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オーソドックスなフォルムと装備で、気負いなく、気軽に乗り出せるW230
2023年秋のジャパンモビリティショーで参考出品車が発表され、注目を集めたW230が11月20日に発売。往年のW系シリーズのフォルムを踏襲したネオクラシカルモデルである同車の第一の注目点は、やはり空冷単気筒232ccエンジンだろうか。バーチカルツインの存在感にはかなわないが、空冷フィンのデザインや丸みを帯びたクランクケースの造形など、ソリッドな中にシンプルで味わいのあるたたずまいを持つ。元はオンオフモデルKLX230系のパワーユニットながら、重めのフライホイールを採用してフラットで扱いやすい特性も追求したという。注目の空冷エンジンや軽量コンパクトな車体を含め、どんな乗り味を見せるのか、早速走り出してみよう。
またがって感じるのは、やはり車体が低い位置にまとまっていてコンパクトで軽いということ。シートに腰を下ろすと両足はカカトまでべったりと接地し、自然と手を伸ばした位置に適度に幅広のハンドルがある。上体は直立姿勢で、タンクの程よいホールド感も含めて違和感なくフィットする。そして眼下にある2眼の針式メーターが懐かしくも安心する部分。昨今主流の液晶一体型メーターは情報が詰まっていて便利ではあるが、どこにどんな表示があるかをまず確認する必要がある。一方、昔ながらの表示配置のW230はその必要もなくすっと走り出せる。まったく緊張することのない車体サイズも好印象だ。
近所に買い物に行くのもいいし、そのままちょっと寄り道がてら遠出してみようか、なんて気分にもさせる。これは軽二輪の軽快なバイクならではのメリットだと思う。
小気味いい鼓動感の低中回転、高回転まで回り切り感のある空冷単気筒
セルボタン一発でかかったエンジンは、ウォームアップのためのファーストアイドル機構のせいか回転が高めだと思ったものの、暖機後も意外と高い。聞けばアイドリング時の設定回転数が約1800rpm(今のFI車は通常1300〜1500rpmくらいが多い)なのだという。落ち着いた回転感をねらい、ベースのKLX230系よりもやや重いフライホイールをつけたせいもあるのだろう。エンジンをストール気味にすることなく滑らかに発進させる意図や、スロットルオフ時に急激にエンジンブレーキがかからず、穏やかに車速が落ちていくようにしたねらいがあるようだが、その意図は納得できるし、高いアイドリング回転数のことも走っている内に気にならなくなっていく。
街中へ走り出してまず感じるのは、エンジンのつぶつぶとした鼓動感。単気筒らしいと言えるが、重ったるい印象はなく軽快に回っていく。そして、W230のギヤ設定は意外と高速寄りなんだとも感じた。1~6速の変速比はKLX230系と同様ながら、二次減速比が2.714(38/14)であり、KLX230系の3.214(45/14)より速度の伸びる設定にしている。
それもあるのだろうか、市街地を40~60km/h程度で走行している際に具合がいいのは4~5速で、トップ6速のメーター読み60km/hでの回転数は約3600rpm。6速でこの回転数だともったりした感じで、リニアな加速には物足りない。そのせいで低中回転トルクの太さは予想したほどではないと感じるが、軽いタッチのシフトを駆使して4~5速で流せば、別段ストレスを感じるわけではない。ちなみにトップ6速では4000rpm≒70km/h辺りから滑らかに加速する。そして、同エンジンのトルクのおいしい回転域は、4000rpm以上、ないし4500~6000rpmあたりだと感じた。
■クラシカルなシリンダーヘッドの大型フィンと、その下の黒塗装シリンダーの外観が往年の650-W1のイメージを演出。丸みを帯びたクランクケースも、レトロな造形で上品な質感。小気味のよいつぶつぶとした回転上昇と、意外に高回転までストレスなく回る特性は、同エンジンがオフロードモデルから派生したエンジンであることを感じさせる。
120km/h弱まで使える高速性能と、それを十分まかなえる車体性能
幹線道を走り、次に120km/h制限の高速へ上がってみる。60km/hから90km/hまではまったくストレスなく加速して駆け上がる。トップ6速のメーター読み80km/hでは約4800rpm、100km/hでは約6000rpm。レッドゾーンは8500rpmだから、ムチを入れればもう少し速度は伸びていくはずだと、回転を上げていく。フライホイールが重めとはいえ、高回転に向かっていく単気筒エンジンがまったく苦しい感じもなく回転上昇していくのは意外。だが、メーター読みで120km/h近くとなり7000rpmを超えた辺りで、燃料がカットされたかのようにリミッターがかかり、それ以上は加速しない。おそらく、過回転を防ぐねらいでの設定なのだろうが、少々リミッターの効きが早く感じた。
とはいえ、そうした回転域でもエンジンは苦しそうではなく、振動は内部のバランサーでうまく低減されているのだろう。尻から小刻みなものが感じられる以外、小粒の振動がハンドルに出はするものの、気になるレベルではなかった。
そして、街中から前述した高速域までをひと通り試して気づいたのは、その間の車体挙動にも別段不満を感じていなかったこと。前後サスはリヤにプリロード調整が付くだけのシンプルなものだが、低速でも跳ねることなくそこそこに追従し、路面の凹凸も鷹揚にいなす。120km/h近くの高速域ではやや追従性は怪しくなるものの、それも許容範囲。エンジンの動力に見合ってちゃんと仕事をしている印象だった。
もう一つ印象深かったのは、その軽量な車体でのコーナーの切り返しが、フレキシブルでなかなか楽しいこと。特にハイグリップではないバイアスタイヤとそこそこのサスペンションの性能、フレームも含めた車体の挙動は常に違和感がないのだった。しばらく走り続けていると、ステップはもう少し下でもいいのではないかと感じてくるが(ヒザの曲がり角はそこそこ大きいのだ)、それもバンク角を犠牲にしないのに一役買っている。ヒラヒラと切り返す軽快なロードスポーツとしても好感が持てる設定と言えそうだ。ただし、身長170cm以上の体格なら、シート座面をもう少し盛って高くしてもいいかもしれない。
前後ディスクブレーキも適度な性能だ。さほどシャープではないが、握れば握るほど制動力が立ち上がるフロントに対して、リヤは制動力の効き始めが若干ぼやけているが、許容範囲。もしものときの急制動にはABSがしっかり作動してくれるだろう。スリップコントロールやパワー特性の制御などといった電子制御を装備していないW230だが、別に不安を感じず走り回れるのは、わずか18psという232ccエンジンのせいかもしれないが、この簡素さと気軽さ、ほどほどのエンジンパワーと車体の挙動のパッケージがバランスしているからかもしれない。
そして車格も含め、W230はエントリーユーザーや小柄な女性ライダーにもおすすめできるものの、ベテランライダーの気軽な足、不意に思い立って出かけるようなツーリングの相棒としても、その健気な性能に愛着を持てそうな1台に仕上がっているのだ。
カワサキW230の各部紹介
■左の速度計内の液晶部には、オド、トリップ、時計をボタン切り替えで表示。右の回転計内には、FI警告、左右ウインカー、燃料警告、ハイビーム、ニュートラル、ETCインジケーター(ETC車載器はオプション設定)を表示。
■シートはライダー側が低くなり肉厚も薄くなるものの、尻が痛くなる印象はなかった。足着き性はいい反面、近めに感じるステップ位置との関係で、170cm以上のライダーだともう少し高いシートほうが具合がいいと感じるかもしれない。
■ブレーキは、265mm径シングルディスクに片押し2ピストンキャリパーの組み合わせで、握り込むほどに必要十分な効力を発揮。タイヤはクラシカルなパターンのIRC製バイアスタイヤのGS-19を装着。
足つき&ライディングポジション
■ヒートガード付きのキャブトンタイプマフラーもクラシカルムードに貢献。中高回転に向かうほどに歯切れのよい単気筒サウンドを奏でる。リヤツインショックは、車載工具で5段階にプリロード調整が可能。標準は堅すぎず柔らかすぎずの設定で、きめ細やかな印象はないが不満のない路面追従性を見せる。
カワサキW230主要諸元
■エンジン 空冷4ストローク単気筒OHC2バルブ ボア・ストローク67.0×66.0mm 排気量232cc 圧縮比9.0 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力13kW(18ps)/7000rpm 最大トルク19Nm(1.9kgm)/5800rpm
■変速機 6段リターン 変速比1速3.000 2速2.066 3速1.555 4速1.260 5速1.040 6速0.851 一次減速比2.870 二次減速比2.714
■寸法・重量 全長2125 全幅800 全高1090 軸距1415 シート高745(各mm) キャスター27° トレール99mm タイヤF90/90-18 M/C 51S R110/90-17 M/C 60S 車両重量143kg
■容量 燃料タンク11L エンジンオイル─
■車体色 パールアイボリー×エボニー、メタリックオーシャンブルー×エボニー
■価格 64万3500円
report●モーサイ編集部・阪本一史 photo●伊藤吉行、モーサイ編集部、カワサキ
カワサキモータースジャパン
https://www.kawasaki-motors.com/