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元警察官に聞いた「なぜ警察はコソコソと隠れてネズミ捕りをするのか? <ネズミ捕り>の名前の由来は?」

警察によるスピード違反(速度違反)の取り締まりのことを俗に「ネズミ捕り」と呼びますが、物陰に隠れて見張っていたり、速度測定器を設置していたりと、お世辞にも「正々堂々とした取り締まり」とはいえません。

突然、目の前に「止まれ」と書かれた旗をもった警察官が現れたときには「卑怯だ!」と、理不尽な取り締まり方法に思わず腹立たしくなる人もいるかもしれません。

一般人からすると理不尽とも思える取り締まりも、警察側からすれば正当な理由があるのでしょうか。
当記事では、警察が待ち伏せをしてネズミ捕りをするわけ、なぜネズミ捕りと呼ばれているのかなど、元警察官・刑事の鷹橋 公宣さんに話を聞いてみました。


なぜ「ネズミ捕り」と呼ぶのか?

警察によるスピード違反による交通取り締まりのことを「ネズミ捕り」と呼ぶのは、警察官が違反者を待ち構えて取り締まるスタイルが「まるでネズミ駆除の罠のようだ」と揶揄されているからです。

主に、道路の端にレーダー式の測定器を設置してスピード違反を取り締まることをネズミ捕りと呼ばれることが多いようですが、警察からすれば特に決まった名称・定義はありません。

警察内部では一般的に「交通取り締まり」、シンプルに「取り締まり」と呼ぶことが多く、スピード違反の交通取り締まりのことをネズミ捕りとは呼びません。
違反者=市井の人を「ネズミ」と称するのは警察としても失礼極まりないので、当然といえば当然でしょう。

ネズミ捕りは「抜き打ち検査」のようなもの

警察のネズミ捕りにあったとき、「コソコソ隠れて取り締まるなんて卑怯だ」「堂々と姿を見せて取り締まれよ!」という感情を抱くかもしれません。

それでも警察が隠れて取り締まりをするのは、警察官の姿をみれば行儀よく運転するのに、警察官がいないと悪質な違反を平気で行っているドライバーやライダーを摘発し、悲惨な交通事故を抑止するためです。

たしかに、警察にとって「交通指導」も大切な仕事のひとつなので、姿をみせて違反を防いでくれたほうが交通事故の予防に繋がるような気もします。
しかし、ネズミ捕りというのは、いわば警察による「抜き打ち検査」のようなものです。

運転免許の点数制度には、重大・悪質な違反者に処分を課すことで、道路上の安全を確保する目的があります。
そのため、事故が多発している場所や過去に重大事故が発生したことがある交差点、死傷事故につながりやすい地点などに網を張り、交通ルールを守っているドライバーもふるいにかけているのです。

街頭で警察官の姿をみせて周囲に緊張感を与えることも大切ですが、それでは悪質なドライバーをあぶり出すことはできません。
まるでだまし討ちのように感じられるネズミ捕りも、実は「悲惨な交通事故を防ぐため」に大きな効果を発揮しているのです。

なお、警察が突発的に取り締まる……ネズミ捕りのようなことをすることによって、違反者が最大64%も減少したという海外の研究結果もあります。
警察庁による国内の統計を見ても、取り締まりを強化すると交通事故が減少するという結果も出ています。

道路標識が見えづらくて違反が取り消しになったケースも!?

とはいえ、いくら「事故防止のためにやっていること」だと説明されても、実際にネズミ捕りにかかったとき、その取り締まり方法が腑に落ちないと感じる人もいるはずです。

しかし、どんなに警察の取り締まり方法について「卑怯だ」「納得できない」と批判しても、基本的に警察官が違反を見逃してくれることはありません。

現場に立って取り締まりをしている警察官も、違反者から不満をぶつけられたり、なんらかの批判を浴びたりすることは想定済みです。
また、ネズミ捕りにあった人の中には「初めて通る場所だったので、まさか違反だったとは気が付かなかった」と言って、違反の取り消そしを求める人も少なからず存在します。

そういった人に切符処理をするのは厳しいように思われるかもしれません。
ですが、ほとんどの標識・標示は全国共通なので、その人が別の場所で同じ過ちを犯さないためにも、日ごろ通らない道路だからこそ、危険防止のために警察としてはしっかりと注意をしなければいけません。

過去に、スピード違反の車両を自動で撮影する「自動速度違反取締装置」(オービス・Hシステム、LHシステムなど)について、その取り締まり方法が違法ではないかと争われた事例がありました。

内容としては、自動で撮影を行う取り締まり方法はドライバーの肖像権を侵害していると訴えたわけですが、残念ながら裁判所では「違法ではない」という判断を下しています(1986年2月14日判決)

その一方、理不尽な取り締まり方法に思えるネズミ捕りに対抗して裁判を起こし、交通違反が取り消された事例もありました。
この事例では、通行禁止の道路だと気づかずにバイクで走行中、兵庫県警察に通行禁止違反で検挙されたライダーが「通行禁止の標識が運転者からは見えづらい状態だった」と主張し、裁判官がこれを認めました。

道路交通法施行令第1条の2第1項 によれば、標識・標示について「車両などがその前方から見えやすいように設置・管理しなければならない」と定めており、この規定に違反する取り締まり方法であるという判断です。

このように、樹木が生い茂っていて標識が見えにくかった、標示の文字などが薄くなっていた、そもそも設置箇所が悪く、どう考えても標識が一瞬しか視認できないといった状況のケースは、違反が取り消しとなる可能性があります。

ただし、上記のケースは現場でライダーと警察官が争った結果ではなく、裁判で合理的な証拠を示して裁判官が訴えを認めた事例であることを無視してはいけません。

実際にネズミ捕りが行われる現場で「標識が見えにくかった」と主張しても、警察官は問答無用で切符処理をします。

もし、反則金を納付せずに標識・標示の視認性を争う意思があるなら、警察側は基本事件として捜査する流れになるでしょう。
また、免許取り消し・免許停止などの行政処分の無効を訴えたい場合も、裁判で争うことを覚悟しなければなりません。

レポート●鷹橋 公宣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉

鷹橋公宣 たかはし きみのり
鷹橋公宣

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。

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