他の都道府県で可能か専門家にインタビュー
「免許を取らせない」、「買わせない」、「運転させない」といった3つのスローガンを掲げ、高校生がバイクに乗ることを制限する社会運動が「三ない運動」。
近年、埼玉県では、その運動を撤廃しましたが、そういった動きは他の都道府県における「三ない撤廃」のモデルケースになり得るのでしょうか?
埼玉県の「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」の稲垣具志会長に、その可能性について聞きました。
PTAの推進活動終了後も続く「三ない運動」
かつては、「高校生にバイクは不要」と書かれたリーフレットを配布していたほどの埼玉県が、「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」を経て、学習指導要項を改定し、三ない運動を撤廃した。
PTAによる全国的な推進活動は終了した三ない運動だが、教育委員会の指導方針や各校の校則には依然として残っており、「各校の判断にまかせている」という自治体の多くでは、事実上、三ない運動が放置されている状況だ。
こうした中、埼玉県教育委員会での取り組みは他県に当てはめることができるのか、検討委員会会長の稲垣具志氏に伺った。
三ない運動に代わる教育ができるのか
他の都道府県へのモデルケースと成り得るかどうかは、教育長から課長クラスまでが、
埼玉県での議論の内容や結果をどれだけ理解していただけるか?
歩行者や自転車も含めた高校生の交通安全教育の実態をどれだけ真剣に考えているか?
によると思います。
多くの方に、「埼玉県の事例は良い」と言って頂くのですが、良いということをいろんな温度差や角度で見ていると思います。
誰も間違ってはいませんが、それをいかに整理して、どういう特徴があり、何が達成できていて、どこに向かおうとしているのかを理解いただいた上で知って頂きたいのです。
(第2回の記事でも紹介した通り)、三ない運動をやめるのか続けるのかという議論ではありませんでしたから。
その結論に至るまでのプロセスでは、1回の検討委員会が2~3時間くらい、延べ20~30時間も話しました。
そういう中で、正しい情報の共有や立場が違う者同士の相互理解もありましたし、当事者(県内の高校生)へのアンケートも取りました。
(それらにより)当事者となる高校生がどういう気持ちでいるのか、バイクという乗り物に対する価値観がどんな実態であるかも知りました。
これら多くのことを経て、「今後どうすべきか? 」ということを、皆さんが襟を開いて議論しました。重要なのは、そういったプロセスを、他県の方にどれだけ知って頂けるかということです。
高校生にとって最も大事なポイントとは?
こういった議論で大切なのは、「高校生が、本当に生涯に渡って事故の当事者とならないために、彼らにとって必要なことは何なのかを考える」ことです。
それが担保されるか否かということを話合わないといけません。そうしたプロセスを踏まえてなお、三ない運動を続けることがベストな選択肢であれば、続けるべきなんです。
つまり、「三ない運動をやめて……」の後が重要なのです。
「じゃあ、乗り出す」となって、本当にこの子たちが事故の当事者とならないための教育が、三ない運動をやらない代わりにできるのかという議論は絶対にしないといけません。
ここが最も重要なポイントになります。それをやらなかったら全く検討していないということと同じです。埼玉県ではそれができました。
検討委員会の回数も重要です。
誰かと話した後に、その内容をある程度の期間寝かせて、2か月後にもう1回会う。これを9回くらい繰り返すと、やっぱり相互理解ができます。それにより、最後に1回増やしたくらいで結論を出すことができました。
※写真はイメージです。本文中の( )内は編集部注
レポート&写真●田中淳麿 編集●平塚直樹