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原付の講習なんてあったっけ?
2023年7月から「特定小型原動機付自転車」という新しい制度の基づく車両が路上を走ることになっています。この特定小型原付というのは、いわゆる電動キックボードのことです。
ニュースなどで「16歳以上であれば、無免許&ヘルメット不要で乗ることができる次世代モビリティ」として紹介されていることも増えていますので、その存在を認知している方は多いのではないでしょうか。
無免許で乗れるということは、当然ながら運転に関する教習はまったく受けていなくても乗ることができるわけです。その危険性について問題視する声も多く、たとえば「原付バイクでさえちゃんと実技を伴った講習があるのに」という指摘もあるようです。

ところで、多くの人が50cc以下の原付バイクを運転するきっかけになったのは、原付免許もしくは普通四輪免許を取得したことだと思います。
原付免許において実技試験はなく、筆記試験をクリアすればいいのですが、免許を取得するためには「公安委員会の行う原動機付自転車の運転に関する講習」いわゆる原付講習を受ける必要があります。
これは道路交通法によって定められている講習です。安全運転の第一歩として、講習では実際に原付バイクに乗ってアクセルやブレーキの操作方法を体験したり、二輪車の特性について学んだりするものです。
原付バイクに乗るためには講習の受講が定められているのであれば、特定小型原付においても同様の講習は必要だ! という指摘も理解できます。

しかし、このような議論において本題とは異なった疑問が、一部のベテランドライバー&ライダーから上がっているようです。
それは「原付講習なんてあったっけ?」というものです。
原付講習が始まったのは平成4年から。それ以前は実技講習なしで路上に飛び出していた
これに対して「講習を受けたことを忘れているような老害は運転する資格がない」と憤慨している方もいるようですが、一定以上のドライバー&ライダーにとって原付講習についての疑問はもっともなものなのです。
なぜなら道路交通法改正によって原付講習が新設されたのは平成4年11月1日(施行日)だからです。平成4年(1992年)以前は、原付講習は必ずしも受けなければならないものではありませんでした。
筆者は昭和40年代生まれで、原付免許や四輪免許を取得したのは1980年代の話ですが、思い出してみると、たしかに当時は原付免許取得時に実技を伴う講習を受けた記憶はありません。
似たような講習はあって、希望者のみ原付バイクに乗ることができたり、その模様を見学したりすることはできましたが、決して義務といった雰囲気ではありませんでした。
1986年まではヘルメット着用義務もなかった
そもそも1986年までは、原付バイクに乗るときにヘルメット着用が義務化されていなかったのです。そうした状況もあって、ユーザーマインドとして原付バイクに乗ることに緊張感もなく、筆記試験にさえ通ってしまえば問題なし、という時代だったと言えます。
とはいえ、1980年代の原付バイクといえば、水冷エンジンのモデルが続々と登場していた時代。1983年に原付バイクに60km/hリミッターが付くようになるまでは最高速が80km/hを超えるモデルもありました。
もちろん当時から原付バイクの制限速度は30km/hでしたから、公道でそこまでスピードを出すことは違反だったのは言うまでもありませんが。


いずれにしても、制限速度を軽々と超えるようなパフォーマンスを持つ原付バイクをノーヘルで乗ることが合法だったのが昭和でした。そうした時代背景を考えれば、原付講習が定められていなかったというのも納得でしょう。
逆にいえば、令和の現在において特定小型原付を無免許&ノーヘルで乗ることを認めているというのは、どこか昭和的なマインドを引きずった制度設計といえるのかもしれません。
電動キックボードについてはシェアリングビジネスでの活用が想定されています。コロナ禍における消毒・除菌の対応を考えると、ヘルメット着用を義務化することが現実的ではないという事情もあるのでしょうが……。
レポート●山本晋也 写真●阪神自動車学院/八重洲出版/ホンダ