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ダカール2連覇、1-2フィニッシュ、どちらもホンダにとって1987年以来の快挙
サウジアラビアで2年目の開催となった2021年のダカールラリーは、長いスペシャルステージ、時に大きな石を隠した深い砂、そしてトリッキーなルート指定と、攻略の難しい内容だった。
「総走行距離7649km・スペシャルステージ4767kmを14日間で走る」という行程で争われた2021年ダカールラリーだが、4台体勢で臨んだMonster Energy Honda Teamはケビン・ベナビデス選手が優勝。
同チームで2020年の勝者、リッキー・ブラベック選手はベナビデスから5分差の2位となったが、ホンダは1-2フィニッシュで2連覇を達成した。

2021年は「ナビゲーションが難しくなると予想していたが、やはりそこが課題となった。全く気の抜けない2週間だった」とHRC本田太一監督が言うように、ラリー前半ではミスコースが続出し、順位は大きく乱高下した。
特に2020年の覇者・ブラベック選手はナビゲーションのミスと、走行ペース配分の失敗で低迷してしまう。
その中でジワジワとペースを上げてきたホセ・イグナシオ・コルネホ選手がSS7で、総合トップに浮上。
SS1からトップを走っていた最大のライバル、KTMのトビー・プライス選手に対してトータルコンマ1秒という文字通りの僅差であり、全く予断を許さない状況ではあったが、SS9でプライス選手が転倒リタイヤ。これで中盤以降ペースが安定してきたホンダの4台がトップのコルネホ選手を含めて上位5位以内に結束した。
コルネホ選手、バレダ選手が後半リタイヤとなったが……
しかし、そのコルネホ選手がSS10で激しく転倒しリタイヤ。
代わって総合トップに立ったベナビデス選手が、ラスト三つのSSを制して自身初の優勝を獲得し、後半で猛烈な追い上げを見せたブラベックが約5分差の2位となったのだ。また、SS10まで4位にいたジョアン・バレダ選手は、SS11で給油ポイントを見逃しリタイヤしている。
「数分という僅差の争いが続き、最終日まで行方の分からないレースだった。チームとしてはこれまでの8年間のダカールラリー参戦の内容を振り返り、チームクオリティーの向上、上位ライダーの強化を行ってきた(このため参戦ライダーが従来の5名から4名に絞られた)。今年はラリー直前でマラソンステージにおけるライダー同士のサポートが禁止されたので、結果的に我々の構想が功を奏したと思っている」(本田監督)
使用マシンのCRF450ラリーは2020年型からの進化熟成となっているが、引き続きエンジンの耐久性確保を念頭に置き、2021年型はエンジンドライバビリティの向上、規則による可倒式スクリーンの新設などが行われているが、マシンに大きなトラブルがなかった点も勝因のひとつだろう。
「大きく変更を加えると、そこでトラブルを誘発しやすいので、変更点には慎重な検証を行いながら開発した。舞台が南米からサウジアラビアになってアベレージスピードが落ちたので、低中速の充実などエンジンコントロール性の向上を目論み、今年はルートに石が多かったので、サスペンションの作動性も意識した」(本田監督)
本田監督はまったく意識していなかったと言うが、ホンダのラリーレイド2連覇は1987年のパリ・ダカールラリー以来34年ぶりである。果たして砂漠に強いホンダの復活は本物になったのだろうか?
「優勝できたものの、ステージ10と11のリタイヤで完走率は50%であったことは大きな課題。来年は100%で3連覇を目指す」と本田監督は決意を新たにする。
HRCレース運営室オフロードブロックマネージャー本田太一氏

元全日本IAモトクロスライダー。ホンダ入社後はモトクロッサーの開発を経て、2013年のダカールラリー復活時からマシン開発を担当。2017年からチームを統括するラージプロジェクトリーダーに就任している。
2021年ダカールラリーを戦ったMonster Energy Honda Team4名の選手

ケビン・ベナビデス選手(総合1位)
アルゼンチン出身・32歳。エンデューロレース出身でISDEで4回の金メダルに輝いている。トレーニングに熱心でフィジカル面に優れ、バランスの取れたライダーという評価。


リッキー・ブラベック選手(総合2位)
アメリカ出身・29歳。2014年にはAMAのヘア&ファウンド、バハ1000&500という北米の主要タイトルを制覇し2016年からダカールラリー参戦。最速レベルのスピードを誇る。


ホセ・イグナシオ・コルネホ選手
チリ出身・26歳。チーム最年少ライダーで2016年のFIMジュニアクロスカントリーラリー世界選手権のチャンピオン。2018年にチーム加入、4年目の2021年は後半戦で快進撃を見せたが、SS10にてリタイヤ。


ジョアン・バレダ選手
スペイン出身・37歳。モトクロス出身、2013年からダカールラリーを走るチーム最古参。チーム最多のSS優勝回数を誇り、その豊富な経験に裏付けられた走りで常にトップ争いを展開。残念ながらSS11でリタイヤ。


2021年型ホンダ CRF450RALLY(ラリー)


エンジンは449.4ccのDOHC水冷単気筒で、ボア×ストロークは97.0mm×60.8mm。公称最高出力は45kW(61.2馬力)以上とされている。
フレームはアルミツインチューブに、カーボン製サブフレームを備え、燃料タンクは前後合わせた総容量が34.7L。サスペンションは前後ともSHOWA製で、ストローク量310mmの倒立フォークに、ストローク量305mmのシングルチューブリヤショックという組み合わせ。ブレーキはフロントが300mmディスク+2ポット、リヤ240mmディスク+1ポット。
年々熟成が重ねられており「舞台がサウジアラビアになり平均速度が落ちたので、低中速の充実などエンジンコントロール性の向上を目論んだ。2021年はルートに石が多かったので、サスの作動性も意識した」とHRC本田監督。
レポート●関谷守正 写真●ホンダ 編集●上野茂岐
*当記事は八重洲出版『モーターサイクリスト2021年4月号』の記事に編集・加筆を行ったものです。