不整地走行を想定したホイールサイズやストロークの長いサスペンション、大型のウインドプロテクションに大容量燃料タンク──。
そうした要素を備える「アドベンチャー」(*)のルーツをラリーマシンに見る場合、現在のKTM製アドベンチャーで最も「ラリー直系のマシン」と言えるのがV型2気筒「LC8エンジン」を搭載する「1290スーパーアドベンチャーS」だろう。
編集部註*荒れた路面への対応力を有し、長距離ツーリングも可能なマシンのジャンル。かつては「マルチパーパス」、「アルプスローダー」などとも呼ばれた。
今日、ダカール・ラリーなどを含めたラリー用マシンは上限排気量450ccまでとなっているが、そのレギュレーションが開始される以前のこと。KTMは2001年、長年ラリーで戦い続けてきた「LC4エンジン」によるマシン「LC4 660R」で悲願のダカール・ラリー初優勝を遂げる。
するとその翌年、KTMはラリーの舞台へとんでもない大排気量マシンを投入する。950ccV型2気筒「LC8エンジン」を搭載する「950ラリー」である。
さらに驚くのは、「950ラリー」は初参戦にしてダカール・ラリー優勝という輝かしい実績を上げたのだ!

そう、「LC8エンジン」はダカール・ラリーを筆頭とするラリーマシンのために開発されたエンジンだったのだ。レースを通じて開発・熟成が行われた後、2003年には「パリダカレプリカ」と言える公道版「950アドベンチャー」をKTMは発売する。
その後「LC8エンジン」は排気量拡大を行いつつ、990アドベンチャー、1050アドベンチャー、1190アドベンチャーへと進化を続けていくが、最新の1290スーパーアドベンチャーシリーズでは排気量1301ccとなり、最高出力160馬力の性能を手に入れるに至った。
当記事では排気量の異なるKTM アドベンチャーマシン3車を同時にテスト。動力性能、電子制御ともに圧倒的なパフォーマンスを持った、1290スーパーアドベンチャーSの走りとは?
KTM 1290スーパーアドベンチャーSってどんなバイク?
KTM 1290スーパーアドベンチャーSは、160馬力を発揮するパワフルなVツイン「LC8エンジン」を搭載。
オフロード走行対応のABS・トラクションコントロール・ライディングモードなど多彩な電子制御システムを満載し、クルーズコントロール・セミアクティブサスペンション(電子制御サスペンション)・シート高可変機構・調整可能スクリーンなど長距離ツーリングを可能とする快適機能も備えている。
まさに、KTM アドベンチャーシリーズのトップモデルといえる存在である。

Ready to Race のパワフルな「LC8」エンジン
390、790、1290と排気量違いの3車を用意するKTMのアドベンチャーシリーズの中で、フラッグシップとも言えるKTM 1290スーパーアドベンチャーS。
990アドベンチャーの時代には、オフロードイメージの強かったスーパーアドベンチャーであるが、1190アドベンチャーにモデルチェンジした際にオンロード色が非常に高まったと記憶している。現在の1290スーパーアドベンチャーは、オフロード志向の強いフロント21インチとなるRモデルをラインアップすることで、このSモデルはよりオンロードでの走りにフィーチャーした印象を持った。
足まわりはアドベンチャーらしいソフトな肌触りを想像すると意表を突かれる。これはKTMに多く採用されるリンクレスのリヤサスペンションによる初期の硬さによるものかもしれない。
しかし、ある程度スピードが乗ってくると大柄なマシンがコンパクトに感じられるような一体感を味わえる。このクラスとしては軽量であることと車体剛性の高さによりソリッドな印象で、操作に対してお釣りが出てしまうような兆候が全くない。
そして圧巻なのはそのパワフルさ。特にライディングモードにスポーツを選択すると、どこからでも恐ろしいほどの加速をする。
高速巡航でも、日本の法定速度をやや超えたハイスピード域でのピタリとした安定感は並のアドベンチャーでは出せないものである。ややアグレッシブな気持ちにさせるマシンではあるが、それがこのスーパーアドベンチャーの魅力でもある。
その一方、レインモードを選択すると、穏やかさはグッと高まるという懐の深さも見せてくれる。また、レインとはなっているが、実はドライであっても選択する機会が少なくなかった。




1290スーパーアドベンチャーシリーズの中でも、Sモデルはオンロード走行を重視
ワインディングでは硬めにセットされた足まわりによるレスポンスの良さ、リニアさが味わえる。それは装着タイヤにやや依存する印象もあるのだけれど、それも含めてオンロード的と言えるキャラクターとなっている。
結果的に、オフロードでの印象はフレンドリーなものではなかったが、こちらもそのニーズにはRを用意。Sモデルはオンロードでの走りを重視することにより、汎用性を高めているのがブランドの飛躍にもつながっているように感じられた。

ライバルモデルをベンチマークとして設定することなく、自分たちの培ってきた技術や思想を信じ作り込むのがKTMの潔さ、素晴らしさでもある。オフロードシーンでもMotoGPであっても、そのポリシーを貫き通し、それがしっかり実を結んでいる。
そんな同社のスローガン「Ready to Race」をもちろん備えながらも、さらに追加する形で与えられた汎用性が好感触につながっていると感じたのだった。

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