コラム

TBSドラマ『もう一度君に、プロポーズ』に登場した カワサキZ1-R&竹野内 豊は出色の格好よさだった

Z1-R カワサキ

小道具以上の存在感があった『もう一度君に、プロポーズ』のカワサキZ1-R

映画やドラマに登場するバイクから、憧れを募らせることがある。
とはいえ、すでに四半世紀近くライダーのキャリアを積んでいる筆者の場合(要はスレてしまったということだ)、改めてそんな感情が生まれるとは思いもしなかった。

やや大げさな物言いではあるけれど、2012年にTBSで放映されたテレビドラマ『もう一度君に、プロポーズ』で、主演の竹野内 豊が乗る愛車の設定で登場したカワサキZ1-Rを見て、ひさびさに「カッコいいな」という言葉が素直にこぼれた。

通常日本の映画やドラマで登場するバイクというのは、あくまで小道具であり、安易な場合はスポンサー企業の意向などが加味されて、雰囲気云々以前の「忖度」で現行販売車が使われたりする。多くの場合は端役以下の扱いだ。
それゆえ、登場する場面に気を配られることは少ない。4スト車なのに2ストエンジンの音を平気で被せて使ったり、暴走族の集団走行にオフロード車が使われていたりするなど、昭和の映画・ドラマの中には、バイクの登場によって逆に白けてしまうシーンもあった。

ところが『もう一度君に、プロポーズ』のZ1-Rは、ちょっとどころかかなり違っていた。まるで準主役的にあちこちのシーンで登場するのだ。
竹野内 豊演じる主人公の宮本波留は、自動車工場に勤める30代半ばの男。妻の可南子(和久井映見)が、ある日くも膜下出血で倒れたところからドラマが始まる。
幸い一命を取り留め意識を回復したが、過去の記憶が一部消去されていた。いわば、夫の波留と出会い、結婚を経たこれまでの生活の記憶がなくなっていたのだ。そこからこれまでの生活を取り戻そうとする波留が、少しずつ可南子の記憶を埋めようと接していくのだが……。

そんな物語の合間に、Z1-Rは日々波留の足として走り続ける。
別居生活の合間の通勤と日々の買い出し、可南子の実家までの移動で、彼女との記憶を辿る場所への足として、Z1-Rは都内を泳ぐ。ただし、Z1-Rは過激な走りで鬱憤を晴らす手段でもなく、現実逃避のツーリングの道具でもない。あくまで生活の一部に溶け込んでいる相棒であり、必要以上に出しゃばるわけではない。
ただ、そこにある。その立ち位置がいい。都内を走り過ぎる光景と空冷Zのサウンド、家の脇に置かれたZ1-R、自然な空気感が格好いいのだ。

オリジナルZ1-Rの造形を維持するライトカスタムもセンスがよかった

主人公の愛車は竹野内 豊自身が気に入ってZ1Rが選ばれたようで、車両協力をおこなったのは空冷Z系のカスタムなどを手がけるPAMS(パムス)だという。
作品を見た感じでは前後ショックの換装、ダイマグ風のホイールに、リヤはフェンダーレス仕様。エキゾーストは4into1の集合と言った一見ライトカスタムだが、これもオリジナルの雰囲気をキープしていて好印象だった。やはり往年のZはこれくらいのチューンが程よい気がする。

ただし、どんなバイクであろうと、その露出の仕方や立ち位置で良くも悪くも見えてしまうもの。
その点、本ドラマの演出家の方か大道具係の方なのかは分からないが、バイクの「出し方」に好き者が深く関わっていたのではないかと思わせるものがある。
ほかにも、修理工場勤めの波留が、客が持ち込んだ初代カローラー・スプリンターのレストアに挑むシーンも差し込まれたり、工場のトラックにトヨタ・ミニエースが使われていたりなど、4輪旧車好きの心をくすぐる演出も印象的だった。

(なお『もう一度君に、プロポーズ』は動画配信サービスなどで視聴可能)

カワサキZ1-Rとはどんなバイクか?

カワサキZ1-Rのカタログ表紙。

ここでカワサキZ1-Rのプロフィールを少々紹介しておこう。
大ヒットしたカワサキZ1(1973年登場)を源流にする同車は、当時の世界的なカフェレーサーブームに乗り企画されたモデルとして1978年に登場。
国内上限排気量が「ナナハン」だった時代のこと、当然「輸出専用車」である。
日本車初のビキニカウル採用、角型の造形や水平ラインのフォルム、メタリックシルバーのカラーリングなど、新時代の空冷Zを体現した意欲作だった。

1978年登場のカワサキZ1-R(写真は1977年東京モーターショー展示車)。デザインの新境地を開いた角型Zの元祖といえる存在だが、デザイン優先の燃料タンク容量は13Lと少なかった。

……とはいえ、当時の新車開発には試行錯誤も付き物で、高速走行時のウォブル(従来19インチフロント主体だった車体に18インチを採用したのが原因とも言われる)が取り沙汰されたり、すっきりとした角型燃料タンクの容量が13Lと少ないことが不評だったりで、欧米での販売が成功したとは言えないモデルだった。

エンジンは排気量1015ccの空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ。Z1000のエンジンをベースにキャブレターを大径化(Z1000が26mm、Z1-Rが28mm)し、出力をZ1000より7馬力高めている(写真は1977年東京モーターショー展示車)。
エンジンは最高出力90馬力/8000回転、最大トルク8.7kgm/7000回転の性能を発揮。公称ゼロヨンタイムは11.8秒(写真は1977年東京モーターショー展示車)。

実際、国内での数少ない雑誌試乗記(当時、輸出向け車両の試乗機会は希少だった)にも、ハイスピードでの横揺れ挙動が記述されている。
そのため、翌1979年にこれを解消したZ1-R IIが早速登場したものの、同シリーズは短命に終わり、Z1000MkII、次いでZ1000JやZ1000Rなどの後期空冷Zへと繋がり、Z系の歴史的にはやや埋もれたモデルなのだが──。

メーターパネルには燃料計と電圧計も装備。写真は1977年東京モーターショー展示車で、速度計はマイル表記で160mphまで刻まれているほか、回転計のレッドゾーンは8500回転から。
フロントホイール径はZ1000が19インチだったのに対し、Z1-Rは18インチを採用。ブレーキは当時の最先端だったドリルドディスクを装備(写真は1977年東京モーターショー展示車)。

しかし、希少なものほど高値になりがちなのは世の常、バイク業界の常で、今やZ1-RはZ1と同様に「ちょっと乗ってみたいなぁ」と軽く入手できる市場価格ではないのが残念なところ(300万円〜400万円が価格帯が主流のようだ)。
ゆえに、当方の場合もまた憧れは憧れのまま、今に至っている次第だ。

レポート●阪本一史(元・別冊モータサイクリスト編集長) 写真●八重洲出版 編集●上野茂岐

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