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BMW R1300GSで一番ヤバくてレアなヤツ!? オフロード特化仕様「GSスポーツ」
2023年11月に発売されたBMWの新型アドベンチャーモデル・R1300GSは、日本ではSTD、「ツーリング」、「GSスポーツ」の3仕様がラインナップされている。最新機能をはじめ、各種電子制御機構を搭載した「ツーリング」が最も高い販売比率で約75%、STDが約15%、「GSスポーツ」は約10%と言われている(BMWモトラッドジャパン調べ)。
いわば、「GSスポーツ」は最も限られた層が選択する仕様になるが、理由は、走りの用途次第でのメリットとデメリット、取り回し面での特有のハードルの高さということになるだろうか。ちなみに3仕様の価格は、STDが一番安く284万3000円から、「GSスポーツ」は中間で297万1000円、「ツーリング」は318万5000円からとなる。
「GSスポーツ」の主な仕様は以下のとおりだが、簡単に言えば、R1300GSシリーズの中でオフロード走行を最も意識した仕様だ。
●オフロード向けタイヤとスポーツサスペンション
STDと「ツーリング」に標準のミシュラン製アナキー・アドベンチャー、メッツラー製ツアランス・ネクスト2に対し、粗目のブロックを採用のメッツラー・カルー4を装着。また前後サスは標準より20mm長め(高め)で十分なストローク量を確保している。
加えて「エンデューロパッケージ・プロ」の名称で以下の装備を採用している。
●ハンドルバーライザー
●エンジンプロテクションバー
●大型エンジンガード
●スポーツハンドレバー(ショートタイプ)
●エンデューロフットレスト
●調整式シフトレバー&フットブレーキレバー
●リアフレームプロテクションカバー(ラージ)
●シングルシート用エキゾーストブラケット
●別体式ウィンカー
ダートでのスタンディング走行にも対応するためハンドルが30mm上げられているほか、損傷対策としてエンジンヘッドまわりに保護バー、エンジン下に大型ガードを採用している点などが、独自の装備だ。
■20mm長い前後の専用サスペンションを採用し、オフロードでの十分なストロークを確保したR1300GS GSスポーツ。独立型ウインカー、エンジン保護バー、底部の大型エンジンガードも専用の装備。
■電動調整サスのDSA、ライディングモードPro、ギアシフトアシスタントPro、DTCなどSTD仕様の装備に、オフ仕様のパーツを装備した「GSスポーツ」。ハンドルは30mmアップでスタンディング姿勢にフィットする仕様。
シート高は870mm「走り出しちゃえば関係ない」って言われても、気になる足着き性
新機構として注目されて「ツーリング」に装備のアダプティブ車高制御(走行時はシート高850mm、停止時に30mm車高が下がる)も、前車追尾式クルーズコントロールや追突防止・車線変更の警告なども付かないなど、「GSスポーツ」は見方を変えれば潔い仕様で、しかも長くなった前後サスは、オフ車としての精悍さを強調していて格好がいい。
とはいえ……。R1250GSからR1300GSへのモデルチェンジでは車体のコンパクト化が追求され、STDや「ツーリング」はその恩恵をしっかり受け取れたが、「GSスポーツ」はやはり大きく感じる。
870mmとなるシート高が、まずハードルになると思われるのだ。そしてオフ重視仕様とはいえ、「GSスポーツ」はオフロード以外に恩恵はないのだろうか? 一般道と高速、少々のダートでの使い勝手を試してみた。
ビッグオフ系モデルのエキスパートなどは「走リ出しちゃえば、足着きは関係ない」などと言う。そして往年の名オフロードライダー、ガストン・ライエの話を持ち出したりする。身長164cmと小柄なG.ライエは、1984、1985年のパリ・ダカールラリーをBMWのワークスGSで連覇した達人だが、彼はまったく足が着かないマシンを自在に操った。スタート時は左側ステップにだけ足を乗っけてクラッチをつなぎ、走り出してから右足を向こう側に回す、自転車の「ケンケン乗り」のような所作で発進したのだ。
これをベテランライダーは「ガストン乗り」などと言う。車体のバランスがきちんと取れ、フレキシブルにクラッチをミートできる技量があれば容易だし、ケンケン乗りを知る筆者もできる。とはいえ、だ。これをを信号待ちのたびに繰り返すなど面倒この上ない。可能なら、車体を普通に足で支えたいのだ。
身長173cmの筆者の場合、両足を下ろすとほぼつま先の接地。車体を支える程度は力が入るのでギリギリ許容範囲だが、STDや「ツーリング」の気楽さ(両足裏が半分近く接地する)に対して手強さは感じる。
ただし、新型R1300GS自体のマスの集中化も実感でき、R1250GSアドベンチャーなどと比較するとかなりハードルが低い。足着き性自体は大きく変わらないものの、30L燃料タンクのR1250GSアドベンチャーより軽いことや、先述したマスの集中化や車体のコンパクト化が効いているのだろう。
■身長173cm、体重76kgのライダーの乗車姿勢。上体はリラックスして着座時もスタンディング時も違和感のない操作性だが、両足接地ではつま先が届く程度。ただし力は入る。
オフロードタイヤの採用で、舗装路でもかなりフィーリングが異なる
先に「ツーリング」に乗り、次に「GSスポーツ」へ乗り換えたのだが、舗装路の走り出しでまず驚いた。車高が上がって前輪が少し遠い感覚になったのに加え、「ツーリング」にあった濃密な前輪の接地感が薄れてタイヤが軽く転がる。
そして、最初のコーナーでは倒し込みでグリップが抜けるような感触を覚えた(実際は抜けていない)。
普段はヤマハ セロー225を愛用する身として、オフタイヤの感触に慣れているはずだが、「ツーリング」から「GSスポーツ」への乗り換え直後の差にも増幅され、そんな第一印象を持った。軽量級オフモデルに比べ、R1300GSではパワーや重量の大きさも影響して接地感の差を大きく感じるのだろうか。
ただし、違和感があったのは走り出して10~20分ほど。その後は慣れてくるが、舗装路でのベタッと食いつくような「ツーリング」の感覚でコーナーを攻めると、痛い目に遭うだろうと想像はできる。オンロードでは、「ツーリング」で攻めるところの7割くらいにセーブするのが賢明だろう。
前述の感触を意識した後、高速道路に乗った。80km/h程度の低い速度では、オフタイヤ特有の「ウォンウォン」としたロードノイズが少し耳に届く。しかし、そこから開けていくと風圧がそれを上回って気にならなくなる。
ちなみに「GSスポーツ」のスクリーンは、他の仕様に比べて少し低くて幅もスリム。これもダートや林間走行で、障害物からのボディ損傷のリスク低減をねらった仕様だが、防風や整流の機能性はちゃんとある。手動で高低を調整でき、低めでは整流の効果程度、高めではヘルメットと胸まわりの直接風を逃すから、コンパクトでも効果は実感できる。
高速でのエンジンの回り方は、「ツーリング」と変わらない。ギヤレシオ関係も同じだから当然だが、トップ6速時のメーター読みで80km/h≒2750rpm、100km/h≒3400rpmと加速&回転上昇していく感じも同じだ。異なるのは速度を増速していってもフラットツイン特有の路面に張り付くような接地感が乗り手に染み入ってこないことだ。
それもタイヤの違いによるところが大きいのだが、「GSスポーツ」に標準装着のカルー4は、BMWのGSでオフロードを楽しむライダーたちから「オンとオフのバランスがよく、ライフもそこそこ長いオールラウンドなタイヤ」と高く評価されている。だからこそ「GSスポーツ」に純正採用されているに違いないが、ダートを走る目的がなければ履くメリットを活かせないだろうと思った。
ユーザー層から考えるとこんな風にする人はあまりいないだろうが……、「GSスポーツ」特有の長いサスでの路面とのコンタクトや、高い着座位置からの旋回性を含め、オン寄りのタイヤを履かせても「GSスポーツ」独自のフィーリングで楽しめそうだとも感じた。
オフはそんなに走らないけれど、「GSスポーツ」の車体の足の長さがカッコいいと感じる人は(筆者はそのひとり)、スポーツにアナキー・アドベンチャーや、ツアランス・ネクスト2を履かせて楽しんでもいいかもしれない。
GSスポーツに込められた「オフでも王者」の貴重な存在感
市街地走行と高速走行を試した後日、首都圏近郊のダート路にも出かけた。小砂利の浮くフラットダートメインの行程だったが、スポーツの本領が実にわかりやすい。
タイヤの恩恵も大きいが、路面にしっかり食い付き大きな車体を進ませる。モードはエンデューロないしエンデューロ・プロを選択すべきだが、多少のスリップは許容する前者と、制御を解除する後者、いずれでもへっぽこオフライダー(筆者)は、多少のスライド走行も含め、不安なくダートを楽しめた。
そして思った。スポーツは足をついてヨタヨタとダートを走るためではなく、足を着かずにスマートにダートをクリアするのに有効な仕様なのだと。BMW R-GSシリーズでは、歴代の空油冷系や空水冷の1200に試乗したことがあるほか、オン寄り標準タイヤで日本のダート林道を味わったこともあるが、どれもダート区間を不安を覚えず通過できる性能は持っていた。またそれがGSの美点だと思ってきた。しかし1300スポーツは、その性能のワンランク上を行く。
マスの集中化と低重心化、車体のコンパクト化でミドルオフのようにダートを走破し、長くなった足が車体の弾かれる挙動をいなす。相応に質量の大きな車体を操る自覚をおろそかにしてはいけないが、これならば足を着かず車体が乗り手の股下で小躍りするのを楽しみながら、ダートを走れる。
時々未舗装路を求めツーリングに行く程度の軽量級オフ車オーナーがそう感じたのだから、ビッグオフのヘビーユーザーは、なおさら「GSスポーツ」の高いポテンシャルに感心するに違いない(ただし、車高の高さや重量が如実に弱点になる泥濘地は要注意にせよ)。
「GSスポーツ」の試乗紹介の最後にこう言うのもナンだが、大前提として筆者レベルのオフ走行ならSTDや「ツーリング」でも問題なく、この2仕様にオフ寄りタイヤを履けばさらに事足りるかもしれない。
そういう野暮な考えも頭に浮かんだ一方、やはり「GSスポーツ」は雄々しくカッコいい。
そこで、筆者がもし「GSスポーツ」オーナーになったらどうするかも想像した。市街地や一般道での移動を考えると、あと1~2cm足着きをよくしたい。かくなる上はシート前半部の形状を絞り込むか、シートのアンコを多少抜くだろう。それでも「GSスポーツ」の素性は損なわれず、オンでも不満なくオフでは大満足で個性は活きるはずだからだ。
「GSスポーツ」ならではの装備・特徴
■車体に3点支持で固定される純正のエンジンプロテクションバー。張り出したフラットツインのシリンダーヘッドとカム部を保護する、オフユースでは欠かせないアイテム。
■面積の小さめなSTD、「ツーリング」のそれに対して、「GSスポーツ」にはエキパイ部も覆うなど面積を広くして、強度も高めたエンジンガードを標準装着。
■クロススポーク仕様で19インチのホイールは他の仕様と共通ながら、タイヤはスポーツ専用にメッツラー・カルー4を標準装着。オン・オフのバランスに優れると評価が高い。
■1個で15mmアップする純正アクセサリーのハンドルバーライザーを、2個重ねて30mmアップとしたハンドル。スタンディング時の操作のしやすさも考慮した仕様。
■STD、「ツーリング」より小ぶりなスクリーンは、手動で高低を調整可能。写真の高い位置では、ライダーの頭と胸部分の直接の風をカット。ウインカーは専用の独立タイプ。
■操作性を考慮し採用されたショートタイプの純正スポーツハンドレバーを左右に採用。ハンドプロテクターは、STD、「ツーリング」と異なり、ウインカーを内蔵しないタイプ。
■オフ用ブーツでの擦過を防止する大きめのリヤフレームプロテクションカバーを採用。ステップはギザギザ付きのエンデューロタイプ。シフトレバーは3段階に位置調整が可能。
■プレーキペダルは、作動部が90度可変して縦に起こすことが可能(写真は横置きの通常時)。スタンディング走行時のコントロールにもフィットさせるための工夫が入ったアイテムだ。
BMW R1300GS GSスポーツ主要諸元
■エンジン 空水冷4サイクル水平対向2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク106.5×73mm 総排気量1300cc 圧縮比13.3 燃料供給装置:電子制御式インジェクション 点火方式トランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力107kW(145ps)/7750rpm 最大トルク149Nm(15.1kgm)/6500rpm 燃費20.83km/L(WMTC値)
■変速機 6段リターン 変速比1速2.438 2速1.714 3速1.296 4速1.059 5速0.906 6速0.794 一次減速比1.479 二次減速比2.910
■寸法・重量 全長2210 全幅1000 全高1490 軸距1520 シート高870(各mm) ステアリングヘッド角度63.8° キャスター112mm タイヤF120/70R19 R170/60R17 車両重量260kg
■容量 燃料タンク19L(リザーブ約4L)
■車体色 レーシング・ブルー・メタリック
■価格 297万1000円
レポート●阪本一史 写真●小林 司
BMWモトラッド
TEL:0120-269-437(カスタマー・インタラクション・センター)
https://www.bmw-motorrad.jp