S&S製「T124」2032cc OHV 空冷V型2気筒エンジンが咆哮をあげる
高速道路へ駆け上がったKRGT-1は水を得た魚のように嬉々として、難なく速度を増していく。1500rpmからの加速はどのギヤに入れていても、まるでトルクの大波に押されているかのよう。
3000rpm以下で130km/hに達し、そこからアクセルをキモチひねっただけであっという間に160km/hを超え、そのままさらに加速しようとする底力をこのマシンは持っている。が、この国の警官は武装しているので全開走行はやめておくことにした。
クルージング中もライディングポジションに違和感はない。筆者の身長は割と低いほうだが、ハンドルもステップも遠くには感じない。路面の凹凸やうねりを越える際、硬めのサスに突き上げられてシートから弾かれるのではないかという懸念もまったくの杞憂で、乗り心地は素晴らしい。
120〜130km/hで巡航するとエンジンは3000rpmあたりで整然と回っていて、ハンドルからは微かな、それでいて不快ではないバイブレーションが伝わってくる。



その後は、全長80km以上ものワインディングの連続を新型KRGT-1で攻めまくり、そのスポーツ性能を試させていただく。
幅広のリヤタイヤと長いホイールベース、寝かされたフロントフォークから想像するに、直進安定性はバッチリだろう。さて……倒し始めはやや渋い。が、バンク角5度を超えて倒し込むと、マシンは思い通りかつ優雅にコーナーをなぞりだす。そこから先はバンク角と舵角を釣り合わせて回るだけだ。スポーティクルーザーの大多数と異なり、コーナーの頂点でステップやマフラーを擦ることもない。
もう少し高めの速度でコーナーに進入し、さらに倒し込んでみるが、結果は同じ。ハーレー乗りにとっては夢のような、スポーツバイクばりの深いバンク角が確保されている。これでバックステップに換えてハンドル位置を下げたら、コーナーで膝が擦れるだろう。
オーリンズ製の高品質サスは重量のあるシャシーをがっちり支えている。リヤの沈み込みは極少なうえ、地上高には予想以上の余裕がある。さっきから何度も筆者の意表をついてくる波状路面も開発段階で織り込み済みらしく、タイヤ接地面以外が路面を擦るようなことはない。これほど固められた足まわりであるにもかかわらず、駆動トルクをどれだけぶち込もうがタイヤは路面をぐわしとつかんだままだ。
トラクションコントロールといったライダー支援機能は無いので、さすがの極太ミシュランもいつかは根負けするだろうけれど、よほどタイヤが冷えきっているか鬼のようなアクセル操作でもしないかぎり、グリップが失われることはないだろう。

フロントフォークは48mm径のフルアジャスタブル。リヤと同じくオーリンズ製で、スポーツ寄りの味付けだ。ブレーキは244kgの車重+ライダーの体重を受け止めるべく強化され、スポーツバイク級の制動力と高い耐フェード性を備えた6ポットのISR製キャリパーが奢られている(筆者追記:今回のモデルチェンジに際してブレーキシステム全体が一新され、ボッシュとの共同開発による2チャンネルABSを装備、リザーバーも新しいタイプになっている)。
ワインディングを長時間走っていて何よりも感心するのは、コーナーからコーナーへの切り返しでライダーがここぞとばかりに派手に逆ハンを当てたり、片方のステップを踏み込んだりする必要がまったくないということ。こうした局面でもオーリンズサスの素性の良さに助けられて──垂直に引き起こし、抜重してショックを伸ばし、反対側に押し倒すといった意識的な作業から解放される──予想していたよりもはるかにやすやすと、流れるような動作でヒラリヒラリと軽快に走り続けることができるのだ。
ワインディングの途中でアーチの創業者たちと合流した。伝説的バイクビルダーのガード・ホリンジャー。そしてハリウッドスターのキアヌ・リーブスだ。
ふたりからマシンのことやセッティング、今回加えた変更点などについて直接話を聞けるのはありがたい。ガードはバイク製作の名人、かたやキアヌも広告塔として居合わせているわけではなく、自身が生粋のバイカーであり、しばしばテストライダーとしても従事している。シャシーに施された改良の一部、スポーティなステアリング特性、リヤまわりの剛性向上などは実際、すでに8万km以上のテスト走行をこなしたキアヌからの要望なのだ。
ロサンゼルスへの帰路は、キアヌ、ガードと連れ立って峠を下り降りていく。高価なオーダーメイドマシンに乗っているだけで身がすくむようなのに、それをその製作者の鼻先でやるというのはこれまた別次元の体験である。
キアヌは筆者の通ったラインをピタリとなぞる。こちらの一挙一動はすべてキアヌに読まれていて、いくら速度を上げてもミラーには終始、その姿が映り込んだままだ。キビキビとしたペースをキアヌも楽しんでいる。そして一行の全員がカリフォルニアの道とKRGT-1と今回の出会いを享受しながら、ときおり互いにグッと親指を立ててみせるのだった。




アーチKRGT-1の評価
さぞかし振動が激しくて腰砕けの、少しばかり泥臭いクルーザーだろう、というのがロサンゼルスへと向かう前の、ARCH KRGT-1についての予想だった。
パワーは当然それなりにあるかもしれないが、ボルトオンパーツを寄せ集めて作った、よくあるカスタムバイクに違いないと。まったく、勘違いもはなはだしかった。このマシンに注ぎ込まれた技量と作業量は気が遠くなるほどだ。パーツの品質、CNC機械加工技術、創造性、技術力、そのどれをとっても一流である。
バイクをイチから設計・開発し、米国と欧州で許認可を得るのはたやすいことではない。並々ならぬ努力を重ね、何年にもわたってテストと改良を繰り返した結果、ようやくモノになったのだ。
ルックスと魅力はもちろん主観次第だけれど、筆者はこのスタイリングが好きだし、その洗練された雰囲気と乗り心地に惹かれる。評価は文句なしの「◯」だ。KRGT-1は思うままに振り回せて、止まれて、パワーに関しては言わずもがなの高性能クルーザーである。
ただ一点、思わず目を背けてしまう現実がある。それは8万5000ドルという、多くの人間にとって非現実的で手の届かないその価格だ。これでは「夢のスポーツカー」などと崇められるアストンマーティンやアメリカンマッスルカーのように、壁に貼る「ポスターのバイク」で終わってしまう。ただ、そんなバイクに今回、乗れたことには感謝しているし、予想を見事に裏切ってくれたことにも感謝している。

アーチモーターサイクルズKRGT-1諸元
[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクルV型2気筒OHV2バルブ ボア・ストローク:104.8mm×117.5mm 最大トルク:164Nm<16.7kgm> 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
ホイールベース:1727 シート高:706(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR19 R240/40ZR19 車両重量:244kg(乾燥) 燃料タンク容量:19L
[価格]
8万5000ドル(約940万円)
試乗レポート●アダム・チャイルド(イギリス人ジャーナリスト)
写真●アレッシオ・バーバンティ/アルナード・ピュイグ/ARCH motorcycles 翻訳●横須賀 零 編集●上野茂岐
追記2021年12月6日:写真を高解像度版にアップデートしました。
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