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【元警察官】に聞く「あおり運転」されたら一般人(私人)でも現行犯逮捕できる? 誤認だったらどうなる?

「あおり運転」をされた!……逃がさないよう、自分で捕まえることはできるのか?

令和2年6月、法改正によって道路交通法に「妨害運転」に対する罰則が創設されました。危険なあおり運転を摘発するために法律が整備されて、「あおり運転は犯罪だ!」ということが明記されたかたちになったわけです。

ところで、これまでにあおり運転を受けた、あるいは見かけた経験があると、「自分で捕まえてやろう!」と考えたことがある方もいるでしょう。

たしかに、法律上は犯罪を見かけた人は警察官ではない一般の私人でも「現行犯逮捕」が可能です。あおり運転=犯罪という構図が成り立つなら、あおり運転についても私人による現行犯逮捕は可能なのでしょうか?

まずは「私人逮捕」の考え方について……現行犯逮捕なら、だれでもできる!?

「逮捕」といえば、警察官などの捜査機関に所属する人だけが執行できる特別な権限です。

ただし、刑事手続きのルールが定められている「刑事訴訟法」の第213条には「現行犯人は、誰でも逮捕状なしで逮捕できる」という規定があります。これが「現行犯逮捕は一般の私人でも可能」という根拠です。

現行犯逮捕とは、今まさに罪を犯している最中や、または罪を犯し終わったばかりの者を、裁判所の許可なしで逮捕する手続きを指します。今まさに犯罪がおこなわれているところを目撃したのであれば、裁判所の審査を受けずとも犯罪があったことは間違いないでしょう。

そして、警察への通報や臨場を待っていると犯人を取り逃がしてしまうかもしれないので、警察官ではなくても逮捕が可能というのが、私人逮捕の考え方です。

身柄を確保すれば「逮捕」といえる……服をつかんだだけでも逮捕!

私人にも逮捕が可能といっても「手錠なんて持っていないけど?」と思うかもしれません。たしかに、警察が逮捕する際は手錠をかけるのがセオリーですが、手錠をはじめとした戒具(かいぐ)の使用=逮捕と考えるのは誤解です。

戒具は、相手の逃亡や証拠隠滅、自傷行為などを防ぐために使用するものであり、警察でも留置施設の外に出るときに着けるだけで、常に手錠をかけているわけではありません。

そもそも「逮捕」とは、人の身体に対して直接的な強制力を加えることで、場所的な移動などの自由を奪う行為です。通常、このような行為は刑法第220条の「逮捕罪」に問われますが、裁判官の許可がある場合や、現行犯人の逮捕に限っては適法となります。

そして、手錠をかける、縄で縛るなどのほかにも、衣服の袖口をつかむ、周囲を取り囲むなど、実質的に相手の身柄を確保した時点で「逮捕」です。

たとえば、電車内での痴漢行為で、被害者が犯人の腕をつかんで「この人、痴漢です!」と叫んだケースでは、「腕をつかんで身柄を確保した」という行為が逮捕にあたります。

私人逮捕をしたあとはどうする?……犯人の身柄を引き渡すのはただちに!

現行犯逮捕をした私人は、ただちに犯人の身柄を検察官または司法警察職員に引き渡す義務があります。これは刑事訴訟法第214条に定められている厳格なルールです。

ここでいう「ただちに」とは、少しの時間も置かないという意味なので、逮捕後は何よりも先に警察に通報して現場臨場を要請する必要があります。

「ちょっと説教してから警察に突き出してやろう」「先に慰謝料の話だけしておこう」といった事情は一切考慮されないので、逮捕後は一刻も早く警察に犯人の身柄を引き渡さなければなりません。

もし誤認逮捕だったらどうなる? 責任を問われるのか?……仮に誤認だったとしても、罰は受けない!

法律の定めに従えば、妨害運転という罪を犯している相手を私人が現行犯逮捕することは可能です。危険なあおり運転をしてきた悪質なドライバーは、ぜひ自分の手で逮捕して懲らしめてやりたいと思う気持ちは理解できます。

しかし、法律上は許されているといっても、いざ自分の手で現行犯逮捕するとなれば「誤認逮捕だったらどうなるのか?」「責任を問われるのではないか?」という不安を感じることにもなるでしょう。

私人逮捕が許されるのは現行犯逮捕だけです。現行犯逮捕は犯罪の事実が明白なときだけに許される逮捕なので、基本的に誤認は生じにくいものだと考えられています。

さらに、逮捕の際には「有罪か、無罪か」のジャッジまでは求められていないので、客観的にみて「この人があおり運転の犯人だ」という状況さえあれば、逮捕自体は適法です。後の裁判で無罪判決が言い渡されたとしても誤認逮捕にはあたりません。

また、妨害運転罪にあたる行為の解釈を誤っており、本来は罪にならない行為に対して現行犯逮捕してしまった場合も、単に誤認逮捕として相手が釈放されるだけです。逮捕罪には過失を処罰する規定がないので、誤って逮捕しても罰は受けません。

このように考えると、誤認逮捕だった場合を心配する必要はあまりないでしょう。

どうしても現行犯逮捕しなければならない、あるいは成り行きで現行犯逮捕してしまった場合は、ただちに110番通報して警察を呼べば済む話です。もし誤認逮捕だったとしても、刑事的な責任を追及されることはありません。

とはいえリスクを避けて、警察にまかせるのが無難……ドラレコの映像で後日の逮捕もできる!

ただし、私人逮捕に一切のリスクがないわけではないので注意が必要です。

抵抗しているわけではないのに手錠の代わりとして相手の手をロープで縛った、過剰な暴行を加えたといった状況があると、暴行罪・傷害罪といった別の罪が成立してしまうかもしれません。

また、重大な誤認があった場合は、相手から精神的苦痛に対する慰謝料や、トラブルによって仕事を休むはめになった場合の補償などの支払いを求められてしまうおそれもあります。

やむを得ない状況がない限り、私人逮捕は避けたほうが安全です。

あおり運転を受けた際は、まずは進路を譲ってやり過ごすなど自分の安全を確保したうえで、ただちに110番通報をして犯人のクルマのナンバーや車種・色などの情報を伝えましょう。

証拠としてドラレコの映像を提出すれば後日の逮捕も可能なので、危険なあおり運転の犯人を懲らしめる役は警察にまかせることをおすすめします。

レポート●鷹橋公宣

鷹橋公宣 たかはし きみのり
鷹橋公宣

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。

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