イベント

「ビンテージバイク・ラン in TSUSHIMA」に見る100年の二輪文化〜走る人、見る人、みんなが幸せになった一日〜

会場には当時の「天王川オートレース」を見ていた人も

イベントののぼりの後方に橋がありますが、当時の大会では橋もコースの一部でした。最終コーナー手前での熾烈な競争が繰り広げられた様子が想像できます。

【75歳の男性 津島市在住】
「20歳の頃ここで見たよ。砂埃がすごくて見るのも大変だったが、迫力はあったねぇ。池の周りを走るコースは当時と同じだが、もっと広かった。あちこちに桟敷席があった。入場料は取らなかったからタダで見られたよ。池を渡る木の橋は昔もあった。木なので滑って転んで順位が変わり、ここが勝負所だった。この公園が人で埋まったね。バイクが走るところを見られて感激だよ」

【76歳の男性 津島市近郊に在住】
「新聞で天王川を昔のバイクが走るというニュースを見てやってきた。昭和42年のレースを間近で見た。23歳ころだったね。このあたりが人で満杯になって、それは凄い大会だった。1986年に、ここでパレードランと模擬競争を行った時も見ている。今日は、当時の写真を主催している人たちに見てもらおうと持ってきたんだ。居てもたってもいられなかった。来年もぜひやってもらいたいね」

と、当時のアルバムを広げていると、周りには数名の観客が集まり当時の話に花が咲きます。最後のレースの時に、公園でお好み焼き屋をやっていたという婦人は、アルバムの写真を撮影しながら、感慨にふけっていました。

【20歳代の女性 家族3名での観戦】
「見たことのないバイクがいっぱい走っていて、音も匂いもすごい。走っているところを家で待っているおじいちゃんに見せてあげたい」

と、最前列で熱心に映像撮影をしていました。
このように家族連れで見学している人が多く見かけられました。100年前のバイクが走るわけですから、バイクに詳しくない人にとっても必見のイベントでした。
このイベントを通して、世界と日本の二輪車産業の歴史と進化、そして盛衰に至るまで肌身に感じることができました。

1967年の大会の写真。
1986年に津島青年会議所が主催したイベントの様子。

戦後の中京地区は、二輪産業が活発な土地だった

会場には、名古屋郷土二輪館を運営し、中部産業遺産研究会会員をされている、冨成一也氏が収集された天王川オートレースに関わる資料が公開され、会場を訪れた人たちが熱心に観察していました。
(冨成氏は八重洲出版が発行した数々の出版物に、中京地区の二輪車産業の歴史について執筆しています)

30歳ころから休日を利用して、二輪産業にゆかりのある方々や天王川オートレースに出場された方や家族に面会して、お話を伺いながら資料の収集に努められたとのことです。
多くは、残されていなかったそうですが、会場に展示された当時のプログラムや優勝旗、賞状などから当時の歓声が聞こえてくるようです。

1967年大会のカップと賞状。
1967年大会の公認車両リスト。カワサキ500メグロK2やスポーツカブのほか、トーハツやブリヂストンなど今は無きメーカーの名も。
当時の大会優勝旗。

冨成氏の説明によると……
「中京地区は、戦前から毛織物の産業や軽機械工業が盛んな地域で、毛織物で財を成した人たちによる協賛や選手の育成などで大会を全面的に支えてきました。戦後の中京地区では二輪車産業が新たに栄え70社を数えるメーカーが存在していました。オートレースも様々なメーカーが出場しました。1950年代後半になると、東海地区のホンダ、スズキ、ヤマハが高性能な二輪車を続々と販売し、中京地区の二輪車産業は衰退の一途をたどります。また、繊維関連の産業の衰退と、1959年(昭和34年)の伊勢湾台風による甚大な被害もあり、天王川オートレースは、1967年(昭和42年)を最後に幕を閉じました。そして、1962年(昭和37年)に本格的な国際レーシングコース・鈴鹿サーキットが開業したのも少なからず影響していたと考えます」

1930年の写真。当時の桟敷席の様子がわかる写真です。

ここで、二輪車の歴史と天王川オートレースを時系列に並べてみたいと思います。
大変大雑把なのですが、少しでも時代背景がわかりますと、より一層興味が湧いてくると思います。そして天王川オートレースが1967年まで開催されていたという事実に改めて驚かされます。

  • 1885年 ドイツのゴットリープ・ダイムラーによる二輪車第一号が誕生
  • 1888年 ダンロップによる空気入りタイヤが誕生
  • 1899年 英国マチレス社がエンジン付き自転車を発売
  • 1902年 英国トライアンフ社が自転車にベルギー製エンジンを搭載し発売。英国ノートン社がプジョーエンジン搭載車を発売
  • 1903年 米国ハーレーダビッドソン社が406ccの二輪車第一号を発売
  • 1907年 第一回マン島T.T.レースが開催される
  • 1909年 島津楢蔵による国産第一号の二輪車「NS号」が完成
  • 1911年 ビンテージバイク・ランin TSUSHIMAのパレードランに参加した最も古い車両「ABINGTON KING DICK」が生産される
  • 1913年 関西の鳴尾にてオートレースが開催される
  • 1914年〜1918年 第一次世界大戦
  • 1926年 天王川で第一回全国オートバイ競争が開催される
  • 1926年 名古屋をスタートするオール日本T.T.レースが開催される。北陸、信州を回る1280kmの行程
  • 1930年 多田健蔵氏がマン島T.T.レースに出場(日本人として初)
  • 1939年〜1945年 第二次世界大戦
  • 1946年~ 中京・関西・東海・東京各地域で原動機付き自転車や二輪車を生産する企業が急増
  • 1946年 本田技術研究所設立、ホンダA型(自転車補助用エンジン)を発売
  • 1953年 名古屋T.T.レースが開催される
  • 1955年 第一回浅間高原レースが開催される
  • 1959年 ホンダがマン島T.T.レースに出場(日本メーカーとして初)
  • 1962年 鈴鹿サーキット開業
  • 1967年 最後の天王川オートレースが開催される
  • 1986年 天王川公園にて、津島青年会議所主催によるパレードを開催
  • 2020年 第3回「ビンテージバイク・ランin TSUSHIMA」が開催される

パレードランをした1925年製トライアンフSD
パレードランをした1928年製インディアン。
1931年製フォードA型が会場に花を添えていました。
観客のバイクにもビンテージものが多数!
大会を終えて参加者全員の記念写真。

レポート●高山正之(元Honda広報部 二輪担当) 写真●モーサイ編集部 編集●上野茂岐
参考資料●『輸入車100年史』(1988年八重洲出版)

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