エンジンとタイヤ以外は、ほぼ木で作られたバイクを個人製作
皆さんは、風変わりなバイクを見たことがありますか?
ジェットエンジンを搭載したバイクやクルマ用の8000ccV8エンジンを載せちゃったバイク、アメリカではエンジンとタイヤ以外は木だけバイクを製作した人がいるなど、世界中では一風変わったバイクがありますが……日本にもエンジンとタイヤ以外ほぼ木で作った「木製バイク」を製作してしまった人がいたんです!
その「木製バイク」を製作した横山恒雄さんは、昔は木造建築の仕事をしていた職人ですが、現在はスピーカーなどを作る仕事をしており、その合間を縫って「木製バイク」を製作したのだそうです。
仕事で培ってきた技術を生かして製作したようですが、公道が走れない「飾り物」かと思いきや、灯火類や急制動が可能なブレーキなどを装備し、道路車両運送法の条件を満たしているため、一般道路でも走ることができます!(スゴすぎ)
そして、「木製バイク」に使われている木材は、高級木材の代表格として様々な建築物にもケヤキを使っているそうです。
木材の中でもトップクラスの硬さを誇っているため、お寺や神社を建築する際にも使われています。
しかしいくら木造建築に携わった職人だからといって、「木製バイク」を作る発想があっても、ケヤキを自在に加工する高度な技術、バイクの知識がなければ作ることは困難かと思うので、製作するのは大変だったのではないでしょうか?
そこで、エンジンとタイヤ以外は、ほぼ木で作られている「木製バイク」を製作した横山恒雄さんに作ろうと思ったきっかけ、乗り心地など、話をうかがいました。
「木製バイク」を製作する上で大変だった部品はフェンダー
──なぜ「木製バイク」を作ろうと思ったのでしょうか?
長年、スピーカーの研究をずっとやっていまして、試行錯誤を繰り返して完成したスピーカーをもっと紹介したいという思いが前々からあったんです。
そこで、自分が得意とする分野(木材を加工する技術とスピーカー)を組み合わせて、2020東京オリンピックでスピーカーが付いている「木製バイク」を作って披露をすれば大勢の人に注目されるかもしれない、という発想から作ったのがきっかけです。
──どれくらいの製作期間をかけて作りましたか?
仕事の合間にやっているので、半年くらいかかりました。
時間に余裕があって、バイクの製作に専念すれば20日から半月ぐらいで作れると思いますね。
──たったの半年! しかし、木材をバイクのパーツとして加工するにも繊細な技術が必要になるかと思いますので、「木製バイク」を製作するのは大変だったのではないでしょうか?
大変でしたね……一番苦労したのはリヤ、フロントフェンダーです。
曲げるのがすごく難しいのですが、一気に曲げることができないので、少しずつ曲げてクセをつけていくんです。
たとえ、キレイに曲がったとしても採寸が合っていないとハマらず、失敗したときはサイズを再度計算してピッタリ合うようにしないといけなかったので、だいぶ苦労しましたね。
あと、作るのが大変だった部品はハンドルバーですかね。
これもケヤキを使っているのですが、加工しすぎるとキレイな曲線が表現できないので、加工するのは難しかったですね。
でも、作るのは大変でしたが、元々工作が好きなのもあってか(バイクのパーツを制作するのは)楽しかったですね!
ケヤキはバイクのフレームに適している素材
──数ある木材の中で、なぜケヤキを使っているのですか?
ケヤキっていうのは一般的には流通しないもので、主に製材所や銘木店などで売っていますが、他の木材よりも割れにくく、反りにくいのが特徴です。
しかし、安い木材だと反りやすく、割れてしまうことが多々あるので、バイクの素材として使うなら耐久性もあって、腐りにくく、木目が美しいケヤキがいいかなと思い、ケヤキを使うようにしています。
だから、乗れば乗るほど味が出てくるバイクのフレームには適しているんですよね。
──釘を使っていないということですが、なぜ釘を使わないのでしょうか?
釘を使うと、みっともないバイクになっちゃうかなと思ったんです。
せっかくケヤキという良い素材を使っているのに(素材が)台無しになります。なので、ケヤキという素材の味を出すためにも、釘を使わないようにしました。
エンジンやホイール、メーターなどはリトルカブのものを流用
──なるほど、エンジンやタイヤはさすがに木で作れないと思うのですが、メインフレームなどはベース車の部品を流用しているのですか?
ベースにしたのはリトルカブですが、リトルカブの部品として残っているのはエンジンとタイヤぐらいですね。ホンダ製のエンジンは丈夫だからね。
あとのほとんどは、木材とボルトだけで作っています。
今度はカブをベースにしたバイクではなく、スクーターをベースにした「木製バイク」を作ってみようかなと考えていますね!
あと、サスペンションの部分は真っすぐ立っていると代わり映えしないので、『イージーライダー』(1970年に公開された映画)っぽい昔の映画に出てくる悪い感じのバイク。ああいうデザインが好きなので、フレームからリヤタイヤまで一直線のラインとなるようにサスペンションを寝かしましたね(笑)。
リトルカブをベースにした「木製バイク」の乗り心地は意外にいい!?
──木で作られたバイクと金属で作られたバイクでは乗り心地が違いますか?
確かに、他のバイクとは違う乗り心地がありますね!
「木だから壊れやすいバイクなのでは?」「木で作ったバイクだから走りづらそう」と思われるかもしれませんが、意外と乗り心地はいいですね。
カーブでも曲がりますし、ちゃんと走ってくれます。
何回も走行テストをやっていますが、壊れることもありませんでした。
最初は癖があるけど、昔のバイクみたいに乗っていくうちに味が出てきて、いつの間にか乗りやすくなるバイクなんです。
「木製バイク」を1台持っていれば、永久に乗り続けられて、乗り換えようという気持ちになりません。
見て楽しく乗って楽しい、そんなバイクだと思いますね!
──様々な部品を見ていると、他のバイクとは違う「木製バイク」ならではのこだわりを感じます。
こだわりというか意地ですね。「木製バイク」を完成させるという意地。意地がなかったら、ここまで緻密なバイクは作れないと思います。
──ここまでクオリティの高いバイクですから、多くの人に「木製バイク」の良さを伝えたい思いがあるのではないでしょうか?
一生懸命作ったバイクですので、もっと多くの人に見てほしいですし、一人で楽しんでいるのではなく、これからはイベントなどで展示してみんなも「木製バイク」に乗る楽しさを味わってほしいですね。
レポート●モーサイ編集部・小泉 写真●横山恒雄さん/モーサイ編集部・小泉