーキ、大型の灯火類、スターターロックアウトスイッチなどが説明されている一方、エンジン内の一体式クランクやプレーンベアリング、インナーシム採用や安定性を増したディメンションなどについては解説されていない。Fディスクの有効径は245mm、Rドラムは180×40mm。タイヤ銘柄はF=ダンロップF6B、R=ダンロップK86MK2M。車体色はキャンディスーパーレッドとキャンディエメラルドグリーンの2色が用意され、基本的に全世界共通色だった。

Z1とともに、CB750Fourを挟み撃ちするねらいで生まれた、Z1ジュニア=Z650

Z650 B1(1976)

公害やマスキー法、オイルショックなどが社会問題として声高に叫ばれ始めた1970年代、カワサキは2サイクルのマッハシリーズに代わる4サイクルの世界戦略車として73年型Z1(900Super Four)、その国内仕様としてZ2(Z750RS)をリリースした。その後も4サイクル車のラインナップをさらに強化すべく、カワサキは様々なバリエーションを展開したが、カワサキ・ザッパーの元祖、Z650もそのうちの1機種として開発された。

Z650のコンセプトはZ1の縮小版と言え、車格も小さくあらゆる点で万人向けの設定が与えられていたが、エンジンは一世代進んだ設計で、ハンドリングもさらに洗練されており、発売されるや軽量コンパクトの利を生かし、「ナナハンを凌駕する高性能車」との評価が高まったのである。

俗に「ザッパー」とはZ650か、あるいはその後継機を指して呼ばれることが多いが、これこそ本機種の高性能ぶりを端的に表す通称と言えよう。しかしながら、過去に行われたカワサキのZ650担当技術者インタビューの席上で、各氏は「Z650系に限らず、ザッパーとは加速のいいスポーツモデル全般」との認識を持っていたことを付け加えておく。本来は特定の機種でなく、概念(=コンセプト)を指していたのである。

それから時を経て、80年夏にはZ650の652ccエンジンをベースに排気量を738ccまでアップしたZ750FX-IIが発売される。だが、ユーザーの求める「堂々としたナナハンらしさ」とはいささかねらいが食い違っており、その後のナナハン・ザッパーは、本校の続きで登場するZ750GP、GZz750といったモデル変遷でもわかるように、コンセプトの方向転換を幾度か行いつつ、80年代前半を生き残ることとなった。

1976〜1981・カワサキ・ザッパーモデルの系譜:Z650〜Z750FX-III

Z650 B1(1976〜)

Z650 B1

■Z650 B1(1976〜):国内では750ccのZ2の下位機種であったが、海外向けには900ccのZ1があり、これで仇敵ホンダCB750を挟み撃ちにする……と言うのが戦略上のコンセプトであった。機種記号KZ650B。国内仕様の発売は76年9月で、媒体向け試乗会はFISCOで開催されたが、この時は北米仕様が用意された。なお、グリーンボディ車の写真は海外向け77年の総合カタログから抜粋。B1はイヤーモデルとしては77年型と考えていい。国内仕様の当時価格は43万5000円で、同年型のZ750FOURは48万5000円、Z750TWINは45万円だった。

【カワサキZ650 B1主要諸元】
■エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ 62.0×54.0mm 総排気量652cc 圧縮比9.5 気化器ミクニVM24SS 点火方式バッテリー 始動方式セル/キック
■性能 最高出力64ps/8500rpm 最大トルク5.8kg-m/7500rpm 燃費48.5km/l(50km/h)
■変速機 5段リターン 変速比1速2.333 2速1.631 3速1.272 4速1.040 5速0.888 一次減速比2.550 二次減速比2.625
■寸法・重量 全長2170 全幅850 全高1145 軸距1420 最低地上高145 シート高──(各mm) キャスター27° トレール108mm タイヤサイズF3.25-H19 R4.00-H18 車両重量211kg
■容量 燃料タンク16.8L オイル3.5L
■発売当時価格 43万5000円(1976年)

Z650 B2(1978〜)

Z650 B2
Z650 B2
改良が加わった部分を紹介するZ650 B2のカタログ

■Z650 B2(1978〜):78年7月1日に発売されたZ650 B2はマイナーチェンジモデルで、フロントのブレーキキャリパーがフォーク後方にマウントされ、マスターシリンダーも円筒形から台形かつ半透明なものに変更された。ハザードランプが追加され、負圧式燃料コックも装備。スイングアームピボットにはニードルローラーベアリングが採用され、キャブレターやジェネレーターにも改良が加えられた。車体色はルミナスバーントレッドとルミナスダークブルーで、B1とはストライプの本数が異なる(2本→4本)。価格は据え置き。

ザッパー系750登場以降も展開された海外向けZ650

Z650 C4
KZ650 C4
Z650F3

■Z650 C4/KZ650 C4/Z650 FZ650 F3:海外向けにはスポークホイール仕様のBタイプのほか、キャストホイールを備えたCタイプも用意され、仕向け地や年式によってフロントダブルディスクやリヤディスク仕様も存在する。80年型からはC→F型へとコードが変更され、Z750FX-II/IIIの登場後も海外では併売された。後期型ではキックスターターを廃止、トランジスタ点火を採用してキャブレターは強制開閉型のVMから負圧式のBSに改められ、インジケーターやスイッチ類も改良されグラブレールも装着。フロントフェンダーも下部のステーがないものに変更された。なおF型は最終的に83年型まで存在した。ドイツ仕様が最もハイパワーで67hpを公称した。

Z750FX-II(1980)

Z750FX-II
Z750FX-II

■Z750FX-II(1980):同車の発売は80年8月。Z2直系たるZ750FX(I)から世代交代が行われ、その後継機となった新型FX-IIはホンダCB750FやスズキGSX750Eよりも軽量コンパクトで、旧FXを凌ぐ動力性能を獲得していた。エンジンは排気量が62×54mm=652ccから66×54mm=738ccへと拡大され、新たにトランジスタ点火を採用。カムチェーンをサイレント式に置き換えられ、キャブレターも強制開閉から負圧式となりボア径も10mm拡大、キックペダルも省略するなどの改良が行われた。だが、最高出力はZ650に対して3psアップに過ぎず、最大トルクは逆に0.2kgm減少。また先代のFX比では3psと0.1kgmのダウンである。だが乾燥重量はFXより36kgも軽量でZ650と比べても1kg軽く、これがFX-II最大の武器と言えた。前後チューブレスのキャストホイールとトリプルディスクブレーキも新しい(ディスクの有効径は前後とも226mm)。しかし風格に乏しかった点は否めず、またタンク形状も概ね不評だった。塗色はキャンディパーシモンレッドとムーンダストシルバー。国内向けの機種記号はZ750-E2でE1は輸出仕様のみ。

Z750FX-III(1981)

Z750FX-III(1981)
Z750FX-III(1981)

■Z750FX-III(1981):同車は81年3月16日発売、当時価格は53万5000円。FX-II発売からわずか7ヵ月でモデルチェンジが行われたが、諸元に大きな変更はない。燃料タンクを角型として21Lへ容量が拡大され、シート形状も変更されてスタイルを一新。メーターの電圧計は省略された一方、新たにグラブレールやハロゲンヘッドライトを備え、機種記号Z750-L1に改められた。塗色はルミナスガンブルーとムーンダストシルバー。

Z750(1981)海外向けモデル

■Z750(1981):Z750FX−IIIと同系の意匠ながら、輸出向けは単に「Z750」と呼ばれ、最高出力74psを公称。82年型のL2では赤と青の2色が用意され、スイッチ類が改良された。

Z750FX-II・エンジン

■Z750FX-IIのエンジンでは、Z650のボア・ストローク62×54mm=652ccから66×54mm=738ccへと拡大。またキャブレターも負圧式のケーヒンCV34に変更された。

【カワサキZ750FX-Ⅱ主要諸元】
■エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ 66.0×54.0mm 総排気量738cc 圧縮比9.0 気化器ケーヒンCV34 点火方式トランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力67ps/9500rpm 最大トルク5.6kgm/7500rpm 燃費30.0km/L(2名乗車時60km/h)
■変速機 5段リターン 変速比1速2.333 2速1.631 3速1.272 4速1.040 5速0.875 一次減速比2.550 二次減速比2.538
■寸法・重量 全長2135 全幅835 全高1150 軸距1425 最低地上高155 シート高800(各mm) キャスター27° トレール108mm タイヤサイズF3.25-H19 R4.00-H18 車両重量210kg
■容量 燃料タンク17.3L オイル3.5L
■発売当時価格 51万5000円(1980年)

アメリカンモデルやシャフト駆動車にも転用された、ザッパー系エンジン

Z650LTD(1979)

■Z650LTD(1979):ザッパー系エンジンは派生モデルのアメリカンやツアラーにも搭載された。79年のZ650LTD(KZ650-D1)はキャストホイールを備えたアメリカン風モデルで、専用の外装やシート、エキパイのクロスしたマフラーなどを採用するが、前輪19、後輪18インチを装着し、アメリカンというよりはどちらかと言えばトラディショナルな趣だった。当時価格44万5000円。海外向けには78年から投入され、Z650SRの名称とリヤ16インチホイールが与えられた。

Z750LTD(1980)

■Z750LTD(1980):同車は小型のティアドロップタンクと段付きシート、プルバックハンドルにリヤ16インチホイールなどを備えた典型的な和製アメリカン。80年11月発売で当時価格53万5000円。機種記号はZ750-H2。

Z750スペクター(1982)

■Z750スペクター(1982):同車はシャフトドライブ採用のほか、外装がブラッシュアップされ、Z750LTDより高級感を増したアメリカンモデル。各部をシャンパンゴールドと黒で塗り分け、左右を連結したエア加圧式ショックを前後に採用した。82年8月発売で62万円。機種記号はZ750-N1。

Z750GT(1982)

■Z750GT(1982):同車は輸出専用のツアラーで、82年発売。機種記号はZ750-P1。シャフトドライブや堅牢なリヤキャリヤを標準装備し、角型のヘッドライトやメーターを採用。セパハンはZ750GPと同様だが、こちらは一般的なキャブ仕様だった。フロントフォークはリーディングアクスルでリヤショックともエア加圧式だ。欧州ではスタンダードバイクとして根強い支持を集め、90年代まで生産された長寿車だった。

文●高野英治  写真・カタログ●カワサキ、八重洲出版アーカイブ
まとめ●モーサイ編集部・阪本

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