世界初の可変マス機構を誇った専用設計650ccツイン「スズキGR650」[1983]……隆盛の陰に短命車あり【1980〜2000年代に起こったバイクの改変 その6】

■「バーチカル・ルネッサンス」のキャッチフレーズが入ったGR650のカタログ表紙ながら、意外にも車両は前面に出ず、眼下の山々の風景に溶け込む。
■コロンブスの卵=誰でも思いつきそうだが、それを最初に考えてやるのは意外に至難というようなこと。そのたとえどおり、スズキは可変マスをMCメーカーとして初開発。新機構の詳細は本文に譲るが、空冷4サイクル並列2気筒DOHC2バルブエンジンは、1軸バランサー付きの180度クランク採用で、スタンダードスポーツとして常識的な基本構成。ただし、このエンジン内ではピストンを裏面からオイル噴射で冷却するオイルジェットピストンクーリング(後の油冷に発展して継承)、燃焼を促進するエアインダクションシステムなどを採用し、空冷ツインでの更なる理想を追い求めていた。
■可変マス機構採用のほか、GR650が積極的に軽量なマシンづくりを目指したとわかるのが、カタログにある“ULTRA-LIGHT-WEIGHT”の表記。実際エンジンの軽量コンパクト化以外に、大径薄肉のハイテンション鋼管採用のダブルクレードルフレーム採用、リモート調整機構付きのリヤフルフローターサスなどで、軽快な走りを狙ったものの、意外と安定指向のハンドリング特性。前19、後16インチ車輪のアメリカン的車体構成などが、ハンドリングの軽快感をぼやけさせてしまった印象だ。
■RG250Γと同じく’83年に登場のGR650。写真のとおりバーチカルと言う割には前傾したツインエンジンのほか、厚めの段付きシート、大アップ気味のハンドル、キャストホイールの組み合わせが特徴。400並の取り回しと750並の走りという狙いは、乾燥重量178kg、価格47万8000円で当時の400ccクラスに比肩。53psの性能が750並みの走りを実現したかどうか定かではないが、当時の重量級750を峠で取り回すよりも、乗る人が乗るGR650のほうが案外速いという状況は十分想像できる。
■登場から30年後に試乗できたGR650のエンジン。エキパイ部(本来メッキ仕上げ)、カムカバーと左右ケース(本来バフ仕上げ)、シリンダーヘッドフィン側面(本来アルミ地)などがノンオリジナル。可変マスを抜きにすれば、造形的にも特性的にもオーソドックスな印象で、そう考えるとバーチカル・ルネッサンスの表現に本当に相応しいのは、'99年登場のカワサキW650(後に800)ではないかと個人的に思えた。地面に対し直立したWの並列エンジンは、360度クランク採用のロングストローク型で、排気量の割に重いクランクマス(同社のバルカン1500相当という)採用で独特の鼓動と回転感を味わわせ、ロングヒットを記録したのが記憶に新しい。
■今ではアナログでレトロな雰囲気に感じる針式速度計(左)と回転計(右)。レッドゾーンが8500rpmからのツインは可変マスの効果は感じられたものの、特別なテイストを狙わず実用的な回転フィールだったと言える。両回転計の間、中央上の表示部はギヤポジションインジケータ。今ではかなり普及したギヤ段数表示だが、スズキは'80年代からこの機能を積極的に採用していた。
■2013年の別冊モーターサイクリスト試乗企画にて、好調に走っていたGR650。乗り手は今も現役で活躍中のフリーライター中村友彦さん。
■GRのスタイルの元と言えるのがGSX250/400T(’81年登場)だろう。GSX系のDOHC4バルブツインを250と400で展開していたスズキは、同系エンジンをオンロードスポーツのGSX-EとアメリカンのGSX-Lシリーズのほか、このT(トラディショナルの頭文字)シリーズにも搭載。合いの子スタイルはある意味新たな提案だったものの、好評は得られず、このTシリーズも3年と経たずにラインアップから外れることとなる。
■「スズキGR650」
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