新車

匿名係長 第6回 ドゥカティ1199パニガーレの巻(後編)

市販車としての魅力

係長●でもさ、俺がパニガーレで最もすごいというか、恐ろしいと感じるのはさ、走らせてのよしあしにこのバイクの真価はない、ってことなんだ。

主任●ええ、SSなのに!?

係長●そう。そこを存在意義のすべてとして戦ってきた類のバイクなのに、だよ。SSでそんな方針転換をやってのけてきた恐ろしさ。ここに気づかないうちは、パニガーレの真のすごさが見えていない。

主任●真のすごさ! それはヒクソン・グレイシーのすごさは関節技もさることながら、むしろ試合前の交渉術にあった、みたいな話ですか?

係長●意外にも的を射たたとえだな。格闘家もリングで強いだけじゃ生き残れないんだろう。SSだって、速いとか楽しいとかの追求ばっかりでいいのか? それはあくまで魅力の一部と考え、別の魅力を強く訴求したほうが、より多くのユーザーを手っ取り早く獲得できるかも……。これがドゥカティがパニガーレで行なった、最大の方針転換だと俺は思うのさ。

主任●そ、そんな! ドゥカティの旗艦スーパーバイク系が走らせての充実感を最重視はしていないなんて!?

係長●あくまでも現時点では、公道での楽しさやレースへの対応力は1198のほうが高いと俺は考えている。そりゃそうさ、積み重ねたノウハウが違うからな。

主任●ふえ~(涙)、じゃあ、パニガーレは買うなってことですか?

係長●お前、何でパニガーレが欲しいと思ったの?

主任●だってカッコいいし、見ているだけでワクワクするじゃないですか。〝どんな走りをするんだろう〟って。

係長●それだよ。市販車に最も必要なものって何だ? 無条件に欲しくなってしまう、無我夢中にさせる魅力だろう。パニガーレにはそれがタプンタプンに、あふれんがばかりに存在するんだよ。現状では、世界で最もそうした魅力にあふれたバイクと言っても過言ではないはずだ。

主任●そうそう、そうなんス! パニガーレを見ると、他社のSSが何だか古くさく感じちゃうんですよ!

係長●ドゥカティが欲したのはおそらくそれなんだろう。〝思わず欲しくなってしまうワクワク感〟を演出するには、トレリスなんかあまりにも古くさい。アルミツインスパーも当たり前すぎる。もちろん、フィーリング面では熟成され切ったそれらに理があることなんて、ドゥカティだって重々承知さ。

主任●じゃあ、乗り味は二の次と?

係長●そこまで言うと語弊があるけど、スーパーバイク系ってドゥカティのイメージリーダーだろ? その存在感の軽重は、会社全体の魅力を左右すると言っても過言じゃない。会社の命運を背負うバイクに必要なのは、トレリスの豊かなフィードバックより、他社のSSが霞んで見える〝商品としての圧倒的な魅力〟だと考えたんだろうな。しかもだ、トレリスを捨てることは魅力につながるだけでなく、コストダウンまで達成できてしまうわけだ。

主任●そ、そうか! しかもその方法が何かを削るとか装備を省くといった剥ぎ取りではないから、普通はコストダウンしているとは気付きませんよね?

係長●そういうこと。で、その浮いたコストでオーリンズの電制サスとかLEDのヘッドライトを奢り、さらに他社のSSをぶっちぎったるぞと。このロジックを考えたエンジニア、天才と思わない?主任●何というか、パニガーレを神棚に上げて手を合わせたくなってきました。

係長●もちろん代償はある。それが今まで俺が「ドゥカティらしさ」と感じていた、フィードバックの豊かな乗り味なんだろう。そして、パニガーレはひとまずそれを脇に置く決断を下した。今、最優先すべきはSS市場で暴力的なまでの存在感を発揮し、多くの顧客をガッチリと掴むこと。そうしたタニマチを得てから、乗り味はじっくり造り込めばいい。そんな発想で造られている気がするよ。勇気あるというか、そんな決断をSSで下すことが驚異的だよな。どうよ、パニガーレって恐ろしいバイクだろ? ドゥカティにとっては命運を賭けた一大勝負、まさに乾坤一擲だよ。

注目点満載のスーパークワドロ

エンジンとミッションの実質的な別室化、ケース内を負圧化するポンプの採用など、「スーパークワドロ」の注目点は多岐にわたる。セルやバッテリーを小型化するためにカムシャフトに設けられた、独自のデコンプ機構も興味深い。

超ショートストロークやドゥカティ初のカムチェーン駆動といった新機軸の他、左右割り・シリンダー一体型クランクケースにアルミスリーブを挿入する構造。

生き残りを賭けて

主任●でも、今この時期に発売するドゥカティ・スーパーバイクは、何でそこまで変わらないといけないんですか?

係長●その理由が〝世界的なバイクユーザーの高齢化〟にあるというのが俺の考え。ユーザーが高齢化し、縮小傾向にある市場で生き残るためには、今までにない車種に手を出したり、自社の存在感を高めてシェアを上げるしかない。そのひとつの方策がパニガーレだと俺は捉えている。おそらくは、ね。

主任●サバイバルってことですか。

係長●カブみたいな小排気量コミューター、つまり今後、新興国で伸長が望めるジャンルに食い扶持のないメーカーって、今はじり貧だと思うよ。ドゥカティやBMWの新機種攻勢ってここ数年すごいけど、それは背景にかなりの危機感があるからだと思っている。日本の趣味的バイク市場だけを見て「元気な輸入車メーカーを見習え!」なんて声があるけど、それもちょっとなーと思うのはさ、BMWの10万台、ドゥカティの4万台という規模に対し、例えばホンダって年間1500万台造っているわけ。そのうち少なくとも1300万台はコミューター。企業としてどっちを向くかは自明でしょう。

主任●建前や理想では、従業員は養えないんだぞと。

係長●そう考えると、ドゥカティがスクーターを造ったりする事態も起きうるのかもよ。ただ、趣味的なモーターサイクルのマーケットが育ちつつあるアセアンは要注目かな。かの国の人たちがニンジャ250以上のバイクをばんばん買うようになれば、今ゼェゼェ言いつつ必死にニューモデルを開発している欧州メーカーのブランド力が、近年、代わり映えのしないラインアップの日本車を圧倒するかもしれない。

主任●ふえー、なんか壮大な話になっちゃいましたね。

係長●それだけパニガーレはネタの宝庫だってことだよ。2カ月にわたってこれだけ妄想できちゃうんだから。ひょっとしたらまったく的外れかもしれないけど。

主任●今日のプレゼンのようにね。

係長●まぁとにかく、ドゥカティはすごいチャレンジをした。それは走りうんぬんではない部分に真のねらいがあるってこと。そういう意味では、ロッシはドゥカティの挑戦に理解を示してくれなかったとも取れる。今後もドゥカティが生き残るために、このレイアウトで勝ちに行くぞっていう壮大なチャレンジにね。

主任●レースで勝てなくても売れるけど、勝てばこれ以上の箔付けはない、と。

係長●そゆこと。さーて仕事も片付いたし、飲みに行くか。ミホちゃんとこ。

主任●いいっすね~。あ、そうそう、さっき「水曜日のプレゼンも頼むぞ」って課長に言われましたが、どうします?

係長●まだ3日もあるじゃん。期限ギリギリまで飲み歩く壮大なチャレンジ。これに理解を示せないのかね、君は。

主任●そこだけならロッシより上です!

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