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GB350の年式別の乗り味を比較してみます

2021年に発売を開始したホンダGB350。2023年と2025年にマイナーチェンジを行っていますが、その乗り味はどんな風に変わっているのか、初期型GB350のオーナーである私、カメラマン柴田が比較試乗してみました。
今回は一風変わった試乗で「ホンダGB350の新旧比較」とは言いつつ、通常よくある速さや装備の違いなどではなく、新旧の乗り味にスポットを当てたいと思います。試乗車は自分が所有する2021年型と2025年の最新型の広報車で、乗り味の違いを確かめます。試乗の結果は大きく違うのか、違いはなくまったく同じバイクのままなのか? それを確かめようという企画です。
今回はフリーライターの中村友彦さんに、企画のアテンドをお願いしました。「良い機会なので撮影だけじゃなく乗ってみたら」とお声がけをいただき、折角なのでレポートも書かせてもらいます。
まずは自己紹介をかねてご挨拶から。バイクのメディア業界で40年もカメラマンをやっています。2021年にGB350を購入し、本Webメディアのモーサイで「GB350日記」の連載を展開させてもらいました。その節は拙い文章にお付き合いいただき有難うございました。
ところが自分の仕事中の怪我もあって乗れない日々が続き、連載が滞ってしまいました。ただし、復活後は概ね湘南や箱根をグルグル巡るちょい乗りバイクライフを楽しんでいます。遠いところでは信州のビーナスラインや福島の磐梯山まで、GB350と行ってきました。そして現在の走行距離は9000km弱です。

GB350の特徴をおさらい


まずはおさらいですが、GB350はホンダが「日常から遠出まで」ライダーの経験やスキルを問わずに楽しめるように、車体、エンジンともに新設計したベーシックなスポーツバイクでした。2021年のオールニューの最新型でしたが、エンジンは空冷OHC2バルブ単気筒というこれ以上ないシンプルさです。ルックスはややスポーティなバリエーションモデルのGB350Sと比べると、当時はクラシック的と言われていました。しかしその後に追加になったGB350Cと比較すると、標準仕様はクラシックと言うよりも1970年代的なトラディショナルスタイルです。
これらの特徴は、GB350のメインマーケットであるインドのバイク事情に影響されています(現地での車名はホンダ・ハイネスCB350)。こういう理由から、GB350はパワーや速さを重視されがちな日本のマーケットでは稀有な存在です。
GB350の大きな魅力はエンジンの味わいです。スペック的にはロングストロークなシリンダーサイズなどに注目が集まりますが、実はエンジン全体から車体に至るまで、ライダーが歯切れの良いエンジンの鼓動を味わえるように徹底的に工夫された設計になっています。
大事なことなので2度書きますが「エンジンの歯切れ良い鼓動を味わえるように、オールニューの最新技術で作られたオールドスタイル車」というワケです。実際にGB350に乗ると、エンジン回転の鼓動の粒がクリアにそしてビンビン感じられ、スピードに依存しないモーターサイクルの世界を楽しむことができます。
しかもコンセプト通りにちょい乗りから1000kmツーリングまで、乗ればいつでも、そして乗っている間はずっと、GB350の趣味性の高い乗り味を堪能することができます。
以上が自分がGB350に感じていることです。発売から5年目ですが、若者から熟年まで年齢を超えて販売好調だと聞きます。その理由はGB350ならではの個性的な魅力と楽しさが、多くのライダーにフィットしている証拠だと思っています。
GB350のモデルチェンジと排気ガス規制


ここで、簡単にGB350の5年間のモデルチェンジの流れを説明します。2021年に発売された際には、ベーシックタイプのGB350とややスポーティなGB350Sの2モデル展開でした。2023年には両モデルとも平成32年(令和2年)排出ガス規制に適合するためのキャタライザーの大型化などの配慮がなされています。そして、2024年にはクラシックスタイルのGB350Cが追加されています。
さらに今回比較モデルとなった2025年モデルでは、装飾などが施されて質感を向上しています(それぞれの細かい変更点はここでは割愛します。近日中に掲載予定の中村さんの記事をご参照ください)。
メーカー発表の情報では上記のように書かれていますが、今回2車を並べて比較すると、クランクケース等も変更されていました。このように、メーカーは見えない部分も含め品質向上のために日々さまざまな改良を行なっています。
自分は愛車のGB350を気に入っており、新型への買い替えを考えることはありませんが、バイクメディアの端くれとして、新しいGB350はどう変わっているのか気になっています。
特に2023年型以降のGB350は、自分の2021年型より厳しい排気ガス規制に対応しています。誤解のないように書いておきますが、排気ガス規制が厳しくなってもメーカーの開発は進み、過去のモデルよりも高性能になって登場することも珍しくありません。例えば2018年までのCBR1000RRは最高出力192ps、現行車のCBR1000RR-Rは218psです。
比較試乗で分かったスムーズな2025年型と鼓動の粒


ではGB350の鼓動の粒はどうなっているのでしょうか。ここからは実際に比較試乗で感じたことを書きます。
2025年型で走り出して最初に感じたのは、エンジン回転のスムーズさです。自分の2021年型に比べると軽く回転する感触ですが、実際の加速やスピード上昇は変わらない感じです。もし差があるなら、2025年型の方が僅かに速いかもしれません。
ここでGB350のエンジンについて説明させてください。一般的にバイクに乗る際は、アクセルとエンジンの吹け上がりをシンクロさせるようにシフトアップを繰り返して増速します。ブーン、ブーン、ブーンと加速をしつつ、この間に数千回転の間で吹け上がり(タコメーターがないので未確認ですが)、シフト、吹け上がり、シフト、吹け上がりの繰り返しです。
そして、この間の吹け上がりの様子がエンジンの味わいなのだと思います。例えばスポーツバイクの高回転域まで突き抜ける吹け上がりに、惹きつけられるライダーも多いのではないしょうか?
一方、自分が感じるGB350のエンジンの味わいは上記と少し異なり、吹け上がってこないギヤを選びアクセルを多めに開けます(自分の場合は上り坂で4速60km/h弱からアクセル全開です)。するとGB350は急激な加速をすることなく、ゆっくりとエンジンが吹け上がっていきます。
この「吹け上がりを待っている」時間で、イライラする人もいるかもしれません。シフトダウンしたくなる方もいるかもしれません。しかしこの「低めの回転域でアクセルが大きく開いている状態」のGB350は、エンジン回転の鼓動をより強く感じられる「至福の時間」です。この鼓動を感じる時間がより長くゆっくり吹け上がってくれるのが、GB350ならではの魅力だと自分は思っています。

ワイルドな印象の21年式と、整った吹け上がりの25年式、でも差は少ない

説明が長くなってすいません。インプレに戻りましょう。では2025年型の至福の時間はどうなっているでしょうか? 適正なギヤでの吹け上がりは軽くなっていましたが、吹け上がりを待っている「至福の時間」は変わらず強いパルス感があり、鼓動の粒が自分にビンビン伝わってきます。
「あー、変わってなかったぁ」と安堵しつつ、自分の彼女(2021年型)の妹(2025年型)とのデートライディングを楽しませていただきました。まったく同じところもあり、違っていても深掘りして見つかる程度の僅かな差です。
あえてその差を強調して言うと、全域において自分の2021年型の方がワイルドで、2025年型の方が整っています。自分の好みで選ぶなら「至福の時間」は2021年型の方が鼓動の粒を拾いやすく、ワインディング走行などで回転数が上下し始めると2025年型の方がより優しい分だけ乗りやすい印象です。
しかし、その違いは僅か。例えばよく褒められるGB350の排気音も、2025年型だけ聞けば、その違いに気づく人はかなり少ないと思います。車体側のフレームの違いも僅かで、正直言うと自分には違いは感じられませんでした。Uターンでもペースを上げたワインディングでも、感じる扱いやすさは2台とも変わらないGB350の美点です。
一方、自分に分かりやすかった違いはシートでした。2025年型の方が座り心地が良く、質感も良い表皮に変わっているので交換したいくらいです。ちなみに足着き性に違いは感じません。

2025年型の新車と2021年型の中古車、買うならどっち?

年式の違いを気にするユーザーさんがどのくらいいるのか分かりませんが、例えば新車と中古車を迷っているとしましょう。総合的に言うと年式による乗り味の違いは少なく、2025年型を購入し「GB350らしさがない」とガッカリすることはないはずです。逆に車体色や追加装備などにこだわりがあるなら、中古車という選択もアリです。
年式による違いを確かめるという今回の試乗ですが、GB350のモデルチェンジでの開発が「そのバイクの個性を変えずに完成度を高める」という方向で進んでいた事を認識できて興味深いものでした。
GB350はスピードに依存しない、あるいは価格や排気量、豪華さのマウント合戦に巻き込まれない独自の個性と楽しさを持っています。ユーザーに愛されホンダの大事なラインナップとして、今後も生産が続いていくことを祈っています。

GB350主要諸元
※< >内は21年式
■エンジン 空冷4ストローク単気筒OHC2バルブ ボア・ストローク70×90.5mm 排気量348cc 圧縮比9.5 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力15kW(20ps)/5500rpm 最大トルク29Nm(3.0kgm)/3000rpm 燃費39.4<41.0>km/(WMTCモード値)
■変速機 5段リターン 変速比1速3.071 2速1.947 3速1.407 4速1.100 5速0.900 一次減速比2.095 二次減速比2.500
■寸法・重量 全長2180 全幅790<800> 全高1105 軸距1440 シート高800(各mm) キャスター27°30′ トレール120mm タイヤF100/90-19 57H R130/70-18 63H 車両重量179<180>kg
■容量 燃料タンク15L エンジンオイル2.5L
■車体色 パールホークスアイブルー、マットバリスティックブラックメタリック、クラシカルホワイト<マットジーンズブルーメタリック、キャンディークロモスフィアレッド、マットパールモリオンブラック>
■価格 67万1000円(パールホークスアイブルー)、64万9000円(その他2色)<55万円>
文と写真●柴田直行
柴田直行(しばた・なおゆき)
モーサイwebや月刊モーターサイクリストでも撮影しているプロカメラマン。バイク雑誌を中心に30年以上にわたって撮影活動を行なっている。子育て時期とデジタル化の波を同時に被ってXR250を手放したが21年型GB350で約8年ぶりにリターン。50歳代のバイクライフをGB350と共に再スタート。