雑ネタ

なぜ飲酒運転をする人が後を絶たないのか? そのメカニズムについて心理学者に聞いてみた

警察庁のデータによると、2020年は飲酒運転による交通事故件数が2522件、死亡事故件数は159件。2019年と比べて交通事故件数は525件減少し、死亡事故件数は17件も減っている。
飲酒運転の厳罰化、飲酒運転の危険性を訴えるチラシや動画を制作するなど、さまざまな取り組みによって飲酒運転による事故が年々減少傾向にあるようだ。

また、飲酒運転による死亡事故の発生件数・死者数が2016年、2017年と2年連続で全国最多を記録した茨城県では、年末にかけて飲酒の機会が増える背景もあるため、2021年12月から県内の繁華街周辺や幹線道路などで飲酒運転の取締りを行っている。

しかし、報道や警察の広報活動などで飲酒運転の危険性は広く伝えられているはずなのに、なぜ飲酒運転による事故が後を絶たないのだろうか?
そこで当記事では、飲酒運転してしまう人の心理状況、飲酒運転の誘惑に負けないための対策など、心理学者のひなた あきらさんに聞いてみた。


「自分だけは大丈夫」だと思ってしまう傾向にある

──そもそも違法であり、事故を起こす危険性もある飲酒運転ですが、一体どんな心理状況で飲酒運転をしてしまうものなのでしょうか?

それは、飲酒運転をしてしまう人は「自分だけは大丈夫」だと思ってしまう傾向にあるからです。これは心理学的には物事の判断が直感やこれまでの経験に基づいた先入観によって非合理的になってしまう「認知バイアス」という自己中心的な心理現象で説明できます。

こうした信念を認知バイアスの一種である「確証バイアス」(都合のいい情報や自分の思い込みを正当化すること)と言うのですが、その中でも「正常性バイアス」という思考に偏ったときが大変危険です。

正常性バイアスとは「自分だけは大丈夫」と思い込んでしまい、飲酒運転の場合「飲酒運転をしても危険は回避できるだろう」と信じてしまうことです。「正常性バイアス」に陥った人の思考の特徴として、楽観主義が根底にあって「大丈夫」だと言い聞かせて行動に移ってしまう傾向にあります。

たとえば、今にも切れそうなロープでできている吊り橋を走って渡る人は普通いないでしょう。しかし、気持ちのどこかでゆるみがあると、現実的でなくても無謀なことをしてしまい、あとになって自分の過ちに気付くのです。

その反対で自我が強い人は固い信念を持っているため、飲酒運転を起こさないような取り組みや行動を心がけることができます。このように困難や脅威に対して、うまく適応していく人たちを「レジリエンス」と呼びます。

──飲酒運転をしてしまう人の中には「自分は運転が上手いから大丈夫だろう」と過信している人もいるのではないでしょうか?

自分の運転が上手いと思い込んでしまう人というのは、確かに反射神経が鋭く、普段なにげない動作も早い傾向にあります。
だからといって自分の運転技術を過信していると、無理な割り込みや急に右左折する、信号無視をするといった行為に走りがちなうえ、「(飲酒しても)自分なら問題なく運転できるだろう」と思いがちになってしまいます。

こういった人たちの特徴として、言語的な表現力が乏しくアンバランスな傾向にあります。動作性と言語性の2つの間の差異、知能の偏りが見られることを「ディスクレパンシー」といいますが、自分の行動を言語化することが苦手です。

また、利己的で衝動性が高く、刹那的で自己統制が効かない人も規範意識が弱いため、日頃の運転でも問題を起こしやすい傾向にあります。たとえ飲酒運転による事故があったとしても、こういった人たちにとっては「良心」がストッパーとして働くことがありません。自分の行動によって起こる他人に及ぼす影響についても関心を示さないのです。
したがって飲酒運転をしてしまう人たちの中には、そもそも交通ルールを守ろうとする意識が少ないことから事故も起こしやすいでしょう。

──では、飲酒運転の誘惑に勝つために何か自分でできる対策などはあるのでしょうか?

飲酒運転は判断能力が鈍って思うような運転ができなくなってしまう極めて危険な行動です。飲酒をすると、法律を遵守しようとする気持ちも薄れていって「少しは平気だろう」と安直的な行動を取るようになってしまいます。そして、最終的には危険な行動に出てしまうわけです。

したがって飲酒運転の誘惑に勝つためには、そもそも論ですが「飲酒運転は危険である」という認知を普段から強く持っておくことが必要です。たとえば、飲酒運転に関する記事やニュース、動画などを常日頃から目にしておくことも役に立つでしょう。

また、飲酒運転による悲惨な事故が報道されているのを見ても決して他人事だとは思わず「自分も同じことをするかもしれない」と、客観的に身の危険を察知することも大切です。
人は心も体も常に強くいられるわけではありません。自分の中にも心の弱さがあって、誘惑に負けることがあるかもしれない……そうした自覚を持っておくことも重要かと思われます。

監修●ひなたあきら まとめ●モーサイ編集部・小泉元暉

プロフィール

■ひなたあきら

臨床心理士、公認心理師の資格を保有。
都内大学院心理学科卒業後、国家公務員総合職という職員のマネジメントなどを行う。
精神科病院、精神保健福祉センター、福祉施設や労働局等を経て、現在は社産業保健管理室の心理カウンセラーとして勤務のほか、ブログにて心理学やカウンセリングに関することを発信している。

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