2010年からマルチパーパスへと大幅に方向転換したムルティストラーダは、モデルチェンジのたびに熟成度合いを高めている。さらに各部を進化させた2018年モデルのパフォーマンスを紹介しよう。
(report●鈴木大五郎 photo●DUCATI)
着実な進歩を遂げた新型
英語に直訳するとマルチストリートという、あらゆる道の意を持つイタリア語名「ムルティストラーダ」。その名のとおりの走破性を持っているのは、現行型でも証明されている。
オンロード指向だったそれまでと一転、2010年のモデルチェンジで「スポーツ」、「ツーリング」、「アーバン」、「エンデューロ」と、4つの性格を持つ〝4 Bikes in 1〟というコンセプトを打ち出し、オールラウンド性に広がりを見せた。
その実現には、電子制御技術の向上があったことも見逃せない。ライディングモードによるエンジン特性や、トラクションコントロール、ABSの設定変更などがそれだ。13年のモデルチェンジではセミアクティブのスカイフックサスペンションが装備され、足まわりも含めたマシンの特性が進化した。
そして、15年のモデルチェンジで、可変バルブ機構を持つテスタストレッタDTVエンジンを搭載。極低速域でのコントロールがあまり得意ではなかったドゥカティのエンジンに革命を起こした。それにより、スポーティさが不要なシチュエーションでのフレキシブルさが格段に向上。〝4 Bikes in 1〟コンセプトは完成形に達したと思われた。
そんな中、ミラノショーで発表されたのが後継モデルの1260だ。

DUCATI MULTISTRADA 1260S
まず、エンジンはその名のとおり少し排気量アップされ1262㏄に。これはXディアベルに搭載されるものをベースとしているようで、パワー、トルクともに従来モデルを上回る。驚くのがその内容である。例えば5500回転時のトルクでは実に18%も向上しているというのだ。

エンジンは、4つのライディングモードでのトルクの出方に重点を置いた改良が施されると同時に、ライド・バイ・ワイヤによりスムーズな走りに寄与している
車体周りではスイングアームが48㎜伸ばされたことが大きなトピック。また、フロントもキャスター角を1度寝かせ、より安定方向へと変更。ほかにもTFT液晶の大型化とともに、モードや設定変更などがよりイージーになった。フロントサイドカウルが新デザインになり、リヤのグラブバーも装備。さすがに最も売れているドゥカティのマシンであるだけに抜かりのないアップデートだ。
外観の違いはごく僅か

1260S

1200S
1200との違いを見分けるのは難しい。1260はサイドカウルの形状が、より伸びやかに流れるようなラインを持つことが特徴。また、見た目ではとても分かりにくいが、刷新されたトレリスフレームもトピックである。今回の試乗車にはオプションのラジエターガードも備わっていた(タイトル画像参照)。
連続走行も苦にならない!
試乗会はスペインのカナリア諸島にあるグラン・カナリア島で行われた。試乗車はスカイフックサスペンションを備えるSモデルに、グリップヒーターやパニアケース、センタースタンドなどを装着したエンデューロパックという仕様だ。
走り出した瞬間、ジェントルなフィーリングが増したと感じた。ドゥカティにジェントルとは似合わない表現かもしれないが、ムルティにだけはそれが当てはまる。アクセルに対するエンジンレスポンスやスカイフックサスペンションによる乗り心地。それらのフィーリングに磨きがかかったことに加え、ホイールベースが延長されたことによる車体全体の反応に落ち着きが出て、ツーリングモデルらしい手応えと快適性を高めてきたと言える。

ツーリングマシンとしての高い快適性を持つ走りが特徴。ロングスイングアーム化による効果も高いと思われるが、トラクションコントロール介入時のスムーズさが光る
高速道路での巡航時に得られる快適性の高さも特筆ものだ。角が取れた滑らかな回転フィールは、ドゥカティのマシンに乗っているのを忘れるほどで、ビッグアドベンチャーマシンらしい余裕の走りを味わえる。
ワインディングでの走りは、相変わらずスポーツ性の高さを感じさせる、いわばドゥカティらしいDNAを持っている。3速、あるいは4速でギヤをホールドし、分厚いトルクに物を言わせ、余裕な走りを楽しむのもありだ。
また、クイックシフターの恩恵を受けながら3速から2速、場合によっては1速と、最適なギヤ選択することでよりキビキビと走らせることもできる。こういった瞬間には、やはりスポーツマシンであることを強く感じさせてくれる。ただし、モデルチェンジ前までのシャープさを感じさせたものよりも、もっと穏やかでフレンドリーな印象。ウエットなど滑りやすい路面で、そういった恩恵を顕著にあずかることができるだろう。シャープ過ぎないハンドリングが功を奏し、ライダーが安心感を持ちやすい特性なのだ。
スイングアームが伸びたことにより挙動が安定した効果も大きい。また、アクセル開け始めのパワー特性が秀逸で、分厚いトルクにおびえることのないイージーなコントロール性も確保している。
- メニュー操作がしやすくなったTFTカラー液晶パネルを採用するメーター周り。4つのライディングモードを異なるカラーで表示してくれる
- 前後ともセミアクティブサスペンションを採用。フロントフォークおよびリヤショックはザックス製
- 日本仕様のシートには800/820㎜の高さで可変するタイプを採用。パニアケースはエンデューロパックに装着される(写真は本国仕様)
すでに完成形だと思われていた1200に対して細かい煮詰めがされただけでなく、より快適方向のベクトルに磨きをかけたキャラクターへと進化した1260。異国でのテストは、慣れない環境などにより走行が終わるとかなり疲労してしまう。
特に、ドゥカティのマシンの多くは、ある程度の疲労感を覚えさせるように作られているのではと思うほど、スパルタンな面も持っている。一度走ると、「また来週末な!」というインターバルが望ましいようにも思えるほどだ。
しかし今回は、スタート地点のホテルに戻ってきたとき、疲労の蓄積をほとんど感じなかった。これから3日間でも1週間でも走り続けられそうなマシン、それが新しい1260なのだ。
●RIDING POSITION
ハンドル幅は広めだが、アップライトで取り回し性良好。ヒザ周りのフィット感がよく、コーナリング時のホールド性も高い。シートは欧州のローシートが日本仕様の標準に。2段階の高さ調整可能で写真は最も低い位置
●FAVORITE
スポーティながら安心感が高められた車体のおかげで、疲労感が少ない。全閉状態からのアクセル操作のしやすさとスムーズな反応で、欲しいときにすぐにパワーが得られるのはライド・バイ・ワイヤの恩恵。これみよがしではなく、さりげなくハイパワー。モード切り替えやインフォメーション選択が簡単なのも○。
●REQUEST
スクリーンの上げ下げは手動ではあるがイージー。ただし、電動であればより快適かつ高級感が高まるのではないだろうか。この季節だから言うわけではないが、日本仕様ではぜひともグリップヒーターの標準装備化をお願いしたい。ボタンひとつでローダウンシートに切り替わる機能があったら便利だろう。
■Specifications
※数値は本国仕様
【エンジン・性能】種類:水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:106×71.5㎜ 総排気量:1262㎤ 最高出力:116.2kW<158ps>/9500rpm 最大トルク:129.5Nm<13.2kgm>/7500rpm 燃料タンク容量:20ℓ 変速機:6段リターン 【寸法・重量】全長:2270 全幅:990 高:1490 ホイールベース:1585 シート高:800/820(日本仕様)(各㎜) 車両重量:235㎏ タイヤサイズ: Ⓕ120/70ZR17 Ⓡ190/55ZR17 【カラー】赤、白、灰
価格●262万5000円~266万5000円
発売日●2018年1月1日