“中免”の極北
’80年代初頭の空前のバイクブームを象徴する2台のマシンを紹介する【愉悦のaround 50ps】だが、前回は「NSR250R」を紹介した。
レーサーレプリカと聞けばNSR250Rを筆頭に250cc2ストロークエンジンを備えるバイクを想像する人も多いだろうが、今回紹介する「GSX-R(GK71B)」はミドルクラスを代表するレーサーレプリカだ。
中免で乗れる当時の最高峰マシンに触れる。
※本記事は別冊Motorcyclist2014年7月号に掲載されていたものを再編集しています。
「やらまいか」精神が結実
1984 SUZUKI GSX-R 59ps
GPレーサーRGΓのレプリカ、RG250Γが華々しくデビューを果たした’83年。
スズキは400㏄クラスでも技術的な見どころの多いモデルをリリース。
それが、型式名GK71AことGSX400FWだ。ヤマハXJ400Z-S(55㎰)と並び、いち早く400㏄直4ユニットに水冷を導入。2渦流燃焼室(TSCC)を採用したDOHC4バルブエンジンは50㎰/1万500rpmを発揮。
フロントにアンチノーズダイブ機構ANDF付きフォーク、リヤはスプリングプリロード調整ダイヤルを設定したフルフローターサスを装備するなど、足まわりも時代を先取りしていた。
だが、スチール製角パイプ“L-BOX”フレームの採用や各種豪華装備などが積み重なり、乾燥重量は178㎏(ハーフカウル。ミニカウル仕様は177kg)。
この車重自体はライバルたちと大差はなかったものの、空冷ながら回転数応答型バルブ休止機構“REV”を導入し、58㎰をたたき出したホンダCBR400Fや、流麗なスタイルに積む空冷2バルブ4発を矢継ぎ早にアップデートしてきたカワサキGPz400/F(3月発表・51㎰/11月発表・54㎰)らの中で埋没してしまったのは事実。
「やられたらやり返す。倍返しだ!」と当時開発者が言ったかどうかは不明ながら、Γの4サイクル版を「やらまいか(やろうじゃないか)!」と一致団結したのは間違いない。
今に続く名ブランドの原点は400cc革命児
かくして’84年、GSX-R(GK71B)登場。ライダーたちは2年連続で、スズキに度肝を抜かれることとなった(ちなみに翌’85年には、GSX-R750とRG400/500Γが国内発売)。
Γのアルミフレームをさらに進化させたMR(マルチリブ)-ALBOXフレームを採用し、エンジン本体もニューTSCCを取り入れつつ大幅に軽量化。
ブレーキや車体各部の駄肉も徹底的に削ぎ落とされ、FW比で26kgもの軽量化を実現して乾燥重量は152kg。
最高出力はクラストップの59㎰/1万1000rpm(最大トルクは0.4kgm増大)をマークし、この数値が結局、400ccクラスの自主規制値となる。
耐久レーサーレプリカという世界を切り開き、30年経った今でも600/750/1000スーパースポーツに名を残すモデルの始祖はアラウンド50㎰車としてもぜひ試乗したい。
縁あって、驚くほど程度良好な車両を取材できた。
実車を前にした瞬間、泣きそうになる。
しげの秀一作「バリバリ伝説」で、グンとヒデヨシが鈴鹿4耐を戦ったマシンと同じカラーリング!
車体各部に小傷こそ散見できるものの、カウルやタンク塗装面にヤレはなく、シート表皮にヒビ割れひとつもない。
当然のようにセル一発で目覚めるエンジン。
アレ? タコメーターが動いてない……ってお約束。
まさに’83年のRG250Γが初採用し、以降RG/RGV系やGSX-Rシリーズに装備され続け、一部ヤマハレプリカモデルへも飛び火した“3000rpm未満切り捨てタコメーター”だ。
いざ走り出しても回転計は沈黙を守ったまま。
そう、低速から非常にブ厚いトルクが発生しているのだ。
あえてギヤを素早くかき上げると、本当に針をピクリともさせないまま、一般道の流れには十分乗れてしまう。
一転、エンジン回転を上げてみると、6000~7000rpmあたりから4into1マフラーの“コーッ!”といった快音が高まり始め、パワーバンドに突入する8000rpmからレッドゾーン1万2000rpmまでは、一段と鋭い吹け上がりとともに、ヨシムラサイクロンもかくやの調音された咆吼(ほうこう)が周囲を震わせる。速い!
何というか、吸気されたエアが2バレルSUタイプキャブを介して混合気となり、ニューTSCCで実現された真円シリンダーヘッド内で完全燃焼された後、マフラーから排出されるまで、よどむところが皆無という感じ。
実際、そこには各種センサーも三元触媒もECUマップによる演出もなく、限られた排気量の中で最大限のパワーを引き出すべく試行錯誤した、開発者の創意工夫があるのみだ。
意外だったのはフロント16インチホイールの素直な操安性。
ダンロップTT900GPを履いていたせいもあるのだろうが、もっとクセが強いのかと身構えていたら、倒し込みも実に素直。
七五三掛店長いわく「スズキの16インチ車は、どれもクセがないですね。肩を入れるだけで曲がっていきます」とのこと。
前後サスの動きがスムーズだったおかげもあるだろう。
ただ……ANDF(アンチ・ノーズ・ダイブ・フォーク)の作動には、最後まで完全に慣れることができずじまい。ちょっと残念。
しかし、逆に言えばそこしかネガを感じることもなく“素”の原動機が発揮する、突き抜けるような59㎰を存分に楽しませてもらった。
4メーカーのひしめく国でありながら、圧倒的大多数が400㏄以下しか選べないという極限状態と、技術の革新が密接にリンクしたため輩出された、小排気量アラウンド50㎰モデル。
それら1台1台に込められた異様なほどの情熱は、間違いなく本物だったのだ。
1984 GSX-R(GK71B) 主要諸元
●エンジン:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ 総排気量:398㏄ 燃料供給方式:キャブレター(AS27VW)
●性能:最高出力:59㎰/11000rpm 最大トルク:4.0kgm/9000rpm
●変速機:6段リターン
●寸法・重量:全長2090 全幅710 全高1185 軸距1425 シート高780(各㎜) キャスター:27°25′ トレール:96㎜ タイヤサイズ:Ⓕ100/90-16 Ⓡ110/90-18 車両[乾燥]重量: 176[152]㎏
●容量 燃料タンク 18ℓ オイル 3.0ℓ
●当時価格 62万9000円
“中免”で乗ることのできた4発バイク!
1984 YAMAHA FZ400R
実はたったの2カ月遅れで59㎰一番乗りを逃した(GSX-Rは3月発売)ヤマハ流レプリカ。
鉄フレームだったが、秀逸なデザインから人気を集め、FZR400が出ても併売されていた。写真は’86年型。
当時価格:59万8000円
エンジン:水冷4サイクルDOHC4気筒
車重:188kg
最高出力:59ps/12,000rpm
最大トルク:3.7kgm/10,000rpm
最高速度:170km/h
1985 SUZUKI RG400Γ
500Γと同時開発された“中免”向けリアルGPマシンレプリカ。
何と言っても2サイクルスクエアフォーエンジンである!
写真は同年のウォルター・ウルフ仕様。ホンダからは、V3のNS400Rも出た。
当時価格:65万9000円
エンジン:水冷2サイクル4気筒
車重:153kg
最高出力:59ps/9,000rpm
最大トルク:4.9kgm/8,500rpm
最高速度:175km/h
1985 KAWASAKI GPZ400R
アルミクロスフレームに水冷59㎰エンジンを搭載しつつも、独特なスタイルで勝負しベスト&ロングセラーに輝いた異色モデル。
おかげで後継のGPX400Rは全く目立てずじまい。写真は’89年のD-4型。
車重:200kg
最高出力:59ps/12,000rpm
最大トルク:3.6kgm/10,500rpm
最高速度:175km/h
1989 HONDA VFR400R
VFR750R(RC30)の弟分・NC30として知られ、360度タイプのクランクを得たV4エンジンは、小変更で70㎰超えも可能という評判を持つ。
骨格は異形五角断面アルミツインチューブフレーム。
当時価格:74万9000円
エンジン:水冷4サイクルDOHCV型4気筒
車重:164kg(乾燥)
最高出力:59ps/12,500rpm
最大トルク:4kgm/10,000rpm