■タイトルイラスト:イラストはイメージです。実際の取締りや本文とは関係ありません。
元白バイ隊員が実際に体験した“長い取締り現場”
交通違反の取り締まりをしていると、素直に違反を認める人もいれば、かなり強く反発してくる人もいます。
今回は、私が白バイ隊員時代に経験した「かなりゴネられた違反者」の話と、そのとき現場でどう対応したのかを紹介したいと思います。詳細な内容については一部変えており、個人情報などは伏せていますが、実際の現場感が伝わる内容になると思います。
「俺は悪くない!」から始まった取締まり
交通量の多い幹線道路で取締まりをしていたときのことです。かなり悪質な信号無視車両が、目の前を通過していきました。本当は速度超過の取締りを重点的に行っていたのですが、たまたま交差点で赤信号待ちで停止していました。そして目の前の信号が赤色から青色に切り替わり、発進しようとしたところで、ワゴンタイプの車が速い速度で通過していきました。
当然、私の見ている信号が青に切り替わったので、交差する道路信号は当然赤色となっています。ですが、そのワゴンタイプの車はブレーキを踏んで減速するような素振りもなく、交差点を速い速度で通過していったのです。しかも、交差点進入時には歩行者もおり、タイミングが少しズレていたら重大事故になってもおかしくない状況でした。
私は白バイのサイレンを鳴らし緊急走行を開始し、すぐに停止を求めました。すると運転手は車から降りるなり、
「今のは黄色だろ!」
「お前ら隠れて取り締まりしてるだろ!」
「こんなの捕まえるのおかしい!」
と、かなり強い口調。
最初はよくある反応だと思っていましたが、そこからが長かったんです。とにかく違反を認めません。
違反者の方は
「停止線を越えた時は黄色」
「歩行者はいなかった」
「白バイ側の見間違い」
「動画を見せろ」
「上司を呼べ」
など、次々に主張してきました。
もちろん、こちらは感情的にはなりません。交通取り締まりで大事なのは、“冷静さ”です。こちらが感情的になると、現場はさらに荒れてしまいます。
そのため
・どの位置で信号を確認したか
・なぜ危険と判断したか
・どのように違反を認定したか
これを一つずつ丁寧に説明しました。
ただし、相手は完全に納得しているわけではありません。
しかもその車の運転手はなかなか運転免許証を提示してくれません。

運転免許証を提示しないとどうなる?
■道路交通法第95条第2項
【提示義務】
自動車等を運転中、警察官から免許証(またはマイナ免許証)の提示を求められたときは、これを提示しなければならない(罰則…5万円以下の罰金)
となっています。
ちなみに「提示」とは、さし出して見せることであり、手渡すことは必ずしも必要ではないですが、警察官が免許証の記載事項等を十分認識できる程度の見せ方でなければならないのです。頑なに免許証を提示を拒み続けると最悪の場合、逮捕される可能性もあります。
最初は運転免許証の提示を拒んでいたものの、徐々にトーンダウンし運転免許証の提示に応じてくれました。内心、やっと違反について認めてくれたのかと思ったのも束の間、次は「絶対にサインしない」と申し立ててきたのです。
「サインしない」と言われたらどうなる?
よく誤解されるのですが、交通違反の切符は、サイン(署名)を拒否しても成立します。よく交通違反を「否認」すると言います。細かい手続き等については割愛しますが、「サインしなければ無効」と思っている人もいますが、そうではありません。
実際、このときも最後までサインは拒否。ですが、必要な手続きを進め、拒否の事実を記録した上で処理を行いました。取り締まりの現場では、“揉めたから無しになる”ということはありません。
また青切符の違反で署名を拒否した場合は、反則通告制度の適用除外となる場合もあったり、通常の刑事事件として扱われることもあるので、最終的には検察庁への呼び出しや裁判(刑事裁判)に発展する可能性もあるかもしれません。

なぜ毅然と対応するのか?
交通違反の取り締まりで大事なのは、その場の空気ではありません。一番大事なのは、“事故を防ぐこと”です。
特に
・悪質な信号無視
・飲酒運転
・著しい速度超過
・危険な追い越し
こういった違反は、一歩間違えれば人命に直結します。だからこそ、現場では毅然と対応します。
「今回はいいでしょう」という対応をしてしまうと、結果的に危険運転を助長してしまう可能性があるからです。
もちろん警察官も人間です。時には感情的になりそうになる場合も当然あります。しかし、感情的になったとしても言動などについてはかなり選んで発しています。
違反した方は好き放題に言ってくるので、こちらはとてもストレスを感じるのは事実ですが、違反した方が交通取締り受けて面白くない思いをしているのは百も承知、ひどい言葉を浴びせられてもひたすら我慢するのです。
実は“見逃している”わけではない
「なんであの車は捕まえないんだ」と言われることもあります。ですが、取り締まりには優先順位があります。
・今停止させると逆に危険
・緊急走行への対応
・他の重大違反を確認している
・物理的に停止を試みるのが無理
など、現場ではさまざまな判断があります。

よくあるのが検挙するには至らない交通違反等について注意対応することもありますが、その際に「見逃してもらった」と勘違いしてしまうこともあるようです。しかし、悪質性が高い違反については、基本的に厳しく対応します。
また、警察無線等によって情報を共有しているので、逃走した車両等についても、手配したりするので、その場での検挙は不可能でも後日対応するなどの措置もあるのです。白バイ隊員や交通機動隊員を含め全ての警察官は、“嫌がらせ”で取り締まりをしているわけではありません。事故を未然に防ぐために活動しています。
現場で大切なのは、「公平性」と「安全」
交通違反の取り締まりは、時にかなり厳しい言葉を向けられることもあります。
ですが、現場で大切なのは、感情ではなく「公平性」と「安全」。違反者がどれだけ強く反発しても、危険な違反については曖昧にせず、必要な対応を行います。
実際、後日になって、「あの時止められてよかった」と言われたこともありました。取締まりは嫌なものに感じるかもしれません。ですが、その一件が重大事故を防いでいる可能性もあると思っていただき、現場の警察官の大変さも感じてもらえたら悲惨な事故も少しは減るかもしれません。

文●睦良田俊彦
睦良田 俊彦(むらた・としひこ)
1986年北海道生まれ 趣味:クルマ、バイク
歯科技工士を経て警察官となり、約15年間勤務(白バイ隊員歴約10年)。警察学校卒業後は約3年半の交番勤務を経て交通部門へ。白バイ警察官として第一線で交通取締りをメインに活動し、ライダーのための安全講習、交通安全啓発イベント、マラソン大会先導、大統領車列先導など、様々な経験を重ねてきた。県警主催白バイ大会での優勝経験もあり、白バイ新隊員の育成などにも携わった後、巡査部長の階級で依願退職。現在は退職後の夢でもあったライディングレッスンなど、ライダーのためになる活動が出来る場を作るべくYouTuberとして、バイクの面白ネタ等を発信する「臨時駐車場チャンネル」ほか、新たにバイクライディング技術等に特化した「元白バイおやじチャンネル」も開設して活動中。バイクイベント等に積極的に参加し、出身の北海道で開催のライディングレッスンで講師も務めている。




























