「青森県の下北半島には、馬が道路を普通に歩いている場所がある」
と言っても、みなさんきっと「なんのことやら?」と思われるかもしれません。
まぁたしかに、お馬さんが道路をカッポカッポと歩いている現場なんて、何かの催し物でもなければそう見るものではないですし。
編集部の面々も、冒頭の話を聞いたときは「そうは言っても、一般人が入れない道路にいるだけでしょ?」と思っていたわけです。
ところがどっこい。実際にウワサの場所、青森県東通村の尻屋崎を訪れてみると……うおおおっ! ホントに馬が道路を歩いているじゃないかッ!!

日本在来馬の南部馬を祖先に持つ「寒立馬」

本州最北に位置する下北半島の最東端にある尻屋崎。
ヨーロッパを思わせる広大な草原と美しい海岸線が広がっており、晴天時は空や海の青と草原の緑が見事なコントラストをなす、下北半島を代表する景勝地のひとつです。

この尻屋崎一帯で放牧されており、観光道路を闊歩することもある馬が“寒立馬(かんだちめ)”です。
日本在来馬である南部馬を祖先とする田名部馬と外来馬との交配種で、寒さや粗食にも耐えられる強靱さと持久力のある農用馬として、長きに渡り重宝されてきました。
しかし第二次世界大戦後は農業の機械化により需要が減少し、一時は9頭にまで激減。その後自治体や畜産関係者の保護策により頭数が回復し、近年では25頭前後の寒立馬が尻屋崎の放牧地で飼育されているそうです。
雪の中でジッと佇む様子から名付けられた「寒立馬」

寒立馬の「寒立」の語源は、カモシカが風雪の中でジッと立ち続けている様を表した言葉です。
寒立馬はもともと「野放馬」と呼ばれていましたが、尻屋小中学校校長を務めていた岩佐 勉さんが、1970(昭和45)年の年頭書き初め会で、尻屋崎の厳しい冬をジッと耐える野放馬の様子を「東雲に勇みいななく寒立馬 筑紫が原の嵐ものかは」と詠んだことから、徐々に寒立馬の名称が浸透していったそうです。
寒立馬はでかくてかわいい!

そんな激動の歴史を持つ寒立馬ですが、2002(平成14)年には「寒立馬とその生息地」が青森県の天然記念物に指定され、日本では珍しい周年自然放牧されている馬として、宮崎県都井岬の御崎馬(みさきうま)とともに注目を集めています。
寒立馬の見どころは、なんと言っても愛らしい顔立ちと立派な体躯。
地面から背中までの体高は150〜160cmほどで、馬としては中型の部類になるのですが、元々が農用馬ということもあり全体的に「ガッシリ」とした印象があります。
筆者も実際に見たとき、あまりの迫力にビックリしてしまったほど。特に首や胴まわりのガッシリ感は、近距離で見ると圧倒されそうなほどの力強さがあるのです。

しかし、そんな体躯にもかかわらず、性格は温厚そのもの。
それは顔立ちにも表れていて、つぶらな瞳がなんともいえない愛らしさをたたえているのです。
そんなお馬さんが草を食みつつ、道路をゆっくりと移動しているのです。もし道路上で寒立馬に会えたならば、クルマでもバイクでも、まったりとしたサファリパーク気分を味わえることでしょう。
寒立馬ともソーシャルディスタンスを守って!

気を付けたいのは、寒立馬との距離。
基本的に人に馴れている寒立馬ですが、過度に近づいてしまうと重大な事故になる可能性があります。特に後から近づいてビックリさせてしまい、後ろ足蹴りを食らったらケガだけでは済みません。
昨今はコロナ禍でソーシャルディスタンスが叫ばれていますが、尻屋崎を散策中に寒立馬に遭遇した場合も、適度な距離を保って見るようにしましょう。
またクルマで移動中に遭遇した場合でも、窓から手を出したりせずに見守るようにしましょう。

なお看板にもあるように、区域内ではペットを車内から出さないよう心がけるべし。
寒立馬と会えるのは4月〜11月まで
なお尻屋崎で寒立馬に会えるのは、厳冬期をのぞいた4月〜11月まで。それ以外の期間は「アタカ」と呼ばれる尻屋崎南部の越冬地で放牧されているので、冬季に寒立馬に会いたい場合はアタカを訪れるといいでしょう。

馬が放牧飼育されている貴重な場所、尻屋崎。
ドライブやツーリングの目的地にして、絶景のなかに佇む寒立馬にぜひ会いに行ってみて下さい。
尻屋崎解放期間および時間
4月1日〜4月30日 8:00〜15:45
5月1日〜11月30日 7:00〜16:45
※12月1日〜3月31日まで、尻屋崎は閉鎖されるので注意。
問い合わせ:東通村役場
TEL:0175-27-2111