伝達効率を取るか、静粛性や耐久性を取るか?
伝達効率の優劣には諸説があって、世の中にはシャフトドライブがベストと言う人がいれば(縦置きクランクならそうかもしれない)、駆動抵抗はベルトドライブが最も少ない(鉄の鎖や棒がグルグル回っていることを考えれば、確かに、ベルトの抵抗は少ないだろう)と言う人もいる。
とはいえ一般論としては、最も伝達効率が優れているのはローラーチェーン+スプロケットで、だからこそこの方式は、小排気量コミューターからモトGPを戦うワークスレーサーまで、世界中のありとあらゆるバイクが採用しているのだ。

世界で戦ったホンダ・ワークスマシンRC213V(右)でも、気軽に乗れるホンダのミニバイク、XR100モタード(左)も。どちらもチェーン駆動だ。
そんなローラーチェーン+スプロケット式の短所と言えば、耐久性が他2種より低いことと、マメな清掃・注油が必要なことだが、あまり話題にならない事実として、騒音という問題もある。
もっともこの件に関しては、普通のバイクライフではなかなか体感する機会がないものの、例えばスーパーカブのフルカバードチェーンカバーを撤去したり、ハーレーの後輪駆動をコグドベルト→ローラーチェーンに変更したりすれば、高速回転しながらスチール/アルミ製のスプロケットと噛み合うローラーチェーンが、どれだけ大きな騒音を発生しているかが理解できるだろう。

スーパーカブC100
耐久性と静粛性を意識し、スーパーカブシリーズは初代からフルカバードタイプのチェーンカバーを標準装備。
これを撤去すれば、ローラーチェーン+スプロケットが発する騒音が如実に理解できる。
また、短所と言うわけではないものの、純正がベストとは言い切れないこと、交換時の選択肢がかなり豊富に存在することも、ローラーチェーン+スプロケットの難しい部分かもしれない。
まずローラーチェーンは、最先端技術が投入された社外のトップモデルと比較すると、純正や安価なアフターマーケット製は伸びや錆びが発生しやすい。ドリブン(リヤタイヤ)側のスプロケットに関しては、耐久性ならスチール製の純正が1番だが、軽量なアルミ製が主力のアフターマーケット製でも、近年ではかなりの長寿命を誇る製品が存在する。
つまりローラーチェーン+スプロケットの性能は、オーナーがどんな製品を選ぶかによって大きく変わってくるのだ。
ちなみにカム駆動は……
以下は完全な余談になるけれど、後輪駆動とカムシャフトの駆動には数多くの共通点が存在する。言うまでもなく、OHC/DOHCヘッドを採用するバイク用エンジンのカム駆動は、昔からチェーン+スプロケット式が主流だが、1960年代以前はバーチカルシャフト+ベベルギヤの美点を追求するメーカーが存在したし、1978年以降のドゥカティはパンタ系Lツイン全車に、コグドベルト+プーリー式を採用している。

1940~60年代のレースで数々の栄冠を獲得したマンクスを含めて、ノートンのOHC/DOHCシングルは、バーチカルシャフト+ベベルギヤでカムシャフトを駆動していた。
また、ギヤ式のカムシャフト駆動と言うと、1980年代以降はホンダの専売特許になった感があるものの、ヨーロッパのレース界では、第二次大戦前からカムギヤトレインのDOHCモデルが活躍していた。なお動弁系の定番がSV(サイドバルブ)/OHVだった1960年代以前の旧車を振り返ると、複数のギヤを用いてカムシャフトを駆動するモデルが少なくなかった。
文●中村友彦