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極端な幅寄せをする、前方車両の車間距離を詰める、わざとブレーキをかけて後方車両に迷惑をかける「あおり運転」。時には悲惨な事故も引き起こしている。
2017年6月に神奈川県の東名高速道路で起こったあおり運転による事故では、夫婦や子どもが乗っていたワゴン車が「追い越し車線へ停車中」に後続のトラックに追突された。
この事故では、夫がパーキングエリアで駐車位置について注意した乗用車に、しつこく追いかけられ、何度もあおり運転被害を受けていた。
そうして、追い越し車線に無理やり停車させられた結果の事故だったという。夫婦は死亡、一緒に乗車していた長女と次女だけが無事だった。
2020年6月より改正した道路交通法によって、現在はあおり運転をした場合には罰則が課せられているが、このように大きな事故の原因となるあおり運転を人はなぜやってしまうのだろうか。
そこで当記事では、「あおり運転」をやってしまう人の心理状況、あおり運転の被害を受けた場合により過激化させないための行動など、心理学者のひなた あきらさんに聞いてみた。
運転中は顔が見られにくいため人間の本性が出やすい
──「幅寄せ」や「車間距離を詰める」といったあおり運転はどのような心理状況からやってしまうものなのでしょうか?
「あおり運転」をする人は「自分の運転を邪魔された」と思ったとき、相手に仕返しをするべく、その復讐に一心になってしまいます。つまり、なにか少しのきっかけでもあおり運転をしてしまうのです。
そのため、ほかの車両に追い越されただけで、相手を執拗に追ったり、相手が何も悪いことをしていないのに、職場で嫌なことがあったストレスを解消するためにと、自分勝手な理由であおり運転をする人も中にはいるでしょう。
運転をしているときは、相手から顔が見えにくく、車内という「個室」のような環境では、職場や学校のように常識的な振る舞いをする必要もないため、その人本来の性格に近い心理状況になっています。
いずれにせよこういった人たちは、衝動性を抑えることができない傾向にあります。また、相手が悪意を持っているのではないかと、過度に疑い深くなり、弱い者を迫害する心理状態にもとらわれているでしょう。
──乗っている車両によって「あおり運転」をするきっかけになることはあったりするのでしょうか? たとえば、ステレオタイプなイメージですが、SUVや高級車といった車体が大きい車両など……
厳密に「ある」とは言いきれませんが、乗っている車両によってあおり運転の傾向が出るというのはあり得ることだと思います。
というのも、精神分析学からすると、クルマやトラックなど車体が大きい乗り物は運転者が普段はおっとりした性格の人でも自らの「強さ」を示すことができる手段になり得るからです。
クルマの大きさ=自己の強さと、自分の身体がクルマと同じだけの大きさがあると思い込んでしまいます。
そして、相手の車両を見て「自分より弱いから」と、攻撃しやすいターゲットだと判断し、あおり運転をします。
したがって、軽自動車やコンパクトカー、ピンク色の車両など「若い女性が乗っていそうな車両」があおられる傾向にあると思われます。
──たとえば、相手車両に対してイラっとすることもあるかと思いますが、そういった場面ではどうすればいいのでしょうか?
ひとえにあおり運転といっても、場合によっては「あおられるような運転」をしている人にも問題があるでしょう。
たとえば、お互いの車両がぶつかりそうなぐらい急に割り込んで来たり、30km制限と書かれた看板もないのに30km/hで走っている前方車両などがいたら、「あおり運転」にあたるような行為をしたくなる気持ちも分からなくはありません。
そういったとき、思わずイラッとしてしまいますが、一旦深呼吸をして、少しだけ時間を空けてから運転することをおすすめします。
たとえば、近くのコンビニを見つけてコーヒーを飲んだり、お菓子を食べたりするなど、気を紛らわることが大切です。
あおり運転をする側がどんなに悪くても争わないこと
──ちなみに、あおり運転をしてきた相手に対して絶対にやってはいけない行動とはどのようなことでしょうか?
相手を挑発することはかなり危険ですね。
たとえば、急ブレーキをかける、スピードをかなり落として運転する、意味もなくハザードをつけたり、ウインカーを出しっ放しにするなど、ムカついたから仕返しをするなんてことは絶対にやってはいけません。
もし赤信号で停まったときに、相手が車両から降りてこちらへやってきたら、「北斗の拳」でいう死兆星(作中では死兆星を見た多くの者は死ぬ設定がある)のように死を覚悟しなければなりません。
なにしろ相手は人の痛みや恐怖をもて遊んで楽しむ「サイコパス」と言われる人格の可能性も高いからです。
また、あおり運転を受けた被害者は、どんな人が運転しているのか興味を持ちたくなるかもしれません。
しかし、窓を開けて後ろを振り向いたり、証拠を残すためにスマホで相手の車両や顔を露骨に撮影するようなことをしたら、余計に相手のあおり運転を助長させるだけなので、やめておきましょう。
──実際にあおり運転の被害を受けていたとき、どのような対処方法を取ればいいのでしょうか?
誰にも迷惑をかけずに、穏便に済ませたいのであれば「あおり運転をする側がどんなに悪くても争わない」ことがベストな対処方法だと考えます。
なので、ひとまず片側1車線の道路でもクルマやバイクが停められる場所があれば、ハザードをつけて一旦停車し、相手車両を先に行かせる。それでもしつこく追ってくるようであれば、停車したあとに警察を呼んで対処してもらう。
あおられているときは「どうすればいいんだろう!?」とパニックになり、恐怖に襲われると思いますが、恐怖というものは理性を失わせます。
人間をコントロールさせるのは愛情ではなく恐怖であり、数々の実験心理学で証明されていることです。
もし、あおり運転の被害にあっても決して対抗しようとせずに、頑張って落ち着いた行動をとるようにしましょう。
監修●ひなたあきら まとめ●モーサイ編集部・小泉元暉
■ひなたあきら
臨床心理士、公認心理師の資格を保有。
都内大学院心理学科卒業後、国家公務員総合職という職員のマネジメントなどを行う。
精神科病院、精神保健福祉センター、福祉施設や労働局等を経て、現在は社産業保健管理室の心理カウンセラーとして勤務のほか、ブログにて心理学やカウンセリングに関することを発信している。