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トム・クルーズが乗った2台のニンジャ「GPZ900R & H2」
1986年公開の大ヒット映画『トップガン』から36年、続編『トップガン・マーヴェリック』が上映され話題を集めている。バイクファンも熱い視線を送る作品だが、理由は前作で主人公マーヴェリック(トム・クルーズ演じるアメリカ海軍のパイロット)が基地でかっ飛ばしたGPZ900R(ニンジャ)が新作でも登場するニクい演出があるからだ。
ちなみに、1984年デビューのカワサキ製フラッグシップモデルの同車は、北米向けにNINJAの名称が付けられた初のモデル。以降もその流れは継承され、今に至る。
そして『トップガン・マーヴェリック』にも再び「カワサキ ニンジャ」が登場する。
ガレージに収められているかつての愛車・GPZ900R。それだけでなく、滑走路を最新スーパーバイク・ニンジャH2カーボンで疾走していくのだ(*)。USカワサキはこの作品のためにレストアを施したGPZ900Rを2台と、ニンジャH2カーボンを4台提供し、1986年当時と2022年時点でのカワサキの最強モデルが映画に花を添えた訳だが、さてその36年の間にバイクはどれほど進化したのだろう。
では、カワサキの新旧ニンジャの性能差はどれくらいあるのか、スペックを見比べてみよう。
*編集部註:映画公式の紹介では、マーヴェリックが乗るのはクローズドコース専用で灯火類やバックミラーなど保安部品も付いていない「H2R」となっている。一方、劇中に登場する車両は保安部品が付いているほか、ウイング形状などから公道走行可能なH2カーボンに見えるのだが……。H2カーボンをベースにマフラーなど一部にH2Rのパーツが使ったキメラ的存在なのかもしれない。
■カワサキ GPZ900R。写真は『トップガン』に登場した1985年型=A2のアメリカ仕様(エボニー×ファイヤークラッカーレッド)。映画が人気に拍車をかけ、ZX、ZZRなど後継のフラッグシップモデルが登場した後も、2003年型=A16までと長く販売された。
■2015年より海外向けに発売されたニンジャH2(クローズドコース用モデルH2Rも同時発売)。その後、アッパーカウル部をカーボン製としたH2カーボンを2017年に追加。また2019年型ではニンジャH2、同カーボンともにエンジン出力、ブレーキ性能向上が図られ、H2カーボンの国内販売を開始。価格は356万4000円と超弩級だった。『トップガン・マーヴェリック』に登場するモデルも2019年以降のカーボンだが、国内や欧州向けは新排出ガス規制への対応が施されず2021年型を最後に販売終了(2021年型は363万円)。一方、北米向けは2022年も継続販売されている模様だ。
■クローズドコース専用のニンジャH2R。H2カーボン同様、2021年型を以て国内販売は終了され、価格は605万円。保安部品・灯火類以外に外観上で大きく異なるのは、カウルに装着されているウイングが大型となる点やエキゾーストシステムなど。
GPZ900R vs ニンジャH2カーボン
エンジン性能「908cc 115馬力から、過給器付き998cc 242馬力に!」
GPZ900R=水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク72.5×55mm 排気量908cc
ニンジャH2カーボン=水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ+遠心式スーパーチャージャー ボア・ストローク76×55mm 998cc
ストロークが同じ55mmとは意外な発見だったが、ボアはH2カーボンが3.5mm大きく、排気量は90cc増し。またニンジャH2は量産二輪車初のスーパーチャージャー搭載でも話題を集めたが、同車誕生の2015年当時、カワサキの航空宇宙カンパニーとガスタービン・機械カンパニー、技術開発本部の技術協力で開発されたパワーユニットは、既存エンジンへの後付けスーパーチャージャーではなく、エンジンと一体の「スーパーチャージドエンジン」を標榜して大きく宣伝された。
GPZ900R=最高出力115ps/9500rpm 最大トルク8.7kgm/8500rpm
ニンジャH2カーボン=最高出力231ps(ラムエア加圧時242ps)/1万1500rpm 最大トルク14.4kgm/1万1000rpm
■GPZ900Rのエンジン。新開発されたDOHC4バルブの水冷並列4気筒は、幅のコンパクト化と吸気のストレートポート化などを狙って左サイドカムチェーン方式を採用。
■ニンジャH2シリーズ専用の並列4気筒は、当初から機械駆動の遠心式過給器(スーパーチャージャー)と組み合わせる前提で開発されたのに由来し「スーパーチャージドエンジン」と命名されている。クランク回転を利用して駆動するタービンで空気を強制的に圧縮し吸気に使うことで、パワーを増大させるのがスーパーチャージャー。排気圧を使うターボのようなタイムラグがなく、低回転からパワー増大効果が得やすいのが特徴だ。
GPZ900Rは当時の世界最速250km/hを誇ったが、1999年にスズキ GSX1300Rハヤブサ(最高出力175ps/9800rpm)が300km/hを余裕で超えて以降、300km/hリミッター装着とそれ以上の速度目盛りを記さない方向へ各社が自主規制。
ニンジャH2も300km/h超の性能を持つが、リミッターがかかる仕組みになっている。なお、量産車を時代で大別するなら、200km/hの世界を現実に近づけたのがCB750フォア(1969年)で、以降も性能進化は続き、GPZ900R登場の80年代半ばには、大排気量スポーツでの200km/h超のスペックは当然となった。
ちなみにH2シリーズのクローズドコース専用バージョンH2Rは、最高出力310ps(ラムエア加圧時326ps)/14000rpmで、わずか26秒で400km/hに到達する記録を残している。モーターサイクルがこの領域まで性能を高められた要因には、車両の動力性能、車体性能はもちろん、タイヤや空力特性の進化も欠かせない。
車体面「車重は−10kg、サイズもかなりコンパクトに」
GPZ900R=全長2200×全幅750×全高1215 軸距1495 シート高780(各mm) 装備重量249kg キャスター29度 トレール114mm タイヤ F120/80V16 R130/80V18
ニンジャH2カーボン=全長2085×全幅770×全高1125 軸距1455 シート高825(各mm) 装備重量238kg キャスター24.5度 トレール103mm タイヤ F120/70ZR17 R200/55ZR17
両車の車体サイズの違いを、どう見るかは人それぞれだが、全長はコンパクトになり、キャスター角&トレール量は結構変わっている。1980年代のGPZ900Rは、特に超高速域での直進安定性に対応すべく、車体長とホイールベースは長めとし、キャスター角はある程度寝かしてトレール量を稼ぐ手法が取られた。
だが、量産車のテクノロジーも進化し、コンパクトな車体でキャスターを立てトレールを短めとし、コーナリングでの俊敏さを狙った上でも、高い直進安定性を確保できることが、ニンジャH2カーボンのスペックを見て分かる。
1980〜1990年代を経て、2000年を越え、2020年代に突入しながらバイクは年々進化してきたが、最も大きいのはフレーム、サスペンション、タイヤといった進化だろう。そして、これらの恩恵で今のスポーツモデルは成り立っているものの、人間様(乗り手)の方はどうなのか。
■GPZ900Rのフレーム。メインフレームはダイヤモンド形式でスチール製の丸パイプ、シートレールはアルミの角パイプ。その二つをステップホルダーに当たるアルミ製パーツで結合する構造。低振動エンジンゆえに成立した骨格だ。なお、ホイールは初期=A1からA6までがフロント16/リヤ18インチなのに対し、1990年型=A7以降はフロント17インチ化と、前後ホイール&タイヤのワイド化を実施。
■ニンジャH2Rのストリップとメインフレーム。過給機付きエンジンが、複雑な構造のフレームに支持されているのが分かるが、アルミツインスパーフレームでなく、スチールトレリスを採用したのは、熱をこもらせずエンジンの放熱性を高めたかったこと、そのために自由度の高いフレーム造形にしたかったなどの意図があるという。
「30年以上経てば」アラ還を前に、人間側の性能は徐々に退行する……1
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