スーパーカブC100系をベースに誕生した直後から、ハンターカブシリーズが持っていた大きな特徴は、通常走行時とトレール走行時で減速比の切り替えができるメカニズムである。
前回記事ではハンターカブが持つふたつのメカニズムの内のひとつ、ダブルスプロケットを紹介した。
前回記事を読んでもらえば分かるが、ダブルスプロケットを実際に使用するのは大きな手間だ。
それを解消すべく開発されたのがこの副変速機。このメカニズムを詳しく追っていこう。
文/神山雅道
※本記事は旧車二輪専門誌 モーターサイクリストCLASSIC2018年4月号に掲載されているものを再編集しています。
ハンターカブの副変速機を分解してみる
前期型CT90K0以前のダブルスプロケット機構は、「クイックチェンジ・スプロケット」とカタログでうたわれたものの、実際の作業は手間がかかり、気軽にできるものではなかった。
そうした声は当然、ユーザーサイドから上がっていたのだろう。
’67年、ホンダは画期的な副変速機(サブミッション)を開発し、一部仕様を除きハンターカブシリーズに装着し続けた。
サンプルに用意したのは、’68年に国内投入されたCT50のエンジン。
兄貴分の90~110系とは無論異なる設計だが、基本的な仕組みは同じなのでこれで解説する。
副変速機仕様のエンジンは、左カバー後方に大きなギヤ室があるのでひと目で判別できる。
1:分解前に、副変速機のギヤ室のサイズを見てみよう。
非装備のエンジンの場合、すぐ前側のジェネレーター部が最も外側になるが、副変速機はそれより大きく張り出している。
この中は、どんな構造になっているのだろうか。
2:下側から見る。
小さな切り替えレバーの脇にあるボルトはオイルドレンで、潤滑用のオイルが入っていることがわかる。
ただ、フィラーがないのはどういうことだろうか。
3:副変速機とは関係がない部分だが、カバーをチェンジシャフトが貫通する構造になっている。
ほかのカブ系エンジンの多くはシャフトを避ける形状になっており、これは砂塵や泥からオイルシールのリップを保護する意図と思われる。
4:小カバー(便宜上こう記す)を外すと、奥は見えにくいがサイズ違いのギヤが4枚現れる。
見た目はエンジン本体のミッションとそう変わらない。
非常にシンプルな構造であることがこれだけでわかる。
5:小カバー側は、2本のシャフト端を支持する構造。
片側にはボールベアリングが入るが、もう片方はブッシュも入らないケース直受けになっている。
位置決めのノックは、ボルト4本のうち1カ所のみ。
6:ギヤ関係を外したケース内部。
写真右のシャフト部にはオイルシールが入り、左は小カバーと同様にケース直受け。直受けの理由は、シャフト自体は一切回転しないから。根元の回り止めのピンが見えるだろうか。
なお、90/100系は固定シャフトが逆側の後方になる。
7:大カバーを外し、ようやくスプロケットを取り出すことができる。
これは副変速機非装備のエンジンのものと一切互換性はなく、歯数設定も13Tのみで、現在純正品の入手が困難なようだ。
90/110系は15Tのみ。
8:エンジンから伸びるカウンターシャフトは非常に長い専用品だ。
矢印で記す穴はエンジン本体と副変速機室をつなぐオイル通路(だからフィラーがなかった)。
穴が上下ふたつなのは副変速機内の油量を適正に保つためで、組み付け時はOリングが入る。
つまり、副変速機付きはケースから専用品だったのだ。
9:スプロケットと副変速機のギヤの1枚は、大カバーの隔壁とオイルシールを隔て、このような位置関係になる。
両者は常時固定となっていて、ミッションの長いシャフトに対しては固定されずフリーで回転する。
シャフトの回転をどうスプロケットに伝えるかで、減速比変更を行うのが副変速機の基本的な考え方だ。
→次ページ:実際にギアがどう動くか見てみよう
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