新車

お値段1500万円!? カワサキWのエンジンにガーダーフォーク&ハードテイル…チェコの超高級バイク「プラガ ZS800」とは?

世界には大小さまざまなバイクメーカーがあるが、チェコの「プラガ」をご存知だろうか? イギリス人二輪ジャーナリスト、アダム・チャイルド氏が今回紹介するのは、プラガが高価な素材と繊細な職人技をふんだんに盛り込んで世に送り出したレトロモデル、ZS800である。

チェコのメーカー「プラガ」が、1920年代の名作を精巧かつ豪華にリメイク

2024年の今、「レトロバイク」という言葉にはさまざまな意味があるが、チェコのプラガほどに過去のモデルを復活させて再考するというコンセプトを極限まで追求しているメーカーは、ほとんどないだろう。

現在、一般的に販売されているレトロ風モデルは概ね、完全に現代的な設計のシャシーを用いているが、プラガがハンドメイドで生産するZS800は、ガーダーフォークやドラムブレーキを装備した、堂々としたハードテールシャシーで工場から出荷される。この事実に、あなたは気を引かれたはずだ。過去の栄光に頼って存在を正当化するバイクについてどう思うかはあなた次第だが、このバイクを無視することは不可能だろう。

プラガ ZS800

プラガは現在、日産GT-Rのエンジンを搭載した700馬力のボヘマなど、非常に高価なハイパーカーのメーカーとして知られているが、第二次世界大戦や共産主義の台頭以前の1920年代には先進的なバイクを生産していた。

1928年に作られたBD500は、若きエンジニア、ヤロスラフ・フランティシェク・コッホが設計した4ストロークDOHCエンジンを搭載しており、同年にローマからプラハまで1480kmを36時間以内に走行して、そのスピード・信頼性・革新的なデザインを知らしめた。
ZS800は、このBD500の生まれ変わりであり、BD500とそれが走っていた時代の両方に細部までこだわったオマージュである。逆行的であると同時に挑戦的なエンジニアリングの産物であり、いにしえのデザインコンセプトとエキゾチックな最先端の素材を融合させている。

ZS800は同社のハイパーカー、ボヘマのエンジニアでもあるヤン・ズジの作品だ。ヤンと、同僚のエンジニアでバイク愛好家のレデック・セベスタは、1928年のバイクのレプリカを現代の軽量素材と技術を使って作りたいと考えた。エンジンはカワサキのW800から流用した空冷並列2気筒だが、ZS800のその他の部分は手作りで、完全に特注品だ。

シャシーは、クロムモリブデン鋼製のフレームとカーボンスポークを編み込んだ鍛造カーボンホイール、油圧式ドラムブレーキなどからなる。フロントにはオーリンズ製サスペンションユニットが組み込まれたガーダー式フォークを採用。リヤ側はリジッドで、路面からの衝撃を緩和する装置はシート下に装着されたオーリンズ製のダンパーのみだ。カーボンとチタンを全体に使用したZS800の乾燥重量はわずか142kgで、一般的なスクーターとほとんど変わらない。

プラガ ZS800のレトロなスタイリングは1928年のBD500をオマージュしたもの
リヤにサスペンションを装備しないハードテイルシャシーを採用

プラガはZS800の生産台数をわずか28台に限定しており、妥協や制約が一切ないように見えるこのバイクには、9万8500ドル(約1500万円)からという価格がつけられている。28台のうち5台は10万6900ドル(約1640万円)のカーボンスペシャル仕様で、今回私が試乗したバイクはそのうちの1台だった。長距離の徹底的なロードテストではなかったが、イギリスの田舎でZS800を軽快に走らせる機会を得たのだ。

フロントガーダーフォーク&リヤリジッドの乗り心地とは

ヤンと彼のデザインチームは、BD500トリビュートモデルに搭載する中排気量エンジンに関してほぼあらゆる選択ができたのだが、そのシンプルさと外観、ベベルギヤ駆動カムに着目して、カワサキ W800のエンジンを選択した。ノーマルのW800は6000回転で48馬力、4800回転で6.4kgmという性能だが(注:欧州仕様)、プラガは排気がよりスムーズに流れるチタン製マフラーと改良された燃料供給システムを採用。ノーマルよりもわずかに高い50.7馬力という最高出力となっている。

バイクに慎重にまたがり、美しく形作られたシングルシートにゆっくりと腰を下ろしてみると、その体積や質量の少なさをすぐに理解できた。ハンドルは1928年に作られたバイクのように幅広で、カーボンの複雑なディテールやチタン製パーツを眺めていると、純粋なアイデアと贅沢さに満ちた未来の世界へと誘われる。

ベベルギヤが特徴的なW800のエンジンを搭載。なお、国内仕様のスペックは欧州仕様と若干異なり、最高出力52馬力/6500回転、最大トルク6.3kgm/4800回転となっている
W800のエンジンに組み合わされるチタン製エキゾースト
カーボン製のダミータンク。実際の燃料タンクはフレームと一体化している

カーボン製のスターターボタンをワンプッシュすると、ノーマルでは静かだったロングストロークのツインエンジンが唸りを上げる。ハンドメイドの2本出しマフラーには特にキャタライザーや消音機能は備わっておらず、スロットルをブリッピングするとカリスマ性に富んだ鋭い音が響く。計器類は、タコメーターはなく、ヘッドライトシェルに完璧に調整されたアナログ速度計が内蔵されているのみ。ギヤを1速に入れてスロットルを開けると、W800と比べて70kgほど軽いことが明らかに活発な加速につながっている。

最初はZS800の格別な奇妙さに少し戸惑ったが、エンジンはW800同様の豊かで幅広いトルクを発揮。スムーズな回転数の上昇がリラックスしたショートシフトを促し、その性能にふさわしい印象的な運転を楽しませる。

ライダーアシストについては、トラクションコントロールといった機能はなくABSさえ付いていない。だが、明確な軽快さが、W800と比べてイージーな追い越し加速を実現している。ZS800は速くはないが、決して遅くはなく、信号待ちでZS800に遭遇したドライバーやライダーを驚かせることだろう。あなたがこの宝石や彫刻のように美しい超軽量バイクに腰を据えて腕を広げている姿は、当然のように周囲の注目を浴びる。

プラガ ZS800をテストするアダム・チャイルド氏

前述のようにデザインチームは1920年代のプラガ製バイクにインスピレーションを受けており、それゆえにドラムブレーキやガーダー式フォークを採用している。ただし、ありがたいことに、ドラムブレーキはワイヤー引きではなく油圧式で、ガーダー式フォークにはチタン製スプリングを備えた最新のオーリンズ製フルアジャスタブルサスペンションユニットが備わっている。

このほか、バネ下重量を軽減する複雑なスポークデザインの18インチカーボンホイールや、一般的な125ccバイクのフレームとほぼ同じ重量の軽量クロモリフレームなど、しっかりと現代的なアレンジがなされている部分は多い。しかしながら、リヤは純粋なハードテール=サスペンションなしのリジッド構造だ。ダンロップ製タイヤに充填された空気も衝撃緩衝の役割を大いに担うことになる。

実際に走っていると、ガーダー式フォークはほとんどノーズダイブがなく、この点ではBMWのテレレバーに似ているが、美しく形成されたアームが上下に動いて路面の凹凸をいなしていく様子は魅惑的である。リヤサスペンションがないため、ライダーの快適性は明らかに大幅に損なわれているが、ZS800は私が今までに乗った多くのハードテールモデルほど過酷なバイクではない。

シートの下には調整可能なオーリンズ製ダンパーがあり、路面の凹凸からライダーに伝わる衝撃を緩和。前方に向かって細く絞られたシートは、着座位置を前に移動させるとクッション性が低下するが、後方に座るとショックを介したテコの作用が大きくなり、比較的ソフトな乗り心地となる。ZS800では、シートの下に粗末なベッドスプリングが付いているハードテールモデルのようにリバウンドでシートから押し出されることはない。

テレスコピック式が主流になる以前に用いられたガーダー式フォーク(日本では「松葉フォーク」とも)を再現
ドラムブレーキはフロントがダブルドラム、リヤはシングルドラムだ。密に絡み合ったスポークが特徴的なホイールはカーボン製だ
シート下にオーリンズ製ダンパーを装備。シート自体は非常に薄い造りだ

だが当然、シート下のユニットは一般的なリヤサスペンションのようには機能しない。リヤタイヤのグリップとトラクションに貢献することはなく、少し走るのに夢中になるとリヤタイヤが跳ねて、私の銀行口座に嫌な揺さぶりが掛かっているのを感じた。

ZS800は軽量で、出せる速度も比較的控えめだが、それでもドラムブレーキの操作には慣れが必要だ。クラシックなバイクに乗ったことがあるライダーは、ドラムブレーキは頻繁に使用するとフェードしやすくなることをご存知であろうが、ZS800のブレーキには逆の傾向があるようで、これは試乗車の走行距離が非常に少ないためだと思われる。エンジンブレーキも併用しつつフロントブレーキとリヤブレーキを均等に組み合わせて使うことが、速度を落とす最も効果的な方法であり、一度慣れると自然に減速できるようになったが、このバイクはクリッピングまでブレーキを引きずって走らせるバイクではないことは確かだ。

いずれにしろ、このバイクに用いられている高水準の職人技は、市場で他に類を見ない。手編みのカーボンリムと繊細なカーボンスポークは芸術作品である。フレームの組み立てと溶接には、何日も、場合によっては何週間もかかっているに違いない。ほぼ全てのネジ、ナット、ボルトはチタン製で、容量11.5リットルの燃料タンクはフレームに組み込まれ、通常のバイクで燃料タンクが位置する場所にあるものは、1928年には存在しなかった各種電装部品を隠すカーボンカバーに過ぎない。

ZS800の周囲を歩き、過ぎ去った時代のアイデアと急進的な新しい考え方という、相反する要素の組み合わせを堪能すると、その完成度と仕上がりは乗車体験に引けを取らない満足感を与えてくれるものだと思えた。

「高価な置き物」ではなく、現代を走るために真剣に造られている

プラガ ZS800で果敢にコーナリングするアダム・チャイルド氏

ZS800は目が飛び出るほど高価だが、ZS800だけが唯一の高級バイクというわけではない。キアヌ・リーブスが率いるカリフォルニアのバイクメーカー、アーチは、レトロスタイルのバイクではないが、ハンドメイドでKRGT-1というモデルを製造しており、その価格は9万1000ドル(約1400万円)である。また、フランスのブラフシューペリアはハンドメイドのレトロエキゾチックバイクをラインアップしており、価格は7万7000ドル(約1200万円)以上となっている。

とはいえ、ZS800の価格を見て、単に狂気の贅沢品と切り捨てる人もいるのは無理ないことだ。私はそういった意見を理解するが、同意はしない。ZS800を購入できるほど幸運な少数の人々にとって、このチェコの傑作は単なる芸術作品ではなく、バイクとして十分な機能を発揮するものである。熟練したエンジニアリングと職人技には、その実力を示す機会が与えられている。

ドラムブレーキやハードテールシャーシなどといった過去の時代に用いられたコンセプトは再考され、アップデートされ、2024年に歓迎される形に仕上げられている。何よりも、プラガの熱心で賢いエンジニアたちが、オリジナルのBD500に敬意を表す機会を与えられ、それを個性と誇りを持って実現していることが気に入っているところだ。高速道路でこのバイクを見かけるだけでも小さな奇跡であり、実際に所有することはほぼ不可能と思われる。しかし、私はこのすばらしいチェコ製のレトロバイクが存在することをとてもうれしく思う。

プラガ ZS800の細部を観察

アナログ式速度計のみのシンプルなメーターはドイツのモトガジェット製
必要にして最小といったデザインのカーボン製ハンドルスイッチ(右スイッチボックス)
同じくカーボン製の左スイッチボックス
シートは単座。形状だけでなく、表皮の切り替えやステッチなどを含め、実に凝ったデザインをしている

プラガ ZS800主要諸元

【エンジン・性能】
種類:空冷4ストローク並列2気筒OHC4バルブ ボア×ストローク:77.0×83.0mm 総排気量:773cc 最高出力:50.7ps 最大トルク:6.6kgm 燃料タンク容量:11.5L 変速機:5段リターン

【寸法・重量】
全長:── 全幅:── 全高:── ホイールベース:1,435 シート高:795(各mm) 車両重量(乾燥):142kg タイヤサイズ:F100/90-18 R130/90-18

プラガ ZS800を日本国内で目にする機会はあるのだろうか……?

レポート●Adam Child 写真●TooFast まとめ●林 康平

編集部註:文中の価格は2024年7月中旬時点の為替を参考にしたものです

CONTACT

■プラガ

www.pragaglobal.com

  1. 50歳からライダーデビュー。エネルギッシュな女性ライダーが考える悔いのない人生

  2. 今から『GB350 C』をベタ褒めするぞ?気になってる人はご覧ください!

  3. 『Rebel 1100シリーズ』が熟成されて魅力度アップ。『Rebel 1100 S Edition』がタイプ追加!

  4. 大きなバイクに疲れた元大型ライダーが「Honda E-Clutch」で体感したある異変とは?「バイクの概念が変わりました」

  5. 【バイク初心者】本格的なバイク整備はプロに任せる!でもこの『3つ』だけは自分でもチェックできるようになろう!【バイクライフ・ステップアップ講座/3つのセルフチェック 編】【Safety】

  6. 寒い季節はグローブ選びが命! 冬場も走るベテランライダーが100%装着している『バイク用の冬グローブ』ってどんなもの?

  7. 【比較】新型『GB350 C』と人気の『GB350』の違いは?ざっくり10万円強も価格差……ちょっと高いんじゃない?と感じる人へ!

  8. 新型『NX400』ってバイク初心者向けなの? 生産終了した『400X』と比較して何が違う?

  9. 冬は寒いのになんでバイクに乗るの?実は『他の季節よりも○○な魅力』が5つある!

  10. ベテランライダーが『CBR650R E-Clutch』に乗って感じた楽しさ

  11. 寒い時期はバイクに乗らない人へ!愛車を冬眠させるなら「4つの〇〇+α」をやっておけばずっと長持ち!

  12. 定年後のバイクライフをクロスカブ110で楽しむベテランライダー

  13. CL250とCL500はどっちがいい? CL500で800km走ってわかったこと【ホンダの道は1日にしてならず/Honda CL500 試乗インプレ・レビュー 前編】

  14. 【王道】今の時代は『スーパーカブ 110』こそがシリーズのスタンダードにしてオールマイティー!

  15. 新車と中古車、買うならどっち? バイクを『新車で買うこと』の知られざるメリットとは?

  16. ビッグネイキッドCB1300SFを20代ライダーが初体験

  17. “スーパーカブ”シリーズって何機種あるの? 乗り味も違ったりするの!?

  18. 40代/50代からの大型バイク『デビュー&リターン』の最適解。 趣味にも『足るを知る』大人におすすめしたいのは……

  19. ダックス125が『原付二種バイクのメリット』の塊! いちばん安い2500円のプランで試してみて欲しいこと【次はどれ乗る?レンタルバイク相性診断/Dax125(2022)】

  20. “HAWK 11(ホーク 11)と『芦ノ湖スカイライン』を駆け抜ける

おすすめ記事

JAPANESE CAFERACERS特集 日本の美カフェ、集めてみました 〜SASAKI Z2 K& H SPL 1977年ウェッジシェイプの巻〜 ヤマハ新型「MT-09」の乗り味、ライポジ、純正アクセサリーの情報ゲット!【大阪モーターサイクルショー2024】 新型レザースーツも対象! クシタニが『レザースーツキャンペーン』を開催

カテゴリー記事一覧

  1. GB350C ホンダ 足つき ライディングポジション