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「緊急自動車」の運用は、法に基づく形でなされている?
わざとじゃないのにうっかりミスで違反キップを切られてしまうと、文句のひとつも言い返したくなるものです。
「じゃあ私のキップ処理をしている間のパトカーは、駐車違反にならないの?」
「スピード超過って、オレのクルマを追いかけてきたパトカーも違反してるんじゃない?」
果たして、「パトカーや白バイなどによる交通違反?」は問題にならないのでしょうか?
公務中なら「路駐禁止は除外」される!
路上における駐車・停車は、道路交通法によって規制されています。
駐停車に関するルールは非常に細かく、とくに標識・標示によって規制されるのではない「法定禁止」は、運転免許を取得していてもしっかり記憶していない人が少なくありません。
たとえば、交差点内や坂の頂上付近は駐停車禁止、車庫の出入口から3m以内や消防用の防火水槽の吸水口・吸管投入孔から5m以内は駐車禁止など、道路には自由に駐車・停車できる場所なんてほとんどないのが現実です。
ほんの短時間の用事だからといった理由でうっかり駐車・停車違反を犯してしまうケースもありますが、そんなときに限って警察の取り締まりを受けてしまうのだから不思議ですよね。
駐車違反の取り締まりをしている最中、パトカーもやはり付近に駐車しているのだから「パトカーも違反じゃん」と文句をつけたくなりますが、実はこれ、違反にはなりません。パトカーは「緊急自動車」にあたる公共性がきわめて高いクルマで、交通取り締まりや犯罪捜査などの目的で使用されている限りは「公務」にあたるので、規制から除外されるのです。
この特例は、道路交通法ではなく各都道府県の「道路交通規則」によって定められています。
ただし、単にパトカーだからという理由だけで特別扱いされるわけではありません。あくまでも公務中のみ、しかも公務に対して「そこに駐車すること」の必要性が問われます。
パトカーの話ではありませんが、2022年の夏は緊急出動の増加から、救急車の乗務員が水分補給や用便を足す時間もないという状況に陥り、「買い物やトイレのために救急車がコンビニを利用してもいいのか?」という問題が話題になりました。
コンビニ駐車場の管理権はコンビニにあるので、コンビニ側が「駐車して買い物やトイレに使ってくれてもOK」としていれば問題はありません。しかし、法律によって禁止されている場所での駐車・停車であれば、公務の途中とはいえ買い物やトイレのためでは「公務における必要性」には欠けるので、駐車違反に該当すると考えられます。
サイレンの吹鳴・赤色灯の点灯がなければ「緊急走行」にあたらない
パトカーは、道路において常にアドバンテージを受けているわけではありません。
ほかのクルマがパトカーに対して進路を譲ったり、進行を妨げないようにしなければならなかったりするのは「緊急走行(緊急自動車)」である時だけです。
ここでいう「緊急走行」とは、パトカーなどが道路を走っていればすべて該当するのではなく、緊急の用務のための走行で、かつ次の2点を満たしていなければなりません。
●サイレンを鳴らしている
●赤色の警光灯をつけている
これは「道路交通法施行令」の第14条に明記されているルールです。
サイレンの吹鳴と赤色灯の点灯という2つの条件を満たしている緊急自動車は、通行禁止・通行区分・進路変更・追い越しなど、さまざまな規制から除外されます。
一方で、交通事故や事件の現場に急行していたとしても、サイレン吹鳴・赤色灯点灯の条件を満たしていないと、たとえパトカーでも緊急走行にはあたりません。
2022年9月には、兵庫県加古川市内の路上でパトカーが直進するクルマに衝突してはじき飛ばし、そのはずみでさらに別のクルマも接触に巻き込まれて、3人がケガをするという事故が起きました。
事故の様子は後方を走っていたクルマのドラレコに記録されていて、映像がテレビ・ネットで広く拡散されました。パトカーは赤色灯を点灯していたもののサイレンを吹鳴していなかったので、緊急走行とはいえなかったのは明らかです。
警察側は相手に謝罪しており、赤色灯を点灯していたとはいえ「パトカー側が悪い」という結果に落ち着いたとみられています。たとえパトカーでも、緊急走行時でなければ事故を起こしたときに一切のアドバンテージはないというわかりやすい事例だといえるでしょう。
「赤色灯無灯火の追尾で速度取り締まり」には問題あり?
しばしば問題になるのが、スピード違反の取り締まりにおける緊急走行の方法です。
パトカーによるスピード違反の取り締まりは「追従」によって速度を測定する方式が取られています。すると、パトカーは後ろから違反車と同じスピードで走行して測定し、違反を確認したらそれを上回るスピードで追跡して停止させるので、理屈のうえではパトカーもスピード違反です。
この点は、道路交通法第41条2項に「スピード違反の取り締まり中で『緊急走行』している場合は適用しない」という規定があるので、スピード違反になりません。
ここで注目すべきは「緊急走行」です。緊急走行というからには、サイレンの吹鳴と赤色灯の点灯という2つの条件を満たしている必要があります。違反車のスピードを測定し、追尾するときは、サイレン吹鳴・赤色灯点灯がないとパトカーでも違反です。
ただし、道路交通法施行令第14条には「スピード違反の取り締まりにおいて特に必要があるときはサイレン吹鳴を要しない」という特例があります。すると、サイレン吹鳴はナシでOKということですが、条文をみると赤色灯については免除する規定がありません。
このルールをまとめると「赤色灯を点灯していない場合は、パトカーでも違反者と同じくスピード違反になる」と考えられます。
ただし、パトカーのスピード違反を指摘したところで、自分のスピード違反が帳消しになるわけではありません。違法に収集した証拠は証拠にならないとする「毒樹の果実」という考え方がありますが、この問題はすでに最高裁判所が「測定結果を否定するような違法ではない」という結論を下しています。
裁判を起こしてパトカー側の違法を証明しても、運転していた警察官が切符処理されるだけです。自分の利益は一切なく訴訟費用のムダになるだけなので、争うのはやめておいたほうが利口でしょう。
パトカーなら「なんでもOK」じゃない!
事故処理や事件捜査のためとはいえ、路上に停まっているパトカーに対して「ジャマだ」と感じる機会は少なくないはずです。また、スピード違反の取り締まり中や、事件・事故の現場に急行しているパトカーを見て「アレはスピードの出し過ぎだろ?」と感じることもあるでしょう。
パトカーは法律によって路駐や最高速度の規定から除外されることがありますが、どんな状況でも「パトカーだから」というだけの理由で特別扱いされているわけではありません。緊急走行でなければ事故を起こしてもパトカー側にアドバンテージはないし、取り締まりの運用を間違っていればパトカーでも違反です。実際にパトカーによる違反・事故の事例がたびたびニュースで報じられています。
パトカーだから「なんでもOK」というわけではないということは、日々の業務に従事する警察官にもしっかりと教育してもらわないといけないでしょう。
レポート●鷹橋公宣 写真●編集部

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。