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気温が下がると空気密度が向上する
「冬場になるとエンジンの調子がいいんだよ」という話を聞いたことはないだろうか。
事実、四輪チューニングカーのサーキットタイムアタックは冬場が本番となっているくらいで「寒くなるとパワーが出る」というのはそれなりの理由がある。
理屈でいうと、気温が下がると空気を構成している分子の密度が上がる。レシプロエンジンは一定容量のシリンダー内に大気を吸い込み、その中にある酸素分子を利用して燃焼エネルギーを得ているわけだから、空気密度が高まるということは、一回の行程で吸い込める酸素量が増えることになる。
増えた酸素量に適切な燃料を混ぜて燃焼させることができれば、エンジン出力が上がるのは自明といえる。この状況を「充填効率が上がった」と表現することもある。
アイドリングから街乗りのような低回転領域では、充填効率の向上は実感しづらいが、最大パワーを発生するような高回転まで使うと、空気密度の違いは明確にプラスに影響する。寒くなるほどパワーが出るため、「冬はエンジンの調子がいい」と表現している人が多いのも納得だ。
油温や水温も上がりづらく、パワーに有利
さらに、ピークパワーを出しているような状態においてはエンジンの発熱量も増えるため冷却の重要性も増してくる。
空冷エンジンであればフィンを通る外気温度が低ければ冷却にはプラスであるし、水冷エンジンでもラジエターに当たる風が冷たければ冷却効率がアップする。四輪チューニングカーのベースとしてはターボエンジンが主流であり、過給した吸気の温度を下げるインタークーラーの性能も外気温度が低いほど高まる。
気温が低い状況は、オイルクーラーの冷却性能も向上することが期待できる。オイルも適温を維持することが潤滑性能とエンジン保護のバランスに優れているわけで、その温度管理は重要なのはいうまでもない。もっとも、駐車中のエンジンオイルは夏場より冷えてしまうので暖機までの時間はかかる点は注意したいところだが……。
いずれにしても、エンジンをベストコンディションとするのに有利な条件がそろっているのが気温の低い冬季といえる。
ただし路面温度も低いわけで…タイヤのグリップに不利なのは注意!
ただし、走り全般にとって最高というわけではない。気温が低いということは、路面温度も低いわけだ。タイヤは温まりづらいし、絶対的なグリップ性能でいえば有利とはいえない。
冒頭で、冬場はサーキットタイムアタックのベストシーズンであると記したが、これは外気温度の低さによるメリットと、路面温度が低いことのデメリットを天秤にかけると前者の優位性が優るということであり、すべてにおいて速く走るために理想的な環境というわけではない。
サーキット走行であればタイヤウォーマーなどを使うこともできるし、短いラップで使い切ってしまうような超ハイグリップ・コンパウンドのタイヤを履くこともできる。しかし公道ではそういうわけにはいかないだろう。二輪の場合は転倒のリスクもある。ワインディングなどで「エンジンが絶好調だ!」と調子に乗っていると、冬の寒さに足をすくわれてしまうことになりかねない。
エンジンには有利な冬季は、タイヤには厳しいシーズンである。そのあたりのバランスが崩れた状態であることを認識して、ライディングを楽しむ意識を持つことが安全な走りにつながるだろう。
レポート●山本晋也 編集●上野茂岐