コラム

「趣味を仕事にした人」は実際しあわせになれている? 好きなものに囲まれて働く趣味系ライターが「一番つらい」こと

好きなこと・ものを体験した後は当然避けられない「締め切り」

好きなこと=趣味をいかしたライター稼業というのは、皆さまが考えるほど楽な仕事でもなければ、ウハウハ儲かる仕事でもありません。

一方で、これほど気楽な稼業もないでしょう。例えば、スイーツ好きが高じてツイッターからメディアのライターになった友人(男性)は、今や毎日好きなだけナポレオンパイだの、マリトッツォを食べ続けてホクホク顔。
ただし、「原稿書かなくてすめば、最高だけどな」とウインクされて、「あと、これも困る」とブクブクした太鼓腹をドンと見せつけられました。

だいたい、ライター、文筆稼業というのは、趣味だろうと取材だろうと、最終的には文章化して納品する仕事。よって、原稿を書く作業が切っても切り離せないのです。これが正直なところ一番つらい、かったるい、面倒くさいところにほかなりません。趣味系ライターは「その趣味」をこよなく愛していても、必ずしも「文章を書くこと」までセットで好きというわけではないのです。

しかも、ウェブの原稿ならまだしも、雑誌など印刷工程がある場合は「締め切り」というなによりも厳しく、恐ろしい存在があるのです。締め切りを過ぎると、よく「原稿を落とす」などと表現しますが、落としてばかりいるライターは編集部で悪評が立つばかりか、印刷所でも陰では「また、あの先生か」と肩をすくめられているはず。それでも、編集部から切られないライターというのはいるもので、たいていは「憎めないキャラ」あるいは「おもろいこと書ける」といった理由でしょう。

どちらの要素も持ち得ていない筆者の場合は、「なにがなんでも締め切りを守る」しか生き残る術がない、というのが実情です(笑)

「好きなこと」だからといってそのジャンルのすべてを把握しているとは限らない

また、オーダーされた原稿が好きなこと=趣味の範囲からはみ出るのもややこしいかもしれません。スイーツの例えでいえば、味や雰囲気、値段などを書くのは慣れていても、正確な製法や、パティシエのインタビューなどスイーツに関わることだけど「いつもとは違う内容」を書こうとするのもまあまあ難しいものです。

バイクライターである筆者に置き換えて考えてみると、バイクのインプレッションや、カスタムの話題はどうにか書けても、バイクメーカー首脳陣への「中長期経営計画」「SDGsへの取り組み」なんてテーマを尋ねるなんてのはややこしくて遠慮したいということ。

とはいえ、ややこしいオーダーというのは年に必ず何回かはあるもの。こなせなければ、編集者からの信用を失うことにもなりかねません。もっとも、オーダーしてくる編集者にしても、ライターより知識があることは稀ですから、器用なライターなら小手先でちょいちょいとごまかすことも可能でしょう。

筆者の場合はさほど器用ではないので、取材の前日に一夜漬けでも勉強することにしています。が、得てしてにわか知識は取材対象に見破られてしまうので、「勉強不足ですみません!」と必死に愛想笑いを浮かべることにしています。

「これだからやめられない!!」もちろんメリットもある

だいたい、趣味を仕事にする場合のデメリットというか、ややこしさは分かっていただけたと思うので、ここからは「ウハウハ」なメリットをご紹介しましょう。

どんな仕事、稼業にもメリットはありますが、バイクやクルマのライターというのは大雑把に言えば「好きなバイクやクルマに思う存分乗れる」ということになるでしょう。ここでポイントは「思う存分」というところでして、普通に乗るならレンタルで十分なんですが、やっぱりバイクやクルマはアクセルをぶん回してナンボ!みたいなところもあります。レンタルでは「壊したらどうしよう」「事故を起こしたくない」みたいな不安がつきまといがち。

一方でメーカーの試乗会は、モデルにもよりますがサーキットや特設コースが用意されることが少なくありません。これなら心ゆくまでマシンの性能を試せるどころか、万が一コケたりしても温情措置があることも少なくありません。よほどのことがなければ、テスターに賠償請求がくるなんてことは稀な話です。

市場に出回る前のまっさらな新車で、思う存分にサーキットを走り回ることができる……まったく夢のような話ではないでしょうか。

それから、仮にサーキットの試乗会に呼ばれなかったりしても(なにしろ、業界には腕自慢のプロライダー、しかも原稿が上手い方が大勢いますからね)メーカーには広報車という試乗や撮影に使うマシンが用意されていることも多いのです。バイク雑誌のツーリング企画なんかで、話題の新車で出かけたりしているのはたいてい広報車両を使っているわけです。

これもサーキットに比べたら地味かもしれませんが、企画次第では自分がよく走っているワインディングなど、お気に入りコースに出かけられるわけですから、楽しいことこの上ありません。

バイク以外の趣味系ライターにとっても、新製品を市場に出回る前に試せたり、製品版とは異なるプロトタイプに接する機会があったりと、似たような話はあるのではないでしょうか。

ほしいと思っていたアイテムを仕事で試せる「運が良ければ割引なんてことも……」

同じように、ヘルメットやウェアのテスト企画なんかでも、自分が欲しいと思っている製品を仕事として試用できることもあります。これは嬉しくなりますよね。当然、そうしたパーツベンダーと懇意になれば、ファミリーセールに呼んでもらえたり、中には社員と同じようにいわゆる「社割り」で安く製品を購入させてくれる太っ腹なメーカーもあったり……。

こうしたマシンやパーツ、アパレルの実物に触れることはもちろん、一般ユーザーに先駆けた情報が得られるのも役得と言えば役得。モデルチェンジのタイミングや、新色が出るなんて情報は業界にいればこそ得られるものにほかなりません。

これと似たような話ですが、メーカーの技術者などとお話ししているうちに自然と趣味の世界を深めていける、ということもあるでしょう。筆者の場合、6軸IMUなんかは、メーカーのエンジニアさんからマンツーマンで噛んで含めるように構造や理屈を教えてもらい、ようやく理解できたなんてこともありました。

あるいは、D社の電子制御ロジックについてS社のエンジニアから批評コメントを内緒でもらう、なんてこともこの仕事に就いていなければなかなか機会のないことでしょう。雑誌やその他メディアに書けないようなことを聞いたり、目にすることができるのも業界に身を置けばこそ、といったところでしょう。

だけどやっぱり締切と打ち切りはコワい……(泣)

ウハウハなメリットはこれくらいですが、ご注意いただきたいのは、ウハウハの後には原稿を書く、記事をまとめるという仕事が必ずついてまわるということ。これさえなければ、朝から晩まで好きなバイクをブッ飛ばし「おもしれー!」などとほざいていられるのですがね。原稿や締め切りといったプレッシャーだけでなく、フリーランスの場合はいつ仕事がなくなるやもしれぬ、といった不安とも日夜向き合っていかねばならないでしょう。

誰でも、「フリーライター」を名乗ればできる商売ではありますが、そのメリットとデメリットの釣り合いはそれぞれ受け止め方が違うはず。少なくとも筆者の場合は歯を食いしばって原稿を書き、ウハウハタイムを存分に楽しむことでどうにかバランスしている、といった感じです。

レポート●石橋 寛 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実

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