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正式名称は「セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグ・ピストン」

新型モデルのカタログを眺めていると「SFF-BP」というサスペンションを採用しているケースが増えているように感じていないだろうか。
最近でいえば、ホンダの新型ツアラーNT1100に採用されているほか、CBR400Rと400Xではモデルチェンジを機にSFF-BPに進化したことがニュースとなった。
ホンダだけでなく、カワサキの250cc4気筒スーパースポーツ・Ninja ZX-25Rやスーパーチャージャーエンジン搭載ネイキッド・Z H2にもSFF-BPが採用されている。
はたして、SFF-BPとはどんなサスペンションなのだろうか。
まず「SFF-BP」というアルファベットを解析してみよう。これは「セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグ・ピストン」の略称だ。
製造しているサプライヤーは日立アステモで、SFF-BPの商標も同社が有している。
日立アステモといっても二輪ファンには馴染みがないかもしれないが、同社は日立系のサプライヤーであった日立オートモティブシステムズとホンダ系のサプライヤー3社(ケーヒン、ショーワ、ニッシン)が合併した企業。
SFF-BPはもともとショーワ独自のフロントフォークとして知る人ぞ知る存在だった。
SFF-BPの特徴とメリット&デメリット


SFF-BPの特徴は「SFF」と「BP」の2つに分けて理解する必要がある。
まずSFF、すなわち「セパレート・ファンクション・フロントフォーク」というのは左右で異なる機能を持たせたことを示している。通常のフロントフォークは左右で同じ構造となっていているが、初期のSFFの考え方では片方にスプリングを入れ、もう一方はダンパー(ショックアブソーバー)に専念させるという構造となっていた。
そのメリットは軽量化にあった。さらに摺動(しゅうどう)抵抗を減らすことでスムースな動きを実現するというのも機能を分けることで期待できる性能面でのアドバンテージといえる。
そして片側にしかスプリングをセットしないということは、もう一方のダンパーの性能を上げることにもつながる。仮にフロントフォークの径が同じであれば、スプリングを排してダンピング機能だけに専念させることで、ダンパーピストンを大きくできるからだ。
単純化するとピストンの能力はその面積が大きいほど有利といえる。円の面積を求める硬式は「半径×半径×円周率」だから、仮に従来構造のピストンよりも径を2倍にできたとすれば、面積は4倍になる。つまり通常構造のフロントフォークの2本分と比べてもピストン面積は倍になるわけで、トータルで見てもダンパー能力は高まるのだ。
これが「BP」、すなわちビッグ・ピストンを採用することのメリットとなる。
初期のSFFというアイデアのイメージが強いせいか、SFF-BPについても片方にしかスプリングを備えていないと理解しているライダーもいるようだが、現実的には、片側のフォークにダンパーとスプリングを装備し、もう一方にスプリングのみを装備するという構造になっている。
もちろん、こうした構造であっても径の大きなピストンを採用していることから、前述した減衰性能についてのメリットを実現しているのはいうまでもない。
また、SFF-BPを採用するカワサキ車のカタログには『両側のサスペンションに異なる調整機能を配置、左側にはプリロード調整機能、右側には減衰調整機能』という文言を見ることができるが、このように調整作業が左右で異なることでセッティングの出しやすさにつながるというのもメリットといえるだろう。
どんなモデルがSFF-BPを採用している?
さて、あらためて2022年3月現在ホンダとカワサキのSFF-BP採用モデルを挙げてみよう。
ホンダ
NT1100、CB1000R、CBR650R、CB650R、CBR400R、400X、CB125R

カワサキ
Z H2、Z1000、Ninja ZX-6R、Ninja ZX-25R

大型上級モデル小排気量車まで採用されるSFF-BP、今後も採用は広がる?
注目してほしいのは「SFF-BP」が、CB125RやNinja ZX-25Rのような小排気量車に採用されていることだ。
このことから分かるのは、SFF-BPはが採用するメーカーが特徴的な装備としてアピールするほどの高いポテンシャルを持っていながら、その性能の割にはコストを抑えられるということだろう。
そして、十分な性能を有していることは、200馬力のエンジンを積む上位モデル・カワサキ Z H2に採用されていることが証明している。もっともホンダ CBR1000RR-R ファイアブレードなど各社の「フラッグシップ」といえる高性能モデルには未採用なことからは、究極的なパフォーマンスを求めるには力不足という面があることも想像できる。
いわゆる「枯れた技術」と呼ばれるような旧来のテクノロジーで作られたフロントフォークに比べれば高価にはなってしまうが、性能とコストのバランスに優れている点が、SFF-BP採用モデルの拡大につながっている。


レポート●山本晋也 写真●ホンダ/カワサキ 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実