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1979年4月、400ccクラス初のツインカム(DOHC)4気筒として登場したZ400FXは、最高出力43psで高性能を標榜したものの、その10年後に出た同系エンジン搭載の初代ゼファーは46psで「ゆったりと走れるマシン」を謳った。
バイクの性能進化が著しかった1970年代後半から1980年代の高性能車と、その後のスタンダードネイキッドは、どこが違いどう発展したか? Z400FX(1979年)とその系統を受け継ぐゼファー(1989年)までの10年を振り返ってみる。
Z400FX、Z400GP、GPz400、そしてゼファー…カワサキ400cc空冷4気筒の軌跡
空冷並列4気筒OHC2バルブ搭載のホンダCB400Four(通称ヨンフォア)が1977年に生産中止になって以降、国内400cc市場はしばらくヒットモデルが不在だったと言える。そんな状況の中、1979年4月にカワサキのZ400FXが登場。国内400ccクラス初のDOHC並列4気筒エンジンを搭載し、当時クラス最大の43ps/9500rpmの最高出力を誇るとなれば、売れるのは当然だった。
当時のZ400FXの新商品ニュースには、「高性能エンジン」のほか、静粛性に貢献するサイレントカムチェーン、オートカムチェーンテンショナー、快適な乗り心地を実現するリーディングアクスルフロントフォーク、キャストホイールや信頼性の高い前後ディスクブレーキなど、今では当然の装備が特筆されている(リーディングアクスルは、サスペンションと車体性能の向上で、今日のオンロードモデルでは採用されていない)。
加えて、当時の中型免許ライダーを満足させるべく、車格にも配慮された。直線的で適度な丸みと角張りを持つフォルムに、リラックスしたアップライトなポジション。全体的に硬派なイメージで、そのスタイルは当時の“暴走族”にも人気となってしまったのだが……。
Z400FXが登場したころ、筆者は中学2年。それから2年ほどして教習所でホークII(CB400T)に乗って中型二輪免許を手にした1982年にも、Z400FXはE4の最終型が売られていた。
ライバル他社も400cc4気筒を出し始めるなか、E4は1981年に発売され、セミエアフロントフォーク、小型ブレーキキャリパーとディスク、軽量化されたチューブレス対応のホイール、ハザードランプ、グラブバー、ハロゲンヘッドランプを採用し、点火をフルトランジスタ化した。
性能面では後発のホンダ CBX400F(48ps/1981年発売)にかなわなかったが、カワサキの硬派なバイクらしさは少しも色あせず、実際に人気は持続していた。
しかしZ400FXは1982年を最後に生産中止となり、同系エンジンをパワーアップして搭載したZ400GP(1982年)、次いでGPz400、GPz400FとGPz400FIIと短期間にスイッチ。外観の硬派色を薄めつつ、空冷DOHC2バルブは年月の経過とともに性能的には色あせつつも生きながらえた。
なお、1982年に後継のZ400GPが登場し、Z400FXは生産終了かに見えたものの1982年12月に最終モデルを販売。だが、それも長くは続かなかった。高性能なスポーツバイクは、エンジンの水冷化、DOHC4バルブが主流の時代へと移行し始めていたからだ。
あえての空冷4気筒、高性能化に異を唱えた新時代の風「ゼファー」
そして1980年代後半、カワサキの空冷2バルブ系パワーユニットは、すでに高性能をアピールする存在ではなくなっていたが、別の路線で人気を博すこととなった。1989年4月、レプリカモデルが氾濫した時代に、虚飾なしの装備と常用性能重視をうたったゼファーに搭載されて爆発的にヒット。1990年代に入っても好セールスを記録したのである。
Z400FXから続いた空冷4気筒DOHC2バルブエンジンだが、その登場から10年の間に目まぐるしくメカニズムが進化し、高性能モデルの4ストロークエンジンは水冷4バルブが当然の仕様に。そればかりかエンジン型式も多様化したほか、レーサーレプリカ系モデルに至ってはクロスレシオミッションなども採用。車体はアルミフレームが常道となり、フルカウルも当然の装備になった。そしてエンジンは、より高性能で高回転型へ……。
しかし、果たしてそれが普段の走りに必要なのか? 立ち止まって考えるライダーがいてもおかしくはない。レプリカブームの熱狂とその裏に芽生えたかすかな疑問の中、新しく明確な提案をしたのがゼファーだった。
以下はゼファー発売時のカワサキのプレスリリースからの引用。
「ZEPHYR(ゼファー)。それは西からの新風。そしてカワサキのニュージャンルマシンに与えられた名称です。時間を短縮するだけの性能に目を向けるのではなく、ゆったりと時間を感じることの出来る性能を重視し、ライダーが街の風や匂いをスケッチするように走れるマシンとしました。マシン本来の姿を、ライダーの個性を、そしてマシンとの関わりを大切にしています。設計思想は常用のポテンシャル、そして追求したものは美しく、心地よいメカニズムです。(後略)」
カタログにもそのメッセージが貫かれており、最終ページの諸元紹介を除けば、全12ページの内、メカニズムは最後の1ページで紹介されるのみ。表紙を含む残りの10ページは、ゼファーとライダー、そして別の場所にいる彼女とのフィクションストーリーで構成されるという、異色の内容だった。
しかし、ここで展開されるゼファーと乗り手の関係に、影響を受けた当時のライダーは意外と多かったかもしれない(筆者もそのひとりだ)。片岡義男作品の短編小説のように綴られるストーリーを最後に紹介しよう。
カワサキ ゼファー(1989年)カタログ
表紙
カタログ内ストーリー「シーン1」
カタログ内ストーリー「シーン2」
カタログ内ストーリー「シーン3」
カタログ内ストーリー「シーン4」
車両&メカニズム解説
カワサキ Z400FX 主要諸元(1979年)
■エンジン 空冷4ストローク並列4気筒DOHC2バルブ ボア・ストローク52.0×47.0mm 総排気量399cc 圧縮比9.5 燃料供給装置:キャブレターTK K21P 点火方式バッテリー・コイル 始動方式セル
■性能 最高出力43ps/9500rpm 最大トルク3.5kgm/7500rpm
■変速機 6段リターン 変速比1速2.571 2速1.777 3速1.380 4速1.125 5速0.961 6速0.851 一次減速比3.277 二次減速比2.500
■寸法・重量 全長2100 全幅785 全高1125 軸距1380 シート高─(各mm) キャスター26°00′ トレール98mm タイヤF3.25-19 4PR 59H R3.75-18 4PR 66H 空車重量189kg
■容量 燃料タンク15L エンジンオイル──
■当時価格 38万5000円
カワサキ ゼファー主要諸元(1989年)
■エンジン 空冷4ストローク並列4気筒DOHC2バルブ ボア・ストローク55.0×42.0mm 総排気量399cc 圧縮比9.7 燃料供給装置:キャブレターケーヒンCVK30 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力46ps/11000rpm 最大トルク3.1kgm/10500rpm
■変速機 6段リターン 変速比1速2.571 2速1.777 3速1.380 4速1.125 5速0.961 6速0.851 一次減速比3.277 二次減速比2.562
■寸法・重量 全長2100 全幅755 全高1095 軸距1440 シート高770(各mm) キャスター27°00′ トレール104mm タイヤF110/80-17 57H R140/70-18 66H 乾燥重量177kg
■容量 燃料タンク15L エンジンオイル3.0L
■当時価格 52万9000円
まとめ●モーサイ編集部・阪本 写真・資料●八重洲出版アーカイブ