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警察官が事故を起こしたら? 特別な処置があるのか、もみ消せるのか? 元刑事に聞いたホントのところ

警察庁が公表している統計によると、令和2年(2020年)中に全国で発生した交通事故の件数は30万9178件。
1日あたり約850件の交通事故が全国各地で発生している計算になるわけですが、乗り物に乗っているかぎり「誰もが事故を起こす危険性がある」と考えるべきでしょう。

しかし、上記の事故の多さを考えてみると、中には警察官だって交通事故を引き起こすことはあり得ることだと思います。
警察が事故を起こしたら、なにか特別な処置が行われるのか、もみ消すことはできるのか、その実態について元警察官・刑事の鷹橋 公宣さんが解説します。


そもそも交通事故を起こした運転者が取るべき行動とは

まず、交通事故を起こしてしまったときにすべての運転者が取るべき行動を確認しましょう。
道路交通法第72条1項には「交通事故の場合の措置」というものが定められています。

●運転を停止し、負傷者の救護と道路における危険防止措置を講じなければならない
●警察官に事故発生の日時・場所・死傷者の数・負傷や損壊の程度・交通事故について講じた措置を報告しなければならない

これらは、いずれも「ただちに」行わなくてはなりません。
「ただちに」なので「その場ですぐに」が基本です。

もし、救護義務を果たさずにその場を去れば、相手が死傷していた場合はひき逃げに、死傷がなくても当て逃げとなります。
また、報告義務は人身・物損にかかわらず生じるため、事故の大小を勝手に判断して報告を怠ると事故不申告として処罰されます。

警察官が事故を起こした場合、職場にも報告する部内ルールがある

交通事故が発生した際の救護義務・報告義務は、いずれもすべての運転者に等しく課せられています。
たとえ、警察官であっても例外ではありません。

通勤途中やプライベートの時間、パトカーでパトロール中、覆面パトカーで極秘の捜査をしている最中でも、救護義務と報告義務を果たさないと違反となります。

さらに、警察官本人が交通事故を起こした場合は、救護義務・報告義務を果たしたうえで相手方に警察官であることを伝えて、さらに自分が所属している警察署にも報告するという「部内ルール」が存在します。

たとえば、休日に管轄外へ出かけていた最中、交通事故を起こした場合でも、事故発生地を管轄する警察に通報して事故処理を求めるだけでなく、すみやかに職場の上司にも事故発生を報告しなくてはなりません。

事故を処理する側でもある警察官なら交通事故をもみ消せる?

相手が死傷してしまった人身事故だと違反点数による行政処分や罰金・懲役といった刑事罰が科せられますが、警察官であれば「なんとかなかったことに……」と、もみ消すことが可能だと思うかもしれません。
特に、自分が勤務している警察署の管轄内で起こした事故なら「身内かわいさに組織で事故を隠ぺいすることもあるのでは?」と疑いたくもなるでしょう。

では、実際に交通事故をもみ消そうとしたとき、証拠も残さず可能なのかといえば、答えは「No」です。
とはいえ「現場」ではもみ消せる(見逃しが通用する)警察官がいることも考えられますが、その場で交通事故をもみ消せたとしても、その不正は必ず発覚してしまいます。

その理由として、交通事故の処理は事故発生地を管轄している警察が担当するためです。
警察官含め、一般の人たちも事故がどこでどんな状況で起きるのか分かりませんし、そんな都合よく事故が自分の管轄地域となるわけでもありません。
交通事故は発生地を基準に管轄警察署が処理・捜査をするわけですが、管轄外の警察署は事故の処理・捜査に関与することもできません。

さらに「道路の上り線は◯◯市、下り線は〇〇市」や「◯kmより手前はこちら、向こうは隣の県」と、警察が決めた細かな管轄もあります。

もし事務処理のうえで、そのときはもみ消すことができたとしても、相手の負傷や損壊を補償するために自動車保険を使えば、交通事故証明書を発行できないのでもみ消した事実がバレてしまいます。

そのため、交通事故を起こした事実は、事故の被害者や通行人など多くの人が知っていることでもあり「(事故を)なかったことに……」なんて通用しません。

もみ消しが発覚した場合、免職・停職に!?

交通事故のもみ消しにかかわった警察官は、次に挙げる犯罪に該当する可能性があります。

●交通事故を起こして、もみ消しをする警察官
交通事故証明書の教唆犯(人をそそのかして犯罪を実行させた者で、犯人と同じ扱いで刑罰が科せられる)

●交通事故のもみ消しに協力した警察官
犯人隠避罪・証拠隠滅罪・公用文書毀棄罪(こうようぶんしょとうききざい)

警察官には公務員として「犯罪があると思料するときは告発しなければならない」という義務が課せられているため、これらの犯罪が組織内で起きていることが認知された場合は、必ず事件として立件しなくてはいけません。
市民の信頼を大きく裏切る行為なので、報道機関にも公表する事態となるでしょう。

また、警察庁が定める「懲戒処分の指針」によると、特定の者の利益を図るために違反を取り締まらなかった警察官は、重大なもので免職や停職、軽微な違反内容でも減給や戒告という懲戒処分を受けることになります。
免職は簡単にいえば「クビ」ですし、停職や減給、戒告でも組織内で圧力がかかるので依願退職する警察官が圧倒的に多数です。

2016年10月に捜査車両の速度違反のもみ消しが発覚した警察官が「犯人隠避罪」に問われたケースでは、懲役1年と執行猶予3年の有罪判決が言い渡されました。
この事例では、もみ消しに関与した警察官は依願退職しており、たとえ懲戒免職を受けていなくても、警察組織に居続けることはできないという事実が物語っています。

なお、もみ消し行為が発覚するのは、何らかの形でその事実を知ったほかの警察官たちが正義感に基づいて報告をすることで、上層部に知られてしまうからだと思われます。

このように「もみ消しが発覚すれば職を失う」ということを考えれば、立場を捨ててまで交通事故をもみ消そうとする警察官も、自らのクビを賭けてまで身内を守ろうとする警察官もごく少数だといえるでしょう。

レポート●鷹橋 公宣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉

鷹橋公宣 たかはし きみのり
鷹橋公宣

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。

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