ライバル勢に対抗するため、排気量を拡大
’71年から発売を開始した750㏄のLツインシリーズで大成功を収めたドゥカティは、’70年代中盤になると排気量を864㏄に拡大したエンジンを主軸に据え、GT/GTSやダーマ、S2など、日常域やツーリングでの快適性に配慮したモデルの充実化を実施。とはいえ、世界中のドゥカティユーザーから熱狂的な支持を集めたのは、レースで培った技術をダイレクトにフィードバックした900SSとMHRシリーズだった。
今になってみると不思議な気がするけれど、’60年代後半〜70年代初頭は、世界中の2輪メーカーが一気に大排気量車に目を向けた時代で、一部の例外を除けば、各社の旗艦の排気量は750㏄だった。もっとも、量産車の世界で750㏄が脚光を浴びていた時代は意外に短く、’70年代中盤以降は各社から850や900、1000㏄モデルが続々と登場。ドゥカティLツインも誕生から数年後には、ボアを80→86㎜に拡大した864㏄仕様が主力になっている。
ドゥカティ初のオーバー750㏄車は、’74年から発売が始まった860GTだが、本命と言うべきモデルは、750SSの排気量拡大版として’75年にデビューした900SSである。最高出力は750SSとほぼ同等だったものの、耐久性に優れ、販売価格を抑えた900SSは、世界中で好セールスを記録。そして同車の基本設計を転用して生まれたマイク・ヘイルウッド・レプリカ、’78年のマン島TT制覇を記念して生まれた900MHRは、最終的にはシリーズの総生産台数が約6000台に達し(1000MHRミッレを加えると約7000台)、当時のドゥカティにとって史上最大のヒットモデルとなった。
▲スクエアデザインとなったベベルLツインは、ボアアップによって排気量を748→864㏄に拡大。吸排気系はデロルトPHF40㎜径キャブ+コンチが標準だが、一部の仕向け地には32㎜径キャブ+ラフランコーニ/シレンチウム仕様で出荷された。なおベベルLツイン全車の動弁系がデスモドロミック式となるのは’77年からで、’74〜76年に販売された860/900GTSはオーソドックなコイルスプリング式だった。
▲軽快でダイレクトなハンドリングを獲得するため、メーターパネルはステアリングステムではなく、フレーム側にマウントされている。スピード/タコメーターはベリア製。
▲多くの900SSユーザーがシングルシートを好むことを考えると、’78年以降のSSで採用された少々野暮ったいスタイルの純正ダブルシートは、今となっては貴重なパーツかもしれない。後部にはキーで施錠できる小物入れを装備する。
▲前後ショックはマルゾッキ。既存のスポークホイールに替えて、ベベルLツインにアルミキャストホイールが導入されたのは’78年型から。撮影車のブランドはFPS(サイズはF:2.15×18、R:2.50×18)だが、スピードライン製も存在。ほかのモデルではカンパニョーロを採用することもあった。
▲前後ブレーキキャリパーはブレンボ対向2ピストン。撮影車のカラーはゴールドだが、入手時はブラックだった。ディスクに穴加工が施されるようになったのは’70年代中盤から。
▲バーが可倒式になってはいるものの、左右ステップの設置位置と構成は、当時の量産車の中では相当にスポーティ。