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1980年、時代の趨勢は4ストロークエンジンの高性能路線に進み始めていたものの、ヤマハは最後になるかもしれない2ストロードスポーツの究極を目指し、RZ250/350を開発。これが1980年代後半の2ストレプリカブームの発火点となったが、ならばRZ250はどんな立ち位置のモデルであったのか? 後の2ストレプリカとの違いを含めて記した回顧試乗記を紹介しよう。
※この記事は別冊モーターサイクリスト2010年11月号の特集「YAMAHA RZ250伝説」の一部を再構成したものです。
ヤマハ RZ250のエンジン「2ストロークスポーツの純粋なピーキー特性」
ヤマハ発動機の創立25周年に当たる1980年、TZレーサーレプリカをうたい満を持して登場したRZ250。その存在はバイク誌をむさぼるように読み始めた当時中学3年の私(1966年生まれ)にも、鮮烈な印象を与えた。レーサー譲りのメカニズムの詳細は、浅薄な知識では読んでも分からないことが多かったものの、水冷の250ccエンジンで、35psという当時の量産車で最高の出力値に心ときめくものがあった。パワーウエイトレシオという言葉が盛んに使われ始め、軽さとパワーが何物にも代え難いバイクの絶対的価値観として喧伝された時代だったから、私はその流れに乗せられて心をときめかせたとも言える。
だが、それから1年あまり後、原付のCB50Sからの乗り換えで購入した軽二輪は、RZのライバルとして登場したVT250F(1982年)だった。こちらもRZと同じ最高出力の250ccスポーツだったが、腕の未熟だった私には、荒々しい2ストローク(RZ)、扱いやすい4ストローク(VT)というイメージがあり、RZに踏み切れない気持ちが植え付けられていたのだろう。
結局その1年ほど後、友人の愛車に乗せてもらい私はRZを初めて味わったが、第一印象は発進時の手強さ、そしてコーナーでの曲がりにくさだった。当時すでに「(ニュートラル)ハンドリングのヤマハ」という評価を雑誌で見知っていたが、もう少し経験を積まないとその真意が分からなかったのだ。
……だが、眼前にある極上のコンディションのRZには、30年近く前の畏怖は感じない。鮮やかなパールホワイトで滑らかに丸みを帯びた形状の外装と、その下にブラックアウトされた水冷パラツインの精かんな印象のコントラストは今見ても新鮮だと感じるし、なぜ当時こちらを選ばなかったのか、ちょっと後悔するほどにまぶしい。
またがってみて、こんなに軽くてコンパクトだったのかと感じるのは、昨今のビッグバイクで麻痺させられたせいだろう。両足はべったりと着き、上体は軽い前傾。昔は分からなかったが、意外にハンドルは低くてバーエンドが下がっているのだなとも感じた。今の基準で言えばレーシーというわけではないが、1980年当時は「攻めモード」の設定だったに違いない。
キック始動を試みてアームが最後まで下り切らないことが分かり、右ステップをたたんで踏むことを思い出した。そして目覚めたエンジンがバランバランと懐かしいパラレルツインサウンドを奏でたが、その音が同行したRD250よりはるかに静かなことも実感した。
クラッチをつないで走り出すとき、「なるほどこれがピーキーの代名詞だ」という低回転トルクにもニンマリした。何気なく5000rpm以下でつなぐと回転が落ち込み、それでも成り行きまかせでクラッチミートして走り出すと、ウゥウゥーとくぐもった音とともに、思いどおりでない加速感が数秒続くが、その内に半クラッチを長めに使いながら走り出すコツや中回転をキープするという走りや、パワーバンドという言葉を思い起こすのである。
「曲がる、止まる、飛ばす」操作に感じる、懐かしくて適度なハードル
ナナハンキラー、TZレプリカ、そして仲間内で言われた走る凶器なんて形容(いや、これはRZ350に対するものだったか)……、RZで当時言われたキャッチフレーズを、走り出しながらどんどん思い出していったが、そのどれもが、今では畏怖ではなく、懐かしさと気持ちよさにすっぽりすり替わっている。これが時代というものかもしれないが、乗り始めの青年には少し手強く、ベテランにも操る楽しさを味わわせる。いわば、バイクに乗るということに対する適度なハードルが、250ccのRZにはあることを改めて実感した。
伊豆のワインディングを走り出してしばらくすると、VT250Fを愛用していた当時に味わったRZの曲がりにくさは、微塵も感じずに流していることに気づいた。そして、むしろ軽快過ぎるとも言えたVTの初期のフロント16インチが作為的だったことが思い出される。
RZのハンドリングを軽快とは思わないが、堅実で粘りを含みながらも自然なものだと感じられる。いわば、RZの前後18インチの、寝かせればその分だけきっちりと舵角が付いて旋回していく感触は、ヒラヒラではないが、車体の動きを教科書のように学ばせてくれる種類のものではないかと思える。
ブレーキタッチや制動力、シフトタッチでは、当時のホンダに少々優位性があったように思うし、そのこともRZの少々の手強さと印象づけられるのだろうが、そこにはバイクから教わる部分や、乗り手がマシンを手なずけていくプロセスがきっちりある。
すでに4ストロークが主流になり始めた1970年代の末、国内各社の2ストロークスポーツは、なるべく4ストロークのように扱いやすくが主流となり、世に言う「じゃじゃ馬」的なモデルはマイルドに調教されていった。一方、RZが鮮烈な印象で後々も人気を獲得したのは、最後の教科書的ピーキーさを持っていたからではないかと、今回の試乗を通じて感じた。
無論のこと、2ストローク250はその数年後のTZRやNSRの時代で性能的な絶頂を迎えるが、それらのレーサーレプリカは、もはやRZの「適度だったハードル」を低くしながら、同時にピーク域を特化させていったように思う。電子デバイスの装着で、低速のトルク不足を補助してトルクの谷をなるべく消し……というように取っ付きをよくし、一方では簡単にパワーを引き出す術を盛り込んだ。しかし、その先に待っていたのは、結局は自前の技量では持て余すことになる高性能と、時に訪れる走りの破綻ではなかったか。
5500rpmから上で滑らかな回転上昇と加速がリンクするRZ250は、6000~8000rpmを多用しつつ走るとき、実に滑らかに鋭く、楽しい。それ以前のRD250にあった実用的な低回転域の加速はないものの、中回転域以上に入ったとき、ひとかたまりに集合していくようなパワーの盛り上がりと爽快な加速感に、ピュアスポーツの真骨頂を感じられるのだ。
後の2ストレプリカに比べれば出力も常用回転も低いものの、この領域を駆使しつつ流すとき、速度は80~120km/hのレベルにある。目ん玉が飛び出るほどではなく、さりとてノロいわけではない健全な速度域と言ってしまうと法規的にはちょっと問題があるが、そうしたスピード感のワインディングで、RZは実に程よい爽快さを感じるのだ。
ナチュラルで刺激的で、適度にピーキーな特性には乗り手に工夫を求める要素もある。そんなRZ250は、紛れもなく今ではなくなってしまった、「ライダーを育てるモーターサイクル」だったのだ。
ヤマハ RZ250のメカニズムを解説(1980年型)
デビュー当初は市販レーサーTZとの類似性が話題となったRZだが、開発陣に「TZレプリカを作ろう」という気持ちはなく(技術的に参考にした部分は多々あったが)、目指したのはあくまでもストリートを楽しく走れるスーパースポーツだった。
とはいえ、国内仕様の車名がRD-LCではなくRZとなったのは、TZとの関連性をアピールするためで、これは当時の国内営業部からの強い要望だったという(TZを思わせる白×赤カラーも同様)。なおRZはデザインという面でも革新的だったモデルで、ニーグリップ部を凹ませたガソリンタンクと、そのタンクにつながるように流麗なラインを描くサイドカバー+テールカウル、後部が跳ね上がったチャンバー、火炎をイメージしたキャストホイールなどは、後世のヤマハ車に多大な影響を与えることとなった。
■メーターは至ってオーソドックスな構成だが(とはいえ、回転計のレッドゾーンはRD250より1000rpm高い9500rpmから)、回転計内には当時としては珍しい水温計が収まっている。
■モノクロス式リヤサスペンション採用によって行き場を失ったエアクリーナーボックスは、フレーム上部に設置。よくぞこの構成で燃料タンクに16.5Lの容量も確保できたものだ。右側サイドカバー内に収まるのはオイルタンクと冷却水のリザーバータンクで、左側にはバッテリーが配備されている。
■水冷化を図りつつも、RD250と同じ54×54mmというボア×ストローク値を採用したピストンリードバルブ式2ストロークツインは、当時のクラストップとなる35psを発揮(RZ350は45ps)。とはいえ、250ccクラスでRZが圧倒的な性能を誇っていたのは1981年までで、1982年以降はホンダVT250FやスズキRG250Γといったライバルからの急追を受けることとなった。
■側面にオイルホースが接続されたミクニVM26キャブレターは350ccと共通だが、内部セッティングは異なる。左右気筒を結ぶジョイントパイプはRDには存在しなかった機構だ。
■専用設計された前後18インチホイールは、「大八車」と呼ばれた既存のヤマハ製キャストホイールに対して、大幅な軽量化が図られた。リヤブレーキをあえてドラムとしたのも軽量化を追及した結果だ。350ccがドリブンプロケットの取り付け面に大容量ハブダンパーを採用したのに対し、250ccはスプロケット取り付けボルトがダイレクトにリヤハブに装着されている(実際には小さな円筒形のラバーがボルト外周に装着されるが、衝撃の干渉にあまり効果はなさそうだ)。
■フロントブレーキは片押し式1ピストンキャリパー+267mm径シングルディスク。実際の動力性能を考えれば350ccと同じダブルディスクを採用してもよさそうなものだが、開発陣はここでもマシン全体の軽さを優先したのだ。
■写真では見えないものの、アンダーブラケットのピンチボルトはRDの1本に対して2本。この部分は乗り味にかなりの影響を及ぼすようで、開発時には3本もテストしたと言う。250ccではトップブリッジと一体化されているハンドルクランプは、350ccではラバーを用いたフローティング式とされた。
■RDと比較するとステップ位置は大幅に後退し、ダイレクト式だったシフトレバーはリンク式に。アルミ製ステップホルダーには、軽量化のための肉抜きが行われている。
■ダブルシートは当時の標準的な形状に見えるものの、デザイン上の理由でタンデム部の肉厚を薄くするという手法は当時としては画期的だった。
ヤマハ RZ250主要諸元(1980年)
■エンジン 水冷2ストローク並列2気筒ピストンリードバルブ ボア×ストローク54×54mm 総排気量247cc 圧縮比6.2:1 燃料供給装置ミクニVM26 点火方式CDI 始動方式プライマリーキック
■性能 最高出力35ps/8500rpm 最大トルク3.0kg-m/8000rpm
■変速機 6段リターン式 変速比1速2.571 2速1.777 3速1.318 4速1.083 5速0.961 6速0.888 一次減速比2.869 二次減速比2.562
■寸法・重量 全長2080 全幅740 全高1085 軸距1355 シート高790(各mm) キャスター26.5度 トレール101mm タイヤF3.00-18 R3.50-18 乾燥重量139kg
■容量 燃料タンク16.5L オイルタンク1.6L
■価格 35万4000円(1980年当時)
レポート●阪本一史 写真●山内潤也