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どんな大国も「異国の文化」に憧れるもの!?
ハーゲンダッツは言わずと知れた「ちょっと高級な」アイスクリーム。ブランド名もなにやら由緒ありそうなヨーロッパ風スペル(Häagen-Dazs)なんですが、実はれっきとしたアメリカ生まれのアイスクリーム。つまりアメリカ人にとっては国産品なんですが、外国好きな国民性を利用した巧妙なマーケティング手法として「外国風」を気取ったものなのです。
外国好きなら日本人だって負けてない! そう思われるかもしれませんが、実はこれ世界各国が似たようなもの。フランス人はアメリカ大好きだし(ジープ チェロキーが北米の次に売れている国ですから)ご承知の通り中国人は日本が大好き! そして、1960年代のイギリスの若者はイタリアに憧れをもっていて、これこそモッズ台頭の原動力にほかならなかったのです。
1960年代、イギリスの若者の反発心が体現されたのが「モッズ文化」
「モッズ」とは、1960年代のイギリスで生まれた若者文化のひとつで、音楽やファッションに影響を与えただけでなく、カスタムしたスクーターをバリバリ乗り回すといったライフスタイルにまで「モッズ・スタイル」が及んでいました。今でも軍用コート(M-51)をベースにアレンジしたアウターがモッズ・コートとか、モッズ・パーカと呼ばれているのもその名残。彼らがスクーターに乗る際、好んでM-51(らしきコート)を羽織っていたのがそう呼ばれる所以です。
そもそも、1950年代から1960年代にかけてのイギリスは、アメリカと同じく戦勝後のまったり感というか、沈滞ムードに包まれ「感情のやり場のない若者」が激増。むやみやたらと社会や大人に反発するのが流行し、そうした若者たちが群れをなしていったのも当然の成り行きだったのでしょう。
で、反発の証しとして最初に選んだのがファッション。当時、イギリスのスタンダードなファッションといえばトラディショナル一辺倒で、血気盛んな若者にとっては野暮ったく感じるものでした。一方、イタリアに目を向けると、明るく、ニュアンスがあって、スマート!ツイードなんて重ぼったい生地でなく、サラリとしたモヘア(ヤギの毛、羊毛のウールよりも繊細)だったり、構築的なイギリスのスーツに対し、体の動きにフィットした細身なシルエットなど「カッコいい」と憧れるには十分なスペックだったのです。
そして、次の反発アピールがスクーター。これまたイタリアの影響とも、「モッズ」と対抗することになる「ロッカーズ」なるグループとの差別化など、さまざまな理由が取りざたされています。なるほど、と思わずうなずいてしまう説が「スーツで乗っても様になるから」というもの。前述のイタリアン風スーツでは、足を開いてまたがるバイクより、スクーターの方がオシャレにキマると考えたのでしょう。
モッズカスタムの特徴はたくさんついたミラーとライト
もちろん、スクーターだってイノチェンティやピアッジオといった当時イタリアでブイブイいわせてたブランドが大人気。ランブレッタ、べスパといった現代でもレジェンドモデルとして知られる車両が主流で、ここにたくさんのバックミラーやライトを装着するカスタムが大流行り。
ただ、このカスタムの源流についてたしかな根拠は明らかになっていないようです。1953年に公開された映画「ローマの休日」でグレゴリー・ペックとオードリー・ヘップバーンがべスパにふたり乗りするチャーミングなシーンがありますが、あちらはノーマルなので、スクーターはともかく、カスタムに影響があったとは考えられません。
噂レベルで聞いた説としては「たくさんあるミラーは後方確認に加え、自らのスタイルチェック用」「夜でもモッズらしさをアピールせんがためライトを増やした」みたいな感じ。もっとも、若気の至りでやってることですから、確固たる理由なんてなさそうですけどね。
映画『さらば青春の光』はモッズ文化にどっぷり浸れる名作
それはともかく、モッズカスタムのスクーターは、映画『さらば青春の光』にいやというほど登場しているのでご覧になった方も大勢いらっしゃることでしょう。この作品、ざっくり言うと主人公のジミーがモッズに憧れ、ついにモッズの仲間入りをするものの、楽しいのは束の間で、ロッカーズとの対立や体制からの圧力に負け、ついにはモッズそのものにも失望を覚えて「さらば!」てなエンディングを迎える作品。とはいえ、青春映画としては異例の大ヒットを飛ばし、先ごろデジタルリマスター版が映画館のスクリーンに復活するなど、イギリスの音楽やカルチャー好きが世界中にわんさかいることまで証明された次第。
たしかに今見ても、スティング演じるところのモッズ伝説のヒーロー「エース」はめっちゃクールでカッコよく(その分、リアルな暮らしぶりを見せられたジミーの幻滅は半端なかったはず)いまだにモッズ・ファッションがひとつの流れになっていること、大いに納得することでしょう。
もちろん、敵対するロッカーズが駆るカフェレーサー(おそらくトライアンフ)もまたバイク好きの琴線に触れまくり。ちなみに、アメリカでは「乱暴者(あばれもの)」という映画があって、マーロン・ブランドが私物のトライアンフ 6Tに乗って大活躍しています。ライダースジャケット、ジーンズ、そしてエンジニアブーツといった三種の神器を登場させていますが、『さらば青春の光』は製作時期も新しいためか、より洗練されたイメージに仕上がっています。
そのため、筆者としては「モッズよりロッカーズのほうがカッコええやん」と感じてしまいました。まぁ、双方ともにノーヘルというのがスタイル上の大きなファクターになってることは確かでしょう。
いずれにしろ、1960年代に始まったモッズ・カルチャーが現代でもトレンドを構成するファクターとなっていること、決して映画の影響だけではないでしょう。改めて深掘りしてみるのも、ご自身のバイクスタイルづくりに役立つかもしれませんね!
レポート●石橋 寛 写真●©2006 Universal Studios. All Rights Reserved./エースカフェジャパン/石橋 寛