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バイクにも採用が進む(ホンダだけだけど)自動変速機「デュアルクラッチトランスミッション」って何だ?

DCTは「スクーターのCVTとは異なる有段変速装置」

ホンダが3月5日、大型クロスオーバーモデル「X-ADV」(エックスエーディーブイ)のフルモデルチェンジを発表しました。従来モデル通り、エンジンは750cc2気筒でブレーキレバーは左手で操作するというスクーター的な操作系になっています。
だからといって、トランスミッション(変速装置)はスクーターの定番であるベルトによる無段変速(CVT)ではありません。X-ADVのトランスミッションは引き続き「DCT」だけの設定となっています。

DCTというのは「デュアル・クラッチ・トランスミッション」の略称です。
構造的には、いくつもの歯車を組み合わせたオートマチックトランスミッションとなっています。
そして、X-ADVだけでなく、ホンダの大型二輪では3月にニューモデルとして登場した「レブル1100」、「X-ADV」の兄弟車といえる存在で同じく2021年にフルモデルチェンジを果たした「NC750X」、はたまた「CRF1100L アフリカツイン」や「ゴールドウイング」といったモデルにもDCTは設定されています。

ホンダのDCTは2010年に初めて市販二輪車に搭載され、歴史を重ねてきたテクノロジーです。

3月25日に発売となるフルモデルチェンジを受けたホンダ X-ADV(6速DCT搭載・132万円)。エンジン出力の向上、軽量化した新フレームの採用、デザインの刷新などが行われている。
X-ADVの右スイッチボックス。自動変速の「D」、AT/MT切り替えの「A/M」、ニュートラルの「N」など、DCTの走行モードに関連するスイッチが配されている。
X-ADVの左スイッチボックス。MTモードを選択した場合、「−」(グリップ手前側)「+」(グリップ奥側)のボタンで変速操作を行う。

DCTの特徴は「トルク切れのない高伝達」

そのメリットは有段ATながらトルク切れ(変速時に一時的に駆動が伝わらない状態)が起きないこと、構造的な部分による変速スピードの速さ、そして伝達効率の高さにあります。

DCTというのはマニュアルトランスミッション・ベースのAT版といわれることもあります。たしかに変速比ごとに歯車を用意しているという点では似ていますが、厳密には異なります。
DCTの構造を非常に簡単に説明すると、奇数段(ホンダでいえば1・3・5速)と偶数段(2・4・6速)のそれぞれにクラッチを持たせ、交互につなぐことでなめらかな変速を実現するというものです。このように奇数段と偶数段あわせてふたつのクラッチがあることがデュアルクラッチトランスミッションという名前の由来になります。

たとえば、1速で発進したのち、2速は変速を終えてクラッチを切った状態で待機しておいて、奇数段のクラッチを切るのと同時に偶数段のクラッチをつなげば、前述したようにトルク切れのない変速が可能になります。
そこから速度が上がっていくのを検知すると奇数段は3速に変速した状態で待機していますから、2速からスムースにシフトアップできるというわけです。

3速巡行から速度が落ちてくるとトランスミッション制御プログラムはシフトダウンを予想、ふたたび2速で待機しておいて速度にあわせてシフトダウンします。さらに停止時には自動的にN(ニュートラル)に入れ、アクセル操作に応じて自動的に発進時のクラッチ操作も行なうというものです。

2010年、ホンダが初めてDCT採用車として発売したVFR1200。現在に至るまで、DCT搭載の二輪車を市販しているメーカーはホンダのみとなる。
X-ADVやNC750Xの前身、NC700シリーズに搭載されたDCTのカットモデル。左側がクラッチで、右側の歯車が連なった部分が6速ミッション。赤色が奇数ギヤ&奇数ギヤ担当クラッチ、青色が偶数ギヤ&偶数ギヤ担当クラッチ。
ホンダNC700シリーズに搭載されたDCTの構造イラスト。

このように完全に自動変速も可能ですし、手元のスイッチで任意のシフトチェンジも可能。いずれにしてもふたつのクラッチを活用することでトルク切れはありませんし、変速スピードもマニュアルトランスミッションより格段に速くできる理想のシステムなのです。
余談ながら一部のモデルではオプションにより足元でマニュアルシフトチェンジができるシフトペダルが用意されていますが、シフトチェンジそのものは電気的に行なっています。

四輪市販車では2000年代前半に、欧州メーカーがDCTの採用を進めた

二輪ではホンダが採用したことでおなじみのDCT、ホンダのオンリーワン技術といったイメージもありますが、そもそも四輪では2010年以前から存在しているテクノロジーでした。

そのルーツといえるのがポルシェのレーシングマシンに採用された「PDK」(ポルシェ・ドッペル・クップルング)で、1980年代のグループCカーなどに搭載されたことがあります。

量産車でDCTがメジャーな存在になったのは2003年です。
最初に搭載したのはフォルクスワーゲン。同社では「DSG」(ダイレクト・シフト・ギアボックス)とネーミングされているユニットが、DCTです。
奇数段と偶数段で変速ギアをわけ、ふたつのクラッチによって素早いシフトチェンジを行なうという仕組みは「理想の変速装置」として、次世代トランスミッションの主役になると、その後世界中の四輪メーカーがDCTの採用を始めました。

フォルクスワーゲン・グループのアウディでいえば「Sトロニック」というのがDCTに与えられた名称。BMWは「M DCT」、メルセデスは「7G-DCT」という名称で主にFF系モデルに搭載しています。そのほかアルファロメオでは「アルファTCT」、ルノーでは「EDC」という名称で広く採用されています。
当然ですが、DCTをモータースポーツシーンで活用していたポルシェは市販車にも「PDK」という名前で展開しています。

ポルシェの市販車では、2008年の911からPDKを採用。写真は2008年モデル911用PDKのカットモデル。
2008年モデルのポルシェ911 PDK搭載車のシフトレバー。通常のAT車のように、右側にP、R、N、Dのポジションがあり自動変速でも走れるが、M、プラス、マイナスと書いてある左側へレバーを操作すればマニュアル変速が行える。

ホンダの四輪では「ハイブリッド」にDCTを使っていた

日本車ではDCT採用モデルは少ないのですが、スポーツカーでいえば日産GT-Rが採用しているのが有名でしょう。ホンダNSXの9速トランスミッションもハイブリッドとの組み合わせが前提ですが、構造的にはDCTといえるものです。

ホンダが旧型フィットなどに採用していた「スポーツハイブリッドi-DCD」も同様に7速DCTとモーターを組み合わせた非常にユニークなハイブリッドシステムでした。
この「スポーツハイブリッドi-DCD」の市販車初搭載は2013年のことですから、ホンダにおいては二輪のほうがDCTでは先行していたことになります。

2013年に登場したホンダ フィット・ハイブリッド。1.5Lの直4エンジンにモーター内蔵7速DCTを組み合わせていた。

四輪同様、二輪のDCT車も「AT免許」で乗れる

2021年モデルでマイナーチェンジが行われたホンダ ゴールドウイングシリーズ。リバースギヤ付き7速DCTを搭載する。
従来までは6速MTモデルもラインアップされてきたゴールドウイングシリーズだが、マイナーチェンジを受けた2021年モデルからはDCT仕様のみとなった。

さて、DCTというのは素早いマニュアルシフトもできますが、クラッチは機械が操作しますからクラッチレバーやクラッチペダルは存在しません。ですから、四輪でも二輪でもAT限定免許で運転することができます。
大型二輪AT限定免許については、かつては650ccを上限とするという制約がありましたが、2019年12月の法改正で排気量規定が撤廃されたため、いまではホンダのDCT車などに大型二輪AT限定免許で乗れるようになりました。

クラッチ操作が決まったときの楽しさや、マニュアルシフトによるマシンとの一体感というのもライディングの魅力ですが、渋滞や悪路などでは機械に変速やクラッチの操作を任せたほうが楽に乗れるのも事実です。
今後、二輪でもAT車は増えていく傾向にあると予想されますが、オートマチックトランスミッションでのスポーツドライビングという点ではDCTの普及を期待したいものです。
ポルシェやフェラーリ、GT-RにNSXといった名だたるスポーツカーが採用しているDCTですから二輪のスポーツドライビングでも、その価値が評価されることは間違いありません。

日産 GT-R(写真は「GT-Rニスモ」)。通常570馬力、GT-Rニスモでは600馬力を発揮する3.8LのV6ツインターボエンジンには6速DCTが組み合わされる。
ホンダ NSX。507馬力を発揮する3.5LのV6ツインターボエンジン+3モーターを組みわせたハイブリッド車で、システム出力581馬力。9速DCTを組み合わせる。
NSXの運転席。シフトレバーはなく、変速操作はハンドルにあるパドルシフトで行う。

レポート●山本晋也 写真●ホンダ/ポルシェ/日産 編集●上野茂岐

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