市販車ベースレース「スーパーバイク」とはどんなレース?
クルマの「スーパーカー」はランボルギーニやフェラーリなどの超プレミアムスポーツカーのことですが、バイクの「スーパーバイク」は全く違います。市販バイクを使ったロードレースとその参加車両のことです。
4輪車でいうと、例えば国内で最も人気がある「SUPER GT」のようなもので、市販車をベースにチューニングを施した車両で競うという意味では同じ。同様のレースが主に欧米で開催され、高い人気を誇っている点も似ています。
参戦するバイクは「スーパー」というぐらいなので、1000ccなどの大排気量車を使い、しかもかなりのハイパワーです。ベースは市販車ですが、参加チームが手掛けたチューニングや専用パーツなどの装備により、230㎰以上もの最高出力を誇ります。
2輪のF1といわれる、最高峰バイクレース「Moto GP(モト・ジーピー)」は市販されていないレース専用マシンを使いますが、「スーパーバイク」のレースは一定の販売台数など主催者が定めた規定に合致し、公認=ホモロゲーションを受けていることが出場条件。また、レースに出る際の改造範囲なども、厳しく制限されています。
欧米ではMoto GP級の高い人気
それでも、欧米では身近に販売されているバイクの「究極版」が戦うということで、ファンも感情移入しやすいためか、かなりの人気があります。
ヨーロッパを中心に転戦するレースには「スーパーバイク世界選手権(以下、SBK)」や「世界耐久ロードレス選手権レース(以下、EWC)」などがあり、アメリカでも「AMAスーパーバイク選手権」がぞれぞれシリーズ戦を展開。
日本でも、国内最高峰シリーズ「全日本ロードレース選手権」内の「JSB1000クラス」がこれにあたります。いずれも競技規定こそ多少違いますが、ほぼ同じカテゴリーです。
また、日本の4大バイクメーカーが全て参戦しているのも魅力です。特に、カワサキ車のファンならば、最高峰のMoto GPでは現在、ホンダ、ヤマハ、スズキの3社のみの参戦となっているだけに、かなり注目です。
実際、ここ数年カワサキ製バイクが大活躍しています。EWCの2018-2019シーズン最終戦となる「鈴鹿8時間耐久ロードレース(三重県・鈴鹿サーキットで開催)」でニンジャZX-10Rが見事に優勝。また、SBKでは同じくニンジャZX-10Rを駆るジョナサン・レイ選手が、2019年シーズンまで5年連続でチャンピオンを決めています。
そして、ホンダでは、カワサキの大進撃を阻止すべく、スーパーバイクのベース車両CBR1000RRを2020年にフルモデルチェンジ。最高出力218psという超高性能マシンCBR1000RR-RファイアブレードSPを発売しました。数々の専用パーツを装備したレースベース車もリリースし、カワサキ追撃に本気モードで望んでいます。
「スーパーバイク」発祥は1970年代のアメリカ
スーパーバイクの歴史を少し紐解いてみましょう。
発祥はアメリカです。AMA(アメリカン・モーターサイクリスト・アソシエーションの略、レース統括団体で日本だとMFJにあたります)が、1976年に初めてスーパーバイクの公式レースを開催しました。開催されたのはデイトナ・インターナショナル・スピードウェイ(フロリダ州)です。
当時、世界最大の二輪車市場だったアメリカでは、次々と大排気量車が発売され大人気となりました。例えば、日本車がカワサキ・Z1、欧州車ではドゥカティ・750SS、モトグッツィ・ルマン、BMW・R90Sなどで、これらによりアメリカには空前のビッグバイクブームが到来しました。
その人気を後押しするかのように、AMAは1973年7月に、カリフォルニア州にあるサーキット「ラグナ・セカ」で、スーパーバイクの前身となるプロダクション(市販車)レースを初開催しました。全米選手権と併催という形式で、参加車両の外観は完全にノーマルのまま(エンジン本体のみ改造可)でした。そして、その最大排気量クラスで優勝したのがZ1でした(チームはUSカワサキなのでファクトリー参戦ですね)。
AMAは、その後、1976年にスーパーバイクを独立レースとして公式開催。レギュレーションは、エンジン排気量1000㏄まで(ボアアップのみ可)で、フレームはノーマル、外観=シルエットも市販車をキープといった内容でした。
ところが、それから数年の間は、日本車は全く勝てず、欧州製バイクが連勝していました。原因は、ベース車両のシャーシ性能などが欧州製の方が高かったことで、日本製マシンは最高出力こそ優っていましたが、コーナーでは全く歯が立ちませんでした。
CB750FやKZ1000など、1980年代から日本車が連勝
AMAスーパーバイクで、現在のように日本製マシンが連勝するようになったのは1980年代に入ってからです。当時のアメリカで販売された日本車には、ホンダがCB750F/900F、カワサキがKZ1000MKⅡ/KZ1000J/KZ1000R、スズキがGS1000Sなどのバイクを販売。いずれもスーパーバイクのベース車となり、ホンダがフレディ・スペンサー選手、カワサキがエディ・ローソン選手、スズキがウエス・クーリー選手などを擁し、それぞれ年間チャンピオンなどを獲得し大活躍。
スペンサー選手やローソン選手はその後、最高峰レースの「WGP(ロードレース世界選手権、現在のMoto GP)でも活躍し、日本でもバイクファンに絶大な人気を得ています。
その後、1983年からAMAスーパーバイクは、エンジン排気量が750㏄までに規定が変わり、ホンダはV型4気筒エンジンのVF750F/VFR750F、スズキがGSX-R750を投入。またしてもスーパーバイクで活用し、日本車が主役となる時代に突入しました。
1988年に「SBK:スーパーバイク世界選手権」がスタート
1988年からはヨーロッパで「SBK」が始まります。4気筒は750㏄まで、2気筒は1000㏄までという規定でした。ホンダなど日本車勢は750cc・4気筒マシン、イタリアのドゥカティは1000cc・2気筒マシンで参戦しました。
開始後2年間はホンダのワークスマシンRC30が年間勝利。3年目の1990年にドゥカティの888がタイトルを獲ってからは、イタリア製「2気筒」マシンと日本製「4気筒」マシンの戦いになって行きます(主催者の思惑通りです)。
1990〜1992年はドゥカティ、1993年はカワサキが勝利。翌1994年は再びドゥカティがタイトルを奪い返すなど、その後も日本車とイタリア車の争いは熾烈を極めます。
当時、WGPの最高峰レース「500ccクラス」などでは、ホンダ、ヤマハ、スズキと日本車ばかりが活躍していたので、ヨーロッパの人々はイタリアンが日本車を打ち負かすことに心躍り、SBKの人気は急上昇しました。一時期、イギリスではWGPよりも人気があったほどです。
その後、SBKでは2004年から、AMAでは2003年から4気筒も2気筒と同じく排気量が1000ccまで認められ、SBKでは2008年から2気筒が1200ccになりました。性能争いが激化したこともあり、ここ数年は各メーカー毎に最高回転数に制限を設けるなども行っています(シーズン中の戦績によっても変更されます)。
一方、アメリカのAMAスーパーバイクは、4気筒1000ccになって以降、日本のコンストクターとして有名なヨシムラが、スズキ「GSX-R1000」を投入して他チームを圧倒。ちなみに、AMAスーパーバイクは2014年から「モト・アメリカ」という新シリーズになっています(元グランプリライダーのアメリカ人、ウェイン・レイニー氏が主催し、MotoGP運営団体のDORNAがサポートしています)。
時代を代表するマシンがチャンピオンに
結局、スーパーバイクはベースとなる市販車の性能次第です。さらにベース車両に人気があり、そのバイクが活躍しないと、レース事態の人気も下がってしまします。SBKでは、1988〜2019年までの32シーズンで、
●2気筒16回(ドゥカティ14回:888、916、996、996/R、999、1098、1198R、ホンダ2回:VTR1000SPW)
●4気筒16回(カワサキ7回:ZX-10R/10RR、ZXR750、ホンダ4回:RC30、RC45、CBR1000RR、アプリリア3回:RSV4、スズキ1回:GSX-R1000、ヤマハ1回:YZF-R1)
のライダーチャンピオンが誕生しています(メーカータイトルは途中から設定されたので個人でカウント)。
いずれもその時代を代表する人気スーパースポーツモデルばかりです。
ただ、2気筒の雄だったドゥカティは2019年からV型4気筒のパニガーレV4Rを参戦させていて、これからは日本製インライン4対ドゥカティV4という対決になっていくでしょう。
1970年代に始まった頃は「参加者やファン、そしてアフターマーケットサプライヤー(マフラーやサスなどのパーツメーカー)に興味を抱かせるもの」という理念がありました。現在はメーカー主導ですが、やっぱり使われているパーツは人気ブランドになりますからね(ほぼ同様の仕様で市販されているものも多いです)。
新型コロナウイルスの世界的な影響により、2020年シーズンは開催が延期されたり、中止になったりしているレースが多いのがとても残念です。ですが、再開された暁には、ここで紹介したようなマメ知識を知ってから、是非スーパーバイクを観てみて下さい。きっとレースにより興味が湧き、断然楽しくなりますよ。
レポート●石橋知也 写真●カワサキ/ホンダ/ドゥカティ/八重洲出版 編集●平塚直樹