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初代ダックスホンダの秘技「前輪分離機構」を使って、実際クルマのトランクへ積んでみた!

ダックスホンダ ST50 ST70 1969 ホンダ1300

レジャーバイク人気の主役となった初代ダックスホンダ(1969年〜)

ダックスホンダST70(1969年発売)

国産レジャーバイクの元祖と言えば、ホンダが多摩テックで子供向け遊技用に用意したモンキーバイクZ100、それに続く市販車のモンキーZ50Mという流れになる。だが、レジャーバイクというジャンルをメジャーな存在にした立役者は、1969年に登場したダックスホンダST50/70シリーズと言えよう。

猟犬のダックスフントを連想させる胴長でユーモラスなスタイルを持つダックスの画期的な点は、プレスバックボーンのフレームを外装そのものとして利用した点にある。エンジンはモンキーと同じスーパーカブC65系OHCを搭載する一方、デザインはモンキーと全く違ったアプローチだったわけだ。

またホイール径が5インチないし8インチのモンキー系に対し、ダックスは10インチを採用して車体もやや大柄にして、日常的に使いやすい車格だったこともヒット作となった大きな要因だろう。

ダックスは1969年8月15日に、まずダウンフェンダー/ダウンマフラーの標準型が発売され、遅れて半月後の9月1日にアップフェンダー/アップマフラーのエクスポートが追加された。事前のアナウンスは乏しく、正式な発表は発売の前日という慌ただしさだったようだが、発表時のニュースリリースを読み返すと、「(前略)どんな車をお持ちでも、このクルマならほしくなる便利な車です」とある。

果たして当時のホンダがどれだけこのニューモデルに可能性を見出していたかはわからないが、ダックスは瞬く間に人気モデルに成長していったのだ。

■撮影車両は1969年型のダックスホンダST70。発売当初の月産目標は、国内向け全シリーズに輸出向けのCT70を含めて1万5000台とされた。深いダウンフェンダーは通称「カブトフェンダー」、キャブトン型に似たダウンマフラーは通称「ツチノコマフラー」と呼ばれた。塗色はこのレッドのほか、ブルー、ゴールド、グレーが用意された。

■アップマフラー、アップフェンダーの装備でスタンダード登場の半月後に発売されたST50/70エクスポート(写真は50)。

■1964年登場のC65に端を発する名機「カブ系」横型エンジン。ミッションは初期型ではリターン3速のみ。ダックス70のシリンダーヘッドは大径ポートで、歴代エンジンの中でもハイチューン版と言え、今も横型エンジンファンの間で人気が高いパーツとなっている。

■樹脂製フューエルタンクがフレーム内蔵型のため、ケーヒンのPW型キャブレターは本体に燃料コックが付く設計だった。それぞれセッティングは異なるが、50と70でボディ径は同じだった。

■モンキーから継承したハンドル折りたたみ機構と、フロント分離機構のための「くるくる」ノブ(正式名称ヘッドパイプレバー)が付く。レバーは鉄製のものと、後年のアルミダイキャスト製が存在した。

■80km/hスケールの速度計は50と70で共通のシンプルなもの。後のモデルではウインカーのインジケーターが追加され、50用は制限速度の30km/h以上が赤フリになった仕様もあった。

■鋲打ちのシートは分厚く、表皮に当時流行のタックロールが入っている。50用は当然タンデムベルトがないが、形状は70と同様だったので、難なく二人乗りができてしまった。後年の型では作り分けされ50用は短いシートとなった。

■フレーム左後部のレバー操作で、前ヒンジ式のシートを跳ね上げることができる。ここに燃料タンク、バッテリーなど電装系が収まる。

■合わせ構造のリムと、アルミダイキャストのハブを組み合わせたホイール。フロントフォークはモンキー同様のグリスダンパー式の簡素なもの。カブトフェンダー車のみインナーチューブにステーが付く。

■標準型のツチノコマフラー装着車は、プレスフレーム下部に一体成型されたステーがあり、アップマフラーのエクスポートにはそれがない。初期型からモデル別にフレームを作り分けていたわけだ。

ダックスホンダ初採用の「フロント分離機構」とは?

ダックスホンダに採用された斬新なアイデアのひとつに前輪分離機構がある。バイクを四輪車に積載して運び、目的地で降ろして乗るという遊び方は、1960年代の主要輸出国だったアメリカを意識した発想だろう。しかし当時の日本では5ナンバー以下の小型車が多かったため、積載を可能とするためにフロントまわりを簡単に外せるように……というアイデアとしてこの機構が生まれたのだろう。以下では、実際に試してみたフロントの分離作業の手順を紹介しよう。

■実際に行った分離作業とトランクへの積込み。分離作業はさほど手間取らないものの、大変なのはバイクをトランクへ持ち上げることだった。四輪のボディを傷つけないように注意しバイクを収納するのは、軽いバイクとはいえ一人では重く、かなり困難。最低2名の力が必要だった。撮影はホンダファンのご厚意により、同時代のホンダ1300(四輪車)をお借りして取材をさせていただいた。

当時作成された四輪トランクへの積込み方法の冊子

「2.5分で分離できます」と書かれた作業手順

ホンダ1300とコロナ・マークII(トヨタ)への積込みの様子

当時の主要四輪車の積込み可/不可リスト。積載用カバーも販売

ダットサン・ブルーバード、いすゞ・ベレット、トヨタ・パブリカなどは積載不可となっている

ダックスホンダ「実際の分離作業手順」

1.まずはシートを跳ね上げ、タンクキャップの空気抜きのツマミを「OFF」位置にして密閉。バッテリーも外す。

2.キャブレターに付く燃料コックをOFFにし、ドレンを開けてガソリンを排出。燃料を垂れ流すことになるという、現在では考えられない手法だ。

3.スロットルワイヤーの黒いカバーを前にずらし、樹脂製のケースを開けてタイコを外してワイヤーを分離する。

4.メインハーネスをネック部のカプラーで分離する。カプラーはヘッドライトステーの裏側にクランプされている。

5.ハンドルを折りたたむ際は、トップブリッジの浅い溝に突起を差し込んで仮固定。その後、写真の「くるくる」レバーを緩めていく。

6.これでフロントまわりが分離できる。「くるくる」レバーはトップブリッジの切り欠き付きの溝にハマる構造になっている。

以上のように、前輪分離機構を使った分離作業は意外としやすかったものの、難点は普通車のトランクまで持ち上げて収納することだった。車体の重さもさることながら、四輪もバイク本体も傷つけずに収納するのがかなり面倒だったのだ。そんな事情もあるのだろう、この前輪分離機構はしばらく標準型とエクスポートに残されたものの、後年登場するダックスの新型や派生モデルへは採用されなくなっていった。

レポート●神山雅道/高垣亮輔 写真●岡 拓 まとめ●モーサイ編集部・阪本

*当記事は、八重洲出版『MCクラシックNo.6』(2018年8月号)特集「1970〜80年代を彩った国産レジャーバイク」の一部を再構成したものです。

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