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電動アシスト自転車にはモーターアシスト量や速度に制限があるって知っています?
歴史は繰り返す、というが日本において戦後初期の二輪文化を支えた「モペッド」が、令和になって再びその存在感を示しつつある。もともと、モペッドというカテゴリーは「ペダルを備えつつ、原動機だけで走行できる二輪車」を意味していた。
いま流行りつつある「電動モペッド」は、モーター駆動と人力で回すペダルという2つのパワーソースを持つハイブリッド的パワートレインを持つモビリティとも言える。とはいえ、電気モーターと人力によるペダル駆動……と聞くと、電動アシスト自転車を想像するかもしれない。
ただし、日本で売ることのできる電動アシスト自転車はアシスト力、速度域の両面において制限を受けた規格となっている。具体的には、ペダルを回す力の最大2倍までしかアシストすることができず、24km/h以上ではアシストを切らなければならない。もちろん電動(モーター)だけで走ることは認められないから、モーター出力をコントロールするスロットルのような操作系も存在しえない。
最近見かけることの多い電動モペッドの中には、明らかにペダルを漕いでいないのに加速している車両もある。上記のような規格を考えると、モーター出力を制御するスロットルやレバーを持っているのであれば、電動アシスト自転車とはいえない。
それらは特定小型原付も含めた「原動機付自転車」に分類されるべきで、性能的に電動アシスト自転車相当であっても、何らかのナンバープレートをつけて、自賠責保険に加入している必要があるというのが日本のルールである。その意味において、非常にグレーゾーンの車両が目立つのが、昨今の電動モペッド・ブームといえる。
スズキ「e-PO」は電動アシスト自転車用のバッテリーとモーターを活用
そうした世相の中、スズキとパナソニックという日本を代表するものづくり企業がタッグを組んだ。具体的にいえば、スズキの二輪部門と、パナソニックサイクルテック(電動アシストを含むパナソニックグループの自転車製造会社)が電動アシスト自転車のバッテリーや駆動モーターといった主要ユニットを活用した、新しいモビリティの開発を進めるという合意を発表したのが2023年9月。
その年の10月に開催されたジャパンモビリティショー2023では、折りたたみ式の電動モペッド「e-po(イーポ)」を出品、電動アシスト自転車にように見えつつ、原付一種相当のモデルとして開発されたというe-poは保安部品を備えるなど非常に完成度の高いコンセプトモデルとして注目を集めた。
2024年6月には原付一種としてナンバーを取得、浜松市や大阪市で公道走行調査を行っている。現時点では、プロトタイプながら「新しい原付」のひとつとして確実に市販へ向けて開発が進んでいると言っていいだろう。思えば、スズキのモーターサイクルにおける原点は1958年に誕生した「スズモペットSM1」であるから、こうしたカテゴリーのモデルを手掛けるというのは原点回帰と言うべきか、自然な流れなのかもしれない。
ちなみに「e-po」という車名の由来はエポックメーキングなモデルであることの表現だが、じつは「EPO」という車名の原付レジャーバイクがかつて存在していた。呼び名は「エポ」だったが、商標登録的には「イーポ」という読み方も押さえていたそうだ。電動モビリティながらリバイバル的ネーミングというのも歴史を感じさせておもしろい。
モーターのみ、電動アシスト、人力のみと3パターンの走行が可能
このたび、そんなe-poに試乗する機会を得た。クローズドな場所ではあったが、原付一種の法定上限速度30km/hまで試すことのできる直線路の用意されたコースにおいて、e-poはどんな走りを見せてくれたのだろうか。
結論からいえば、まごうことなく原付バイクとして認められる走りを見せてくれた。折りたたみ式の電動アシスト自転車をベースとした車体からは電動アシスト自転車+αレベル?といった走りを想像してしまうかもしれないが、自転車的なのは約23kgと軽量コンパクトで扱いやすいボディだけであり、加速性能は期待以上に原付一種レベルだった。
e-poはちゃんとした原付一種の電動モペッドゆえに、右手のスロットルをひねることでモーターだけで走ることができる。しかも7段変速の最もハイギアなポジションを選んでいても、難なく発進できるほどトルクフルだ。そのままスロットルを開けていけば、軽々と原付一種の法定上限速度に達した。カーボンニュートラルな原付バイクとして不満のないパフォーマンスを有している。
当然ながら電動アシスト自転車的にペダルを漕いで走ることもできる。そのときのモーターアシスト量は人力の3倍に相当するものであり、電動アシスト自転車における速度制限もない。クローズドゆえに思い切ってペダルを漕いでみたところ、メーター読みで40km/hを超えることが確認できた。原付一種の電動モペッドとしてのパフォーマンスは期待以上である。
スズキによればモーターのみの走行時より電動アシスト走行時のほうが、より軽快に走行できるという。
なお、基本的にペダルを漕がずバッテリーの電力だけに頼るフル電動モードで航続距離は約20kmということだが、実際には人力でペダルを漕ぐ場面もあるだろうから、上振れする可能性もあるのではないだろうか。
また、万が一バッテリーの電力が少なくなって駆動できなくなっても、しばらくは灯火類は使えるような仕様になっているという。そのため最悪、ペダルだけで移動することができるというのは、電欠をリカバリーするソリューションとして、コロンブスの卵的なアプローチでおもしろい。
ちゃんと原付一種として使える性能を有している
あらためてe-poの走りを振り返ると、ハンドリングやスタビリティについても大きな不満はない。太めのタイヤを履いていることや、フロントに機械式ディスクブレーキを奢るなど、曲がる・止まるの性能は電動アシスト自転車の域を超えている。もちろん、すべてにおいて完璧というわけではない。特に気になったのはリヤブレーキの効きが甘く、コントロール性も狭いこと。フロント同様にディスクブレーキを採用すると、バイク的にリアブレーキを引き摺るようにして小旋回をするといった乗り方もいっそう楽しめそうだ。
そうはいっても、筆者がクローズドコースで試乗を終えると、スズキのスタッフから「楽しそうに乗っていましたね」と声がかかった。モーター駆動のスムーズさ、大きな電動アシストによる身体拡張感、そして軽量ボディによる思い通りのハンドリングなどなど、単純に二輪のモビリティとしてライディングの楽しさがあるのはe-po最大の魅力である。
排ガス規制対策の手段として排気量をアップする話が進んでいる一方、フル電動モデルも登場するなど原付一種の世界は多様になっているが、そうした選択肢のひとつとして、e-poのような電動モペッドは十分にあり! といえる。
現時点ではプロトタイプであるが、e-poは新しい電動モビリティとしての市販を期待したくなる出来映えだった。しかもスズキとパナソニックというビッグネームによる共作となれば、期待は高まるばかりだ。
スズキ e-PO主要諸元(公道走行テスト車)
【モーター・性能】
種類:直流ブラシレスモーター 定格出力:0.25kW 変速機:外装7段
【バッテリー】
種類:リチウムイオンバッテリー(パナソニックサイクルテック製NKY594B02) 容量:25.2V-16Ah 重量:約2.5kg
【寸法・重量】
全長:1531 全幅:550 全高:990 ホイールベース:1044 シート高:780〜955 最低地上高:173(各mm) 車両重量:23kg タイヤサイズ:フロント18-2.125 リヤ20-2.125
レポート●山本晋也 写真●北村誠一郎 編集●上野茂岐